第3話 初めての街

 そして翌朝、再び街に向かった。丁度太陽が頭の上に来る頃に街が見えてきた。初めての街だ。なんかワクワクしてきた。街の手前までくると、『ようこそ!クチマシティーへ』と看板があった。街の様子を見ると、たくさんの人達がいた。中には耳が尖った人や頭から耳が出ている人達もいた。家もたくさんあってものすごく賑やかだ。僕とギンは街の中に入った。犬を連れている者がいないせいか、僕は少し目立ったようだ。



「あの男の子、犬を連れてるわよ。」


「本当だ。可愛いわね~。どこの子かしら。」



 なんかやたらと女性達が僕を見てくる。僕は慌てて自分の服装をチェックした。僕の服は家の中にあったものだ。不思議だが、大きかったり小さかった服も僕が着ると丁度良い大きさに変わった。だから、家にあった服はすべて空間収納に仕舞って持ってきている。



“みんなレイ様を見てますね。”


“どうして?”


“シン様は整った顔立ちをしてますから。”


“そうなの?そんなこと気にしたことないよ。”


“銀色の髪に青い瞳、それに透き通るような肌。どこからどう見ても美少年ですよ。”


“そうだったんだ~。どうでもいいんだけどね。それより、この後どうしようか?”


“冒険者ギルドに行って、森で助けたガンジとかいう人達を訪ねてみたらいいですよ。”


“わかった。そうするよ。”



 僕はギンを連れて冒険者ギルドに向かった。初めての街だ。ギルドがどこにあるのかわからない。キョロキョロしながら歩いているといろんな店が目に飛び込んできた。服を売っている店、武器を売っている店、店の前で食事をしている店、野菜を売っている店、いろんな店があった。



“ギンが言った通りだね。人の街っていろんなものがあるんだね。”


“そうです。でも、どれもお金を支払う必要がありますから、注意してくださいね。”



 家にあった本の中に人族の生活について書かれていた。それぞれの国にお金が存在する。欲しいものがある時は、そのお金を使って買わなければならない。因みに僕もお金を持っている。家の机の引き出しにいろんなお金が入っていたからだ。それも全部空間収納に仕舞ってきた。



“シン様。もしかしたら、あそこが冒険者ギルドかもしれません。”



 ギンの指さす方を見てみると剣と盾の看板があった。付近には剣を持った男性や杖を持った女性がいる。僕は冒険者ギルドに入って行った。すると、目の前に受付のカウンターがあり、そこに女性が3人ほどいた。



「ギルドに何か用事かな?」


「はい。このギルドにガンジさんって人がいますか?」


「あら、ガンジさんの知り合いなの?なら、少し待ってれば来るわよ。」



 カウンターの中の女性達が何かこそこそ話をしている。僕は魔法で彼女達の会話を聞いてみた。



「あの子どこの子かしら。すっごく可愛くない?」


「なんかガンジさんに用事があるようよ。」


「もしかしたらガンジさんの隠し子だったりしてね。」


「それはありえないわよ。だって、全然似てないもん。」


「それもそうね。」



 そこにガンジさん達4人組がやってきた。僕を見て驚いたようだ。



「おお!シンじゃねぇか。森から出てきたのか?」


「はい。僕も街で生活したくて。」


「そうかそうか。森の中じゃあつまらんからな~。こっちに来いよ。森のお礼をしてなかったからな。」



 ガンジさん達の後ろについていくと、受付の左側にある酒場のような場所に行った。



「腹減ってないか?何でも注文していいぜ!俺のおごりだ。」



 注文していいと言われても何をどうすればいいのかわからない。



「ガンジ。シンが困ってるじゃねぇか。シン。ここに書かれている物の中で、何か食べてみたいものはあるか?」



 ヨハンが聞いてきた。書かれた紙を見てもどんな料理なのかわからない。そこで、適当に言ってみた。



「じゃあ、これ。」


「わかった。スタミナ定食だな。」



 昼間なのに、ガンジ達はお酒を飲み始めている。僕の前にはスタミナ定食が運ばれてきた。山盛りの肉に山盛りの野菜、それに大きな器の中にスープがいっぱいだ。どれも美味しそうだ。ただ、家で食べていた柔らかいパンとは違う固いパンだった。



「さあ、遠慮なく食ってくれ。」



 僕が料理を口に運ぶとどの料理も味が薄い。パンに至っては固くて食べられない。すると、カルスが教えてくれた。



「シン。お前、パンの食べ方を知らないのか?パンはスープに入れて柔らかくして食べるんだ!」



 僕は言われた通りパンをスープに浸して食べた。ベチャベチャして美味しくない。仕方がないので我慢して食べたが、半分ほどでお腹がいっぱいになってしまった。



「やはりシンにはまだ完食は無理だったな。残りは俺達がいただくぜ。」



 ガンジ達は僕の食べ残しをガツガツと食べている。そして、食べ終わるとガンジが聞いてきた。



「シン。お前、街で暮らしたいんだろ?」


「はい。」


「なら、お金を稼がないといけねぇな。どうだ?冒険者登録しないか?お前とそっちの犬なら、すぐにDランクぐらいにはなれると思うぜ。」



 ガンジの発言を周りにいた冒険者達が聞いていた。



「おい!ガンジ!最近Bランクになったからって少し調子に乗ってるんじゃねぇか?そんなガキがDランクになれるわけがないだろうが。」


 

 するとガンジが男に向かって大声で怒鳴った。



「お前はシンの強さを知らねぇからそんなこと言うがな~。シンはな~・・・」


「ガンジさんやめてください。僕のことはいいですから。」



 すると、ガンジも気が付いたのか話をやめた。



「シン。すまなかったな。そうだよな。お前が森に閉じこもっていた理由を考えれば、ダメだったな。悪い悪い!つい酔っぱらちまったようだ。」


「いいですよ。それより、冒険者になるにはどうしたらいいんですか?」


「ああ、あそこの女性に聞いてみろ。教えてくれるから。」


「はい。」



 僕は受付に行った。



「あら、今度は何の用?」


「あの~。僕、冒険者登録したいんですけど。」


「君は何歳なの?冒険者は12歳からしか登録できないのよ。どう見ても10歳ぐらいじゃないの?」



 言われて思った。僕は自分の年齢を知らない。そこで、思わず嘘をついてしまった。



「12歳です!」


「本当?なんか12歳には見えないんだけどな~。」


「本当です。本当に12歳ですから!」



 受付の女性は僕の勢いに負けたのか、冒険者登録をしてくれることになった。女性に言われた通り紙に名前を書いて、銀貨3枚を渡した。銀貨はポケットの中から出すふりをして、空間収納から出した。



「ちょっと待っていてくれるかな。すぐに用意するから。」



 受付の女性が何やら金属の板を持ってきた。そこに僕が名前を書いた紙が置いてある。



「シン君ね。なら、この銅盤の上に手を置いてくれるかな。」



 僕が銅盤の上に手を置くと手がやたらと熱くなった。そして、銅盤が眩しく光り始めたのだ。受付の女性達が驚いて見ている。そして光が収まった後、カードが出来上がっていた。



「こんなこと初めてよ。シン君って、もしかして魔法が使えるの?」


「どうしてですか?」


「だって、この銅盤は魔法の適性を調べるものよ。その銅盤があんなに激しく光るなんて、普通じゃありえないわ。」



 僕の様子を見ていたガンジ達がやってきた。



「アンナ。シンのカードはもうできてるんだろ?余計なことは詮索しないのがギルドのルールじゃなかったのか?」



 ガンジに言われてアンナが慌ててカードをくれた。



「ごめんなさい。あんまり不思議だったので。」


「当然だが、個人の情報を他に漏らすことはしないよな!」


「当然よ。絶対にこのことは言わないから。」



 すると、ガンジは他の受付の女性達にもくぎを刺していた。



「シン。行こうか。」

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