第2話 いざ!街へ

 僕は気が付いたら深い森の中にいた。そこで、魔法と剣の訓練をしながら過ごしていたが、銀色の子犬と出会った。ギンと名前をつけて共に暮らし始めた。それから1年経ったある日、僕は森の中で悲鳴を聞いた。狩人らしき人達がキングベアに襲われていたのだ。僕とギンはその様子を草の影から見ていたが、助けることにした。


僕とギンは草陰から飛び出した。そして、ギンがキングベアに襲い掛かり、その隙に僕は怪我をしている男性を仲間のところまで引きずった。



「き、君は?」


「そんなことどうでもいいです。それより早く逃げて!」


「君は逃げないのか?」


「目の前に大事な食料がいますから。」


「食料?」



 狩人達は不思議そうにしていたが、その場から離れてこちらの様子を見ている。



「ギン!待たせたね!」



 僕は背中から剣を抜いてキングベアに斬りつけた。だが、固い爪に弾かれる。今度は体勢を低くして足に斬りつけた。



「グオ———」



 キングベアは足から血を噴き出しながら地面に倒れた。そこをギンが襲い掛かる。キングベアの首元に噛みついたのだ。だが、それをキングベアが手で払いのけようとしている。僕は素早い動きでキングベアの右手を切断した。すると、キングベアは動かなくなった。どうやらギンが首の頸動脈を噛んで殺したようだ。



「おい!君!君は何者なんだ?」



 後ろから狩人達がやってきた。4人組の男性達だ。2人が怪我をしている。そこで僕は自分の家まで連れて行くことにした。だが、せっかく討伐したキングベアをそのままにはできない。そこで、空間収納に仕舞った。



「えっ?!君は魔法も使えるのか?」


「ええ。まあ。とにかく、怪我人を連れてついてきてください。」



 狩人達は僕とギンの後ろについてきた。



「ここが君の家かい?」


「はい。」


「家の人達はいるのかい?」


「いいえ。僕とギンだけですよ。」


「その犬はギンて言うのか。ありがとうな。ギン。」



 ギンは頭をなでられて気持ちよさそうだ。家の中に入って、僕は怪我人の治療を行った。保存してある薬草を怪我に塗り込んで、布を包帯代わりにして結んだ。



「ありがとうな。ところで、君の名前は?」


「僕はシンです。」


「俺はガンジだ。」



 他の3人はゲンタ、ヨハン、カルスというらしい。4人は冒険者で、領主の依頼でこの森の魔獣の討伐に来たようだった。



「ところで、シンはどうしてここに一人で住んでいるんだ?ここは魔獣の巣窟と言われる森だぞ!」


「気が付いたらここにいたんです。だから親も兄弟も知らないんです。」


「そうなのか~。いつからだ?」


「2年くらい前からです。」


「2年前って、お前さん、まだ子どもじゃないか?今よりも小さい時から一人で生活していたのか?」


「はい。そうですよ。」


「そりゃあ、強くなるわな~。だが、良く生きてこられたな~。」


「ええ。ギンもいましたから。」


「そうか~。確かにその犬は強いな。ところで、シン。お前、ずっとここで暮らすつもりなのか?」


「どうして?」


「森を抜けたところに俺達の街があるんだ。そこに行ってみたいと思わないか?」



 家の中に置いてあった本に書いてあった。確かここはアルベル王国にある森の中だ。当然、森を抜ければ街があることは知っていた。だが、人里に出ることに抵抗があったのだ。



「何か街に行きたくない理由でもあるのか?」


「いいえ。そんなことはないけど。」


「だったら来いよ。街はいいぞ~。いろんなものがあるしな。」


「少し考えます。」


「無理にとは言わんが、街に来た時は俺達を頼ってくれ!」


「ありがとう。」



 4人は自分達の街に帰って行った。



「シン様。どうして街にいかないのですか?」


「本に書いてあったけど、世界にはいろんな種族がいて争いがあるんだろ?僕は争いが嫌いなんだよ。」


「ですが、あの者が言っていたように街にはいろんなものがありますよ。この森の中では経験できないこともたくさんあります。」


「そうなの?」


「はい。実はシン様に助けられる前に、私は母と世界中を旅していましたから。」


「なら、お母さんは?」


「はい。母は人族に殺されました。私も命辛々逃げ延びたのです。」


「だって、ギンはフェンリルなんでしょ?人族なんかに負けないでしょ?」


「母は魔族との戦いで大怪我をしていたのです。それが原因で病気になり、かなり弱っていましたから。」


「そうだったんだ~。」


「はい。ですが、シン様に助けられて今は幸せですよ。」


「僕もギンと出会えて幸せだよ。一人で孤独で寂しかったからね。」


「やはり街に行きましょう。シン様。シン様にはこの世界を旅して、いろんなことを経験していただきたいです。」



 なんかギンの言葉で勇気が湧いてきた。



「わかったよ。なら、明日にでも街に行こうか。」


「はい。ただ、街にいるときは私との会話は念話でお願いしますね。」


「そうするよ。」



 翌日、僕は早朝から家の中の片づけをした。特に持ち出すような貴重品はない。そして、一応念のために認識疎外の魔法をかけて、森の中の風景と変わらないようにしておいた。



「シン様は転移魔法が使えますよね。」


「うん。使えるよ。」


「なら、ここに帰ってきたければいつでも帰って来れますね。」


「そうだね。街が嫌になったらまたここで暮らすよ。」


「そうならないと思いますよ。」



 僕とギンは森の中を歩いて移動した。一応、本に書かれているだけの魔法はすでにマスターしているが、それがどの程度のものなのか分からない。だから、不用意に人前で魔法を使うのは控えるようにと心に決めた。



「シン様。やはり、この森には魔物が多いですね。家を出てからまだ1日も経っていませんが、どれだけ魔物を討伐しましたか?」


「そうだな~。ゴブリンでしょ、ホーンラビットでしょ、イエロービーにグリーンマンティス。それにレッドボアとブラックベアかな。」


「やはり異常ですよ。あの男達が言った通り、この森は魔物の巣窟だったんですね。」


「そうかもね。でも、そのおかげで食料には困らなかったんだし、良かったと思うけどね。」


「普通の人族ならとっくに殺されていますよ。シン様が異常なんです。」



 なんかギンの言葉に不安を感じた。



「ギンは人族の世界を知ってるんだよね?」


「ええ。知ってますよ。」


「なら、他の人族と比べて僕は異常なの?」


「はい。シン様の強さは異常です。」



 なんかどんどん不安が大きくなる。



「なら、やっぱり街に行くのやめようかな~。」


「ダメです。せっかくここまで来たんですから。それに、シン様が自分の能力を見せなければいいだけの話ですから。」


「わかった。なら、そうするよ。」



 その日は森の中で野宿することにした。転移で一度家に帰っても良かったのだが、当分家には帰らないと決めていたからだ。

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