第10話 オリント教会の7大神
僕とギンはメアリーと一緒にナザル伯爵の館に来た。そこで、ナザル伯爵といろんな話をした。僕の能力とギンのことについては秘密にして、ある程度のことを話した。ナザル伯爵は僕達のことを信用してくれたようだ。ナザル伯爵がメアリーを見ながら僕とギンに言ってきた。
「シン君もギンさんもメアリーと同じくらいの歳だ。よかったらメアリーと一緒に王立オリント学園に入学しないかい?」
「えっ?!」
突然の話だ。僕は戸惑った。
「以前話した通り、メアリーは私の一人娘だ。この子の母親はこの子が小さい時に死んでしまっていないんだ。そのためか、メアリーは寂しがり屋で人見知りになってしまってな。君達が一緒に学園に入学してくれたら、メアリーも寂しくないだろうしな。」
“どうするんですか?シン様。”
“ギンはどうしたい?”
“私はシン様に従うだけです。”
僕は考えた。かなり考えた。僕が街に出た理由はいろんなことを経験したいからだ。学園がどんなところかは知らないが、恐らくこの世界の知識や魔法の知識を学ぶところなのだろう。物凄く興味がある。だが、すでにナザル伯爵とメアリーには僕の秘密が多少知られてしまった。そこで、ナザル伯爵に聞いてみた。
「僕とギンのことは他の人達に秘密にしてもらえるんですよね?」
「当然だよ。」
「安心して、私も誰にも言わないわよ。」
「わかりました。なら、メアリーと一緒に入学しましょう。」
「そうかそうか。良かったな。メアリー。」
「はい。シン君。ギンさん。よろしくね。」
「こちらこそ。」
その日からナザル伯爵の館に泊まることになった。そして、1週間後の入学試験に向けて僕とギンの猛勉強が始まった。ギンは計算が苦手なようだ。かなり苦労している。
「ギンさん。そこの計算が違ってますよ。258を3で割ったら86ですから。」
「ああ。本当ですね。」
ギンが苦労している計算が、不思議と僕には物凄く簡単に感じた。ただ、魔法の詠唱を覚えるのは苦手だ。なにせ、僕は魔法を使うときに詠唱などしないのだから。
「メアリー。魔法を使う時に詠唱とか必要なの?」
「えっ?!シン君は詠唱しないの?」
「うん。詠唱なんてしたことないよ。」
すると、ギンも同じ反応だ。
「私も詠唱なんてしないですよ。」
「シン君もギンさんも無詠唱ってこと?」
「そうかな~。でも、魔法に名前のあるものは名前を唱えるよ。そうでないものは自分で名前を付けてるけどね。そうしないとイメージがわかないからさ。」
メアリーがすごい勢いで驚いている。
「名前のない魔法って、な、何?」
「名前がないって言うか、名前を知らないものっていう方がいいかな。だって、魔法ってイメージが大事でしょ?」
「そ、そうなの~!はじめって知ったわ!クチマシティーで習った家庭教師の先生はそんなこと一切言ってなかったもん!」
これ以上話をするととんでもないことになりそうなので、この辺で話をやめた。それから数日して、メアリーが言ってきた。
「今日は勉強はお休みよ。シン君。ギンさん。一緒に街に行こうよ。」
「本当ですか?メアリー様。」
ギンは勉強しなくて済むと思ったのか、ものすごく喜んでいた。そして、僕達は貴族街を抜けて王城の前を通って教会へと行った。
「ここには、この世界を管理されている7大神様達が祭られているのよ。」
以前同じ場所に来たことがある。ミーアを送ってきた時だ。だが、教会の中には入ったことがなかった。
「そうなの?じゃあ、この世界はその7大神様が作ったの?」
「違うわ。7大神様以外に創造神様がいらっしゃるのよ。デウス様よ。」
「どうしてデウス様は祭られてないのさ。この世界を作ったのはデウス様なんでしょ?」
「そうなんだけど、伝承でも伝記でもデウス様について知られているものが少ないのよ。だから、像を作りたくても像が作れないの。」
「そうなんだ~。」
それから、メアリーが7大神についての説明を始めた。
「7大神様にはそれぞれ役割があるのよ。武神様、生命神様、魔法神様、農業神様、冥府神様、商業神様、そして管理神様ね。神様に好かれると加護が与えられることもあるらしいわよ。噂だけどね。」
「噂なの?」
「そうよ。だって、加護を持ってる人なんて今までいなかったもん。もしかしたら、秘密にしていたのかもしれないけどね。」
「加護をもらったかどうかはどうやってわかるの?」
「そんなこと知らないわよ。加護をもらった人を知らないんだから。」
「それもそうだね。でも、メアリーはよく知ってるね?」
「当然じゃない。だって、学園の入学試験にもでるもの。せっかくだから中に入って7大神様にご挨拶していきましょ。」
メアリーに誘われて僕とギンは教会の中に入った。教会の中には人がいっぱいいた。その中でも、特に白い服を着た人達が目についた。
「メアリー。あの人達は何なの?」
「彼らはこの教会の人達よ。首から袈裟のようなものをかけてる方が司祭様達よ。でも、大司教様はめったにお会いすることはないわね。」
「大司教様ってそんなに偉い人なの?」
「そうよ。この国の教会のトップだもん。」
右側に部屋の前には病人らしき人達や怪我人らしき人達が並んでいた。すると、ギンも気になったのかメアリーに聞いた。
「メアリー様。あそこにいらっしゃる方々はどうなされたんですか?」
「彼らは教会で治療してもらってるのよ。司祭様達は『ヒール』が使えるからね。病気や怪我を治してあげてるの。」
確かに家にあった本の中にも書いてあった。確か『ヒール』『リカバリー』のような治癒魔法があると。でも、僕は近くで薬草が取れたので、使うことがなかった魔法だ。
「この奥に7大神様の像があるの。奥に行きましょ。」
教会の奥には7つの巨大な石像が立ち並び、部屋の中央に礼拝できる場所があった。神様達だとは分かったが、名前も何の神様なのかもわからない。取り合えず、メアリーの真似をしながら像に向かって拝んだ。すると、念話のように頭の中に声が聞こえた。
“よく来たわね。シン。この世界でも頑張るのよ。みんなで見守ってますからね。”
「えっ?!」
僕は自分の近くを見渡した。だが、メアリーとギン以外には誰もいなかった。
「どうしたの?シン君!」
「いいや。別に何でもないよ。」
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