第11話 この世界の伝説
ナザル伯爵に言われて、僕とギンはメアリーと一緒に王立学園に入学することになった。入学試験に備えるため、当分はナザル伯爵の館に泊まっている。勉強の休みの日に、メアリーに連れられて教会へと来た。教会で不思議な声を聞いたが2人には内緒だ。そして、教会を出たところで、孤児院の子ども達が清掃活動をしていた。
「シン君。ギンさん。この子達は教会の隣に併設されている孤児院の子達なのよ。こうやって街の清掃活動をして、国からお金をもらっているの。」
ここで、ギンが感慨深げに言った。
「偉いですね。あんなに小さいのに。」
「そうね。彼らは何らかの事情で両親がいないのよ。可哀そうだよね。」
「戦争か何かなの?」
「戦争じゃないわ。生活が苦しくて捨てられたのよ。中には両親が病気やけがで死んでしまった子もいるけどね。」
「そうなんだ~。」
僕も両親がいない。もしかしたら僕もあの森に捨てられたのかもしれない。そう思うと、彼らに何かしてあげたい気持ちになってくる。
「あのさ~。メアリ~。孤児院に何かしてあげられることはないかな~?」
「それだったら、お金か食料を寄付するといいわね。喜ばれるわよ。」
今の僕は寄付できるほどのお金も食料も持っていない。今回は諦めるしかなかった。
「シン君は優しいんだね?」
「どうして?」
「今、寄付できないことを残念に思ったでしょ?」
「えっ?!なんでわかるの?」
「レイ君はすぐに顔に表れるからね。」
メアリーに言われるまで、そんなこと意識したことがなかった。そして、僕達は孤児院に挨拶をしに行くことになった。僕達が行くと、シスターが出迎えてくれた。
「あっ、メアリー様。ようこそおいでくださいました。いつもお父上にはよくしていただいて感謝しております。」
「シスター。ミーアはいる?」
「ええ。いますよ。」
シスターがミーアを呼びに行った。
「メアリー。ミーアって猫獣人のミーアのこと?」
「そうよ。どうしてシン君が知ってるの?」
「冒険者ギルドで一緒になったからね。」
「そうだったの~。」
すると、そこにミーアがやってきた。
「あれっ!どうしているシンとギンがいるにゃ?」
「彼らは私の家にいるのよ。」
「メアリーの家にいるにゃか?」
「まあね。王立学園の入学試験が終わるまでだけどね。もし合格すれば、僕もギンも寮に入るから、それまで世話になってるんだよ。」
「へえ~。シンとギンも王立学園に行くにゃか?私も行くつもりにゃ!そのために冒険者を頑張ってるにゃから。」
「この前、言ってたもんね。」
「ねぇ。ミーア、これからシン君とギンさんに街を案内するんだけど、一緒に行かない?」
「ダメにゃ!勉強があるにゃ!今日は行けないにゃ!」
「そう。残念ね。でも、入試が終わったら一緒に行こうね。」
「そうするにゃ!」
僕達は孤児院を後にした。それから大通りを歩いて中央広場まで来た。中央広場の周りには屋台が沢山出ていた。
「なんかお腹すかないか?」
「そうね。何か食べましょうか?」
僕とメアリーは、柔らかいパンにホーンラビットの肉と葉野菜が挟んであるサンドパンを買った。ギンは肉串だ。
「これ最高に美味しいな~。」
「ほんと、これ美味しいわ~。」
僕とメアリーがあまりにもおいしそうに食べていたので、早々と肉串を食べ終わったギンが羨ましそうに見ていた。
「ギン。これ食べるかい?」
「いいんですか?」
「ああ、いいよ。でも一口だけだからね。」
「はい。」
僕が差し出したパンをギンが美味しそうに食べた。まるで恋人同士だ。そうなると、メアリーは我慢ならない。
「シン君。贔屓よ。私にも食べさせて!」
「だって、メアリーは自分のがあるじゃないか。」
「私もシン君に食べさせてほしいの!」
「わかったよ。はい。」
「あ~ん。」
メアリーは満足げだ。3人が食べ終わると今度は街を守る壁に上った。
「シン君。どうしてここにこんな大きな壁があるか知ってる?」
「いいや。知らないさ。」
「私も本を読んだだけだけどね。大昔にね。いろんな種族が入り混じって大きな戦争があったんだって。ドラゴンもいたらしいわよ。それで、この街を守るために作られたんだって。」
「ドラゴンもいたの?」
「そう書いてあったよ。」
「この前、ナザル伯爵が言っていた戦争のことだよね。」
「恐らく同じだと思うわ。」
するとギンが言ってきた。
「私もその話聞いたことがあります。魔族が他の種族に戦争を仕掛けたって。それで、各種族が協力して魔族に対抗しましたが、魔族が強くて犠牲者が多く出てしまったと。そこに、ドラゴンが現れて戦争を終わらせたって聞いたことがあります。」
「そのドラゴンってまだ生きてるのかな~?」
「どうでしょう?太古の話ですから、もうすでに死んでしまったかもしれませんね。」
するとメアリーが話を続け始めた。
「私が見た本にはこう書いてあったわ。『世界に闇が訪れ再び戦乱が繰り返されるとき、神の使命を受けたものが現れ、この世界を救うだろう』ってね。」
「へ~。凄い伝説だね。」
「まあ、平和な今の時代には無関係な話かもしれないわね。行きましょ!」
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