平安恋香 紫式部は清少納言に恋をする
小梅あかり
第一話 紫式部
京の宮中には呪いがかかっている。
人を恋に堕とす香りの呪いが……。
ときは平安、京の宮中
早い春の小雨は霧のように静かに降った。雨は
雨音もしない中で、私…
時刻は夜。
薄暗い
風が吹くたびに、庭の木々の揺れるさざめきや、降ろした
「冷たい風だわ……」
分厚い
手元にあるつややかな
炭火のほのかなぬくもりの中で、ゆっくりと特徴のある芳香が
それは秘密裏に手に入れた、
彼女はすでに宮中にはいない。残された伝説的な話と、
会ったことがない相手の香を密かに焚くなんて、まるで片思いの相手を恋い慕っているよう。
「これではまるで……恋だわ」
自分の愚かしさにため息をつき、私はひとりごちた。
ふと隙間風が吹いて、間仕切りの
直感的に人の気配を感じて、まさかとおもいつつ近くの
ぽっかり空いた暗闇から、夜の冷たい風が頬を撫ぜた。
外の雨は止み、不吉なほど燃え上がるような満月が出ている。
冬枯れた庭や
すぐ側の
花が咲いたような美貌と黒髪。凛としたたたずまい。春の陽射しを思わせる微笑みと温かな黒の瞳が、
震えながら息を呑んだ。
「
相手が名乗らなくても香りで分かる。まぎれもなく彼女がそこに立っていた。
私は震える声でつぶやいた。
「これは幻なの、それとも夢なの……?」
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