第6話 王都の宿屋『幸福亭』
僕とギンは王都オリントに来る途中で、魔物に襲われていた馬車を助けた。馬車に乗っていたのはこの国の貴族でナザル伯爵とその娘メアリーだった。僕は、父と母が王都に住んでいると誤魔化して馬車を降りた。そして、ギンの冒険者登録をしようと思って、ギルドにやってきた。僕達がギルド内に入ると、中にいた冒険者達が一斉にこっちを見てきた。
「いらっしゃい。何か用?」
「はい。この子の冒険者登録をお願いしたくて。」
僕は冒険者カードを見せた。すると、女性がニコニコしながら言ってきた。
「可愛い冒険者さんね。いいわよ。なら、この紙に名前を書いてくれる?」
ギンが紙に名前を書いた。そして、いよいよ登録だ。僕は自分と同じ過ちをさせないようにギンに言った。
“ギン。次は銅板の上に手を置いて魔法の適性を測るから偽装してね。”
“はい。承知しています。”
思った通り、今度はギンが銅板の上に手を置いた。すると、銅板は光ったが、僕の時のような変化は起きなかった。そして、冒険者カードを渡された。
「シン君とギンちゃんね。私はミオラよ。よろしくね。ところで、二人はどこから来たの?」
「クチマシティーです。」
「遠くから来たのね?それで、どこか泊まる当てはあるのかな?」
「いいえ。まだ来たばかりですから。」
すると、後ろから厭らしい目つきの男達が声をかけてきた。
「おい。お前ら田舎から出てきたばかりの新人だろ!なら、俺達が泊るところぐらい案内してやるぜ!」
「いいえ。結構ですから。」
「そういうなよ。」
「やめなさいよ!あんた達!ギルマスに言いつけるわよ!」
「ふん!ギルマスが不在なのは知ってるんだぜ!それより、お前達、俺達について来いや。先輩の言うことが聞けねぇのか!」
なんか面倒だ。僕は魔法で彼らの足を動かないようにした。
「あれっ!足が動かねぇぞ!」
「俺もだ!」
「一体どうしなってるんだ!」
僕とギンは知らない振りをしてその場から立ち去った。そして、ミオラに聞いた宿に向かうことにした。
「良かったんですか?シン様。」
「別に構わないさ。僕がやったなんて誰にも分からないもん。それに、もう治ってるはずだよ。」
「そうなんですね。さすがはシン様です。」
「あのさー。ギン。この際だから言うけど、人前で『シン様』はおかしいよ。」
「どうしたらいいですか?」
ここで考えた。兄妹にするには見た目の年齢が近すぎる。そこで、幼馴染という設定にすることにした。
「僕達は幼馴染ということにしよう。これからは『シン』とか『シン君』とか呼ぶようにして。」
「わかりました。」
そんな話をしていると、目の前に美味しそうな匂いを漂わせている屋台があった。隣でギンがゴクリと生唾を飲み込むのが分かった。
「あそこの屋台によろうか?」
「いいんですか?」
「まだ敬語になってるよ!」
「すみません。注意します。」
「ほら、言いてる先から敬語だ!ハッハッハッ」
僕達は屋台で肉串を2本買った。
「美味しいね。ギン。」
「は、う、うん。美味しい。」
最初はなかなか敬語を治すのは難しいかもしれない。そのうち慣れるだろう。
「さあ、宿屋に行くよ。」
「確か~、『幸福亭』でしたよね。」
僕達は街をキョロキョロしながら探した。なんか、すれ違う人達がみんな僕達を見てくる。最初の街でもそうだった。
「やっぱり、シンさ、君。人気があるんですよ。」
「違うさ。ギンが可愛いからだよ。」
「えっ?!私って可愛いですか?」
「まあね。」
なんかギンが上機嫌だ。僕の手を握ってきた。そして、何とか『幸福亭』を見つけて中に入ると、そこには女の子と母親らしき女性がいた。
「いらっちゃい!」
なんかすごく可愛らしい。
「二人かい?」
「はい。」
「部屋はどうするんだい?一部屋かい?それとも二部屋かい?」
「一部屋で結構です。そうかい。そしたら、一人一泊二食付きで銀貨5枚でいいよ。」
「なら、10日分払っておきますけど。」
「そうかい。なら、晩御飯のおかずは毎日1品サービスするよ。」
「ありがとうございます。」
僕達は案内された部屋に行った。幸いなことにベッドは2つあった。以前の宿ではベッドが一つだったので少し狭く感じたのだ。
「これからどうしますか?」
「そうだね。まずはしばらくこの街を歩き回ってみるさ。ただ、資金のことを考えると冒険者の仕事も受けないとね。」
「わかりました。」
僕達が食堂に行くと、女の子がお手伝いをしていた。
「お父ちゃんの料理、おいちいよ。」
「偉いね。お手伝いして。僕はシンだよ。」
「私はギンです。」
「わたちはミミだよ。」
「そうか~。ミミちゃんか~。可愛い名前だね。」
すると、キッチンから女将が料理を運んできた。パンにスープ、サラダに肉料理に煮込み料理がついていた。
「この煮込みはサービスよ。ミミ、あなたもご飯を食べなさい!」
「はーい。」
煮込み料理には肉がごろごろと入っていた。その肉が口の中に入れると、噛まなくても蕩けてなくなっていく。
「美味しい!これすっごく美味しい!」
「本当です!毎日でも食べたいです!」
「良かったわ~。お口にあって。」
僕とギンは、思わず別料金を払って煮込み料理をおかわりした。そして、その日は疲れていたせいか、ベッドで横になるとすぐに眠りについてしまった。翌朝、朝食を取った後、僕とギンは街に出た。
「どこに行くんですか?」
「昨日の冒険者ギルドに行くさ。仕事をしないとね。」
「わかりました。」
一日寝たらギンの口調が完全に元に戻っていた。でも、もう気にするのはやめることにした。
「やはり、凄い活気ですね。」
「そうだね。ギン。昨日も気になったんだけど、あの店に寄ってみないか?」
「ええ、いいですよ。武器屋ですね。」
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