第7話 獣人族のミーア

 店先にはナイフのような刃物や金属の鎖のような物が置いてあった。そして、店の中に入ると、金属製の服のような物、太い剣、細い剣、短い剣、大きな斧のような物、金属製の頭にかぶるものなんかが置いてあった。思わず、僕はキラキラ光る剣を手に取っていた。



「お前さん、若いのに凄いな~。その剣の良さが一目でわかるとはな~。」



 店の奥から背の低い毛むくじゃらな男性が出てきた。



“シン様。ドワーフ族です。”


“ありがとう。”



「たまたまです。この剣が光って見えたので。でも高いんですよね?」


「まあな。お前さん達は新人の冒険者か?」


「はい。そうですけど。」


「やはりな。その剣は大金貨8枚はする代物だ。お前さん達にはまだ無理だろうな。ハッハッハッ」



 空間収納に仕舞ってある魔獣をすべて売ればなんとかなるかもしれないが、それでは目立ってしまう。今は諦めるしかないだろう。



「いいものを見せていただいてありがとうございました。買えるようになったら来ますね。」


「ああ、頑張れよ。待ってるからな。」



 なんか気のいいドワーフだった。こんな人ばかりならいいのにと思ってしまう。



「そろそろギルドですよ。」


「そうだね。面倒になるのは嫌だからすぐに掲示板に行くよ。」 


「はい。」



 僕達がギルドに入って行くと、受付のミオラが話しかけてきた。



「あら、シン君にギンちゃんじゃない。昨日はごめんなさいね。しっかりギルマスに叱ってもらったから。あいつらは当分ここには来ないわよ。」


「そうですか。」


「でも、不思議なのよね。」


「どうしたんですか?」


「昨日、シン君達が絡まれていた時、突然彼らの足が動かなくなったじゃない?でも、あの後すぐに治ったのよ。一人だけならわかるけど、3人とも同じ症状なんてありえないわよ。」


「神様が罰でもあてたんじゃないですか。」


「そうかもね。それで、今日はどうしたの?何か依頼でも受けに来たの?」


「はい。」


「なら、掲示板から剥がしてここに持ってきて。受け付けるから。」


「はい。」



 僕は掲示板まで行った。掲示板の前には何人も冒険者達がいる。より好条件の依頼は早い者勝ちのようだ。僕が手を伸ばして薬になる茸の採取の依頼を剥がそうとすると、同じ紙を剥がそうとした者がいた。



「これは私が先に見つけたにゃ!」



 見てみると獣人族の少女だった。どう見ても僕よりは年上に見えた。身長も胸も大きかったのだ。



「いいよ。僕達はこっちの依頼を受けるから。」



 僕は薬草採取の紙を剥がして受付に持って行った。薬草採取よりも、少しだけ薬草茸の方が条件が良かった。



「シン君。この薬草のこと知ってる?」



 森の中にいた時にいつも採取していたのでよく知っていた。



「はい。大丈夫です。」


「なら、西の森に自生しているからそこに行くといいわよ。」


「ありがとう。」



 僕とギンは西門から出て森に向かった。誰に見られても困るので、ギンはそのまま人間の姿をしている。



「キャー 助けてー!」



 森の中から悲鳴が聞こえてきた。僕とギンは急いで向かった。すると、先ほどギルドにいた獣人族の少女がオーガの集団に囲まれていた。初心者の冒険者には無理な相手だ。



「どうしますか?」


「仕方ない!助けるさ!」


「ならば、私も姿をもどします。」


「頼むよ。」



 僕とフェンリルの姿に戻ったギンはオーガに襲い掛かった。オーガ達は不意を突かれたせいか、少女をそのままにして僕達に意識を向けた。僕は少女に気付かれないように剣に風魔法を付与した。そのせいか、切れ味がかなり鋭い。一刀でオーガの身体が2つに分かれる。ギンもオーガの首を噛み切って回った。どれくらい時間がたっただろうか、10体ほどいたオーガはすべて死んでいた。



「大丈夫?」


 

 気を失っていた少女を揺り起こすと、少女が目を覚ました。ギンは再びに少女の姿に戻っている。少女は僕を見て驚いた。



「君は?!」


「2度目だね。」


「さっきはごめんなのにゃ!」



 そして、周りを見て再び驚いていた。



「オーガはどうしたにゃ?それに大きなシルバーウルフがいたにゃ!」


「大声で叫んだらオーガは逃げちゃったよ!でも、シルバーウルフなんていなかったよ。」


「そうかにゃ~。見間違えたのかな~。でも、地面に血痕がたくさんあるにゃ。」


「ああ、なんとか1匹は怪我させられたからね。」


「そうにゃのか。本当にありがとうにゃ。君は命の恩人にゃ。」


「いいよ。それよりも薬草茸の採取は?」


「ああ、そうだったにゃ。早く見つけるにゃ。」



 僕は薬草と薬草茸を探知魔法で次々に見つけていく。人の姿になってもギンの鼻は人間の数万倍もよい。次々と薬草と薬草茸を見つけて行った。



「もう十分にゃ。」


「じゃあ、ギルドに戻ろうか。」



 帰り道でいろいろ話した。彼女の名前はミーアというらしい。王都の孤児院で暮らしているようだ。薬草茸の依頼を受けたのも、孤児院の運営資金と学園の入学資金を稼ぐためのようだった。



「シンとギンは幼馴染にゃのか~。いいにゃ~。2人で旅をして楽しそうにゃ。私も旅をしたいにゃ~。」


「でも、当分は王都で暮らすつもりだよ。」


「そうにゃのか?なら、また一緒に依頼を受けるにゃ。」


「そうだね。」



 僕達は冒険者ギルドに戻り、薬草と薬草茸をミオラに渡した。僕は大銀貨2枚、ミーアは大銀貨3枚を受け取った。



「ミーアの暮らしている孤児院ってどこにあるの?」


「あそこにゃ。」



 ミーアの指さした先には大きな建物があった。



「あそこはオリント大教会にゃ。その隣にあるにゃ。」


「なら、送って行くよ。」



 僕とギンはミーアと一緒に孤児院に向かった。孤児院の近くでは子ども達が街の清掃活動をしていた。



「偉いね。みんな。」


「国からお金をもらえるにゃ。あの子達はまだ冒険者になれないにゃ。だから、ああやってお金を稼ぐにゃ。」



 なんか感心してしまった。僕もそうだが、両親が何もかもやってくれるのでなく、自分達の力で生きて行こうとしているのだ。



「ミーア。じゃあ、またね。」


「うん。また、一緒に薬草採取するにゃ。」

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