神様修行の旅
バーチ君
第1話 ここはどこだろう?
気が付いたら僕は山の中にある一軒家にいた。辺りに家はない。どうやら森の中のようだった。家の中にはベッドや家具、お風呂に台所まであった。そして、机の上には1本の剣と1冊の本が置かれていた。本を開くと、そこには『シンヘ』と書かれていて、ページをめくると家の説明、この世界のこと、魔法の使い方などが書かれていた。
「ここどこだろう?僕は何者なの?どうして僕はここにいるの?」
僕には何もわからない。不安で頭がいっぱいだ。僕は本を見ながら家の中を歩き回った。やはり誰もいない。人の住んでいる気配さえない。
「なんで誰もいないのさ~!」
一人でボーとしていると、やけにお腹がすいてきた。無造作に台所に置かれた籠を開けると中にはパンが入っている。でも、2つしかい入っていない。ここで全部食べてしまったら、次回の食料がなくなってしまう。パンを取り出した後に、一旦閉めた籠のふたをもう一度開けてみるとまたパンが元のように2つ入っていた。
「えっ?!どうして?もしかしたら、この籠は自然にパンが出てくるようになってるの?」
そんなことを思いながら、飲み物が入っていそうな瓶から近くのコップに注いでみた。すると、果実水が出てきた。恐る恐る一口飲んでも腐っていないようだ。お風呂も僕が浴槽にお湯をためたいと思えば、蛇口からお湯がでた。そんな不思議な生活が始まった。
「なんかよくできてるな~。」
最初は不安だらけだったはずなのに、お風呂、水道、トイレ、台所、灯り、すべてが遊び道具になった。だが、飽きるのは早いもので、しばらく遊んでいるとすぐに飽きてしまった。退屈を感じた僕は本をもって再び家の外に出た。本に書かれている魔法を試してみるためだ。
『魔力を循環させろ。』と書いてあるが何のことかわからない。
「どうすればいいのさ~!」
そこに、ゴブリンがやってきた。3匹いる。絶体絶命だ。
「どうしよう?」
剣は家の中に置いたままだ。ゴブリンが僕に気が付いた。手には錆びた剣や棒を持っている。そしてゆっくりと僕に近づいてきた。
「あっちに行け!来るな!」
「ギッ キッ」
「グギ ギョル」
なんか意味の分からない言葉をしゃべっている。そして、とうとう僕に向かって襲い掛かってきた。僕は必死に逃げたが、僕は子どもだ。すぐに追いつかれた。僕が躓いて転んだ瞬間、上からゴブリンが棒で叩こうとしてきた。僕は思わず手を前に出して言った。
『炎よ!出ろ!』
すると、僕の手から炎が出てゴブリンの顔に直撃した。ゴブリンはたまらず後ろに下がった。
「あれっ?今、僕、魔法を使った?」
今度はゴブリンに向かって手を前に出し、本に書かれていた魔法を口にした。
『アイスカッター』
すると、僕の手から鋭い氷が飛び出しゴブリン達を切り裂いた。
「もしかして、僕が魔法を使えたの?」
なんか嬉しくなった。でも、目の前にはゴブリンの死体がある。そのままに放置できない。そこで、穴を掘る魔法がないか本の中を探してみた。
「あったー!これだ!」
『グランドホール』
すると、地面に大きな穴が開いた。僕はゴブリン達の亡骸を穴に落とした。すると、不思議なことに地面の穴がどんどん塞がっていく。そして、元通りの地形になった。それからは毎日、遊びの感覚で本に書かれた魔法を練習するようになった。
そして、気が付いてから何とか1年が経った。僕は本を読みながら剣と魔法の訓練を続けている。最初は、森の中に行くのも不安で一杯だったが、今ではどんどん入っていける。何故なら、少しずつだが魔法も剣も使えるようになっていたからだ。ただ、この1年間僕はずっと一人だった。さすがに、遊ぶにしても一人の生活はつまらない。
「なんか、一人って寂しいな~。」
僕は声を出して独り言をつぶやいた。すると、草むらの方から音が聞こえた。
ガサガサッ ガサガサッ
僕は急いで背中の剣を抜いて構えた。もしかしたら、ゴブリンかもしれないからだ。すると、草陰から銀色の子犬が1匹姿を現した。よく見ると、足から血が出ている。怪我をしているようだった。
「おいで!」
僕が手を差し出すとその子犬は僕を威嚇してきた。
ウー、ウー
構わず僕が子犬に近寄って抱きかかえようとするといきなり手を噛んできた。
「痛ッ!」
噛まれた個所から血が出ている。それでも僕は構わず子犬を抱きかかえた。そして、家に連れて行き、足に薬草を当てて布を巻いて処置をした。お腹を空かしているようだったので、食料庫から先日討伐したばかりのホーンラビットの肉を取り出した。
「ほら、お食べ!」
子犬は目の前の肉にかぶりついた。相当お腹が空いていたのだろう。与えた肉を食べ終わると、子犬は僕の足元に来て甘えはじめた。どうやら敵ではないと分かってもらえたようだ。
クーン クーン
「僕の名前はシンだよ。君は?」
当然子犬が答えるわけもない。ただ、首をかしげているだけだ。そこで僕は子犬に名前を付けることにした。
「君の名前は銀色してるからギンだ。これからよろしくね。」
アン アンアン
ギンは尻尾を左右に勢い良く振っている。恐らく喜んでいるのだろう。それからギンとの生活が始まった。ギンは子犬だが臭いで食料を次々と見つけてくれる。今までとは全然違って、効率よく食料を見つけることができるようになった。
さらにそれから1年が経過した。最初は踏み台がなければ届かなかった台所も、今では少し背伸びすれば使えるようになっている。ギンも子犬からすっかり成犬へと変わっていた。お陰で僕はギンのモフモフが大好きになった。そんなある日、いつものようにギンを連れて森の中を歩いていると人の声が聞こえてきた。
「おい!そっちだ!そっちに行ったぞー!」
「ギャー」
悲鳴が聞こえてきた。僕とギンは急いで悲鳴のした場所に向かった。草陰から見てみると、キングベアが狩人のような男性に襲い掛かっていた。そのすぐ脇には遅れてきた狩人達が囲むように陣取った。
「待ってろ!今、助けてやるからな!」
仲間の男性が剣を抜いてキングベアに斬りかかる。だが、キングベアの鋭い爪で防がれた。キングベアの足元には怪我をした男性が倒れていた。
“このままじゃ、あの人殺されちゃうよ。”
僕が心の中でそう思った。すると、僕の頭に声が聞こえた。
“主様。私が助けに行きましょうか?”
僕は辺りを見渡したが、狩人達以外には見当たらない。
“誰?”
“私ですよ。ギンです。主様。”
「えっ———!」
僕は驚きのあまり声を出してしまった。慌てて自分の口に手を当てた。誰も僕達に気付いていないようだ。
“念話ですよ。主様。私は犬ではありません。フェンリルなのです。ですから魔法も念話も使えるんですよ。”
“そうだったの?なんで教えてくれなかったのさ?”
“それはいいでしょう。それよりどうするんですか?あのままだと間違いなくあの人間達は殺されますよ。”
“わかったよ。助けるよ。”
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