21.
【いつおうちに行ってもいいですか⁈】
少し上がった語尾が脳内再生できるぐらい、大森さんからのラインは等身大のワクワクが詰まっている気がした。
……もちろん、こっちのゴタゴタなんて知る由もなく。
(一旦未読スルーで)
抱きつくみつねをひっぺがして返信するのも傷つけるかと思ったから、ロック画面の通知を見るに留めた。
「兄貴、さっきからズボンがブルブル言ってない?」
「だね。きっとスマホに通知が連投されてて――」
「アタシと抱き合って、こーふんしてるの? 変態おにーちゃん」
「なわけないだろっ!!!!」
万が一俺が興奮してズボン周りに異常をきたしてたとしても振動なんてするかいな。赤マムシをピッチャーで飲んでもそうはならねぇだろ。
「見なくていいの? 兄貴に連絡するのなんて、どうせそのおーもりさん? って人だけでしょ」
口先をツンと尖らせ、いじけながら言う。
『見ないで』と懇願しないあたり、さっきまでのプチパニックは落ち着いたのかな。
「どうせ大森さんだけってな……正解だよ。後はみつねぐらい」
「女子率100パーセントじゃん。このハーレム兄貴め」
「母数が少なすぎるのが問題なんだよなぁ……」
「贅沢言うな〜。ここに母数1のか弱い女の子もいるんだし」
アタシ、とみつねは自分を指さしてみせる。
早く母数を増やしてくれ。頼れるのが俺だけなんて状況はさすがに不安定がすぎる。
「じゃあおっしゃる通り返信するけど」
「しゃーなしね」
「でも、それこそ良いのか? みつねは俺と大森さんが仲良くなるのを避けたいはずじゃ」
さっきまでの取り乱し具合なら、俺のスマホを奪って大森さんの連絡先を削除されてもおかしくないとさえ思えたけど。
みつねはふてぶてしく片眉を上げながら、
「わからん」
スパッと言った。
「……一旦、考えるのをやめた感じね」
「うん、ちかれた」
「俺としてはこの調子のまま寛容でいて欲しいけど」
「ごめん、それはムリかも。アタシの気分はジェットコースターだから」
よくわかってんじゃん。
いま穏やかになっているのも一時の気まぐれということか。
本質的な安定を望むなら、みつねのメンタルにもう一回り大きくなってもらって、なんなら大森さんとも仲良くしてくれるぐらいじゃないといけないな。
「まあ、家に呼ぶなら呼べば? 兄貴がやりたいことを我慢するのも、それはそれでイヤだし」
お言葉に甘えよう。
はっきり言って、大森さんみたいな女の子とおうちデートするチャンスを逃すわけにはいかない。
「どうかみつね、大森さんを前にしても落ち着いていてくれな」
パニックになったり、大森さんを毛嫌いしたり……そういうのは止めて欲しい。
俺だって、みつねに嫌がらせをしたいわけではないんだから。
2人はそれぞれ、自分にとって大切な人なんだから。
「一応……頑張ってみるけど、アタシなりに」
虫でも見ているかのような絶妙な表情で『うぅう』と数度頷く。
この素直さが、嵐の前の静けさでないことを祈りたい。
どうか、このままで。
♢
その週の週末、お父さんが休日出勤ということもあり俺は大森さんを家に招いた。
まさかこんなにすんなり決まってしまうとは。
「とりあえず唐揚げでも揚げとくか……」
人(女の子)のもてなし方なんてひとつも心得ていないが、大森さんの場合はご飯を用意しておいたらまず間違いない。
自室もそこそこに掃除し、唐揚げや市販のポテチ・ジュースを並べ、準備完了。
「コップは2つ、だな」
休日のみつねは当然のように在宅なんだが、俺たちの遊びには同席しないことになっていた。みつねが決めた。やっぱりまだ、複雑な気持ちが拭えないらしい。
――ピンポーン!
11時52分、約束の12時より少し早めにチャイムが鳴る。
1階に慌てて降り、ドアを開けると。
「やほやほですっ、有間くん!」
「よ、ようこそ有間家へ……」
いつもより砕けた言葉遣いが、浮かれていることをうかがわせる。
いや、大森さんの浮かれポイントはそれだけじゃない。
「し、私服……っ!」
「? いくらなんでも休日に制服は着ませんよぉ!」
「うん、そりゃそうだ。そりゃそうなんだけど」
「あ、もしかして有間くんは制服フェチとかだったりします? それなら着替えてきますよ〜?」
でもなくて!
ここで原点に立ち帰ろう。
大森さんみたいなややふくよかな女の子って私服で何を着るもんだと思う?
普通な体型を隠せるゆるっとした服を着るよね?
俺の動揺している理由は、彼女がそのセオリーの真逆をいっていたからで。
つまり、
「おなかが見えとるっ!!!!」
大森さんはセーター生地のノースリーブを見に纏い、かなり短めの丈からおへそをチラリさせていた。
もちろん、ぷににんとしたお腹もモロ見え。
「こんなの恥ずかしすぎてめったに人前で着られないですけど、ホントはこういう服が好みなので……」
少し照れながら、自分のお腹のお肉をつまんで強調する。
ぷにゅっと指の間で潰れる肌は、見ているだけで尋常じゃない柔らかさなのが伝わってくる。
「なので! 有間くんには一番可愛い自分を見せたいなあ……って!」
勇気を振り絞った大森さんの大胆な姿は、俺の視線を掴んで離さなかった。
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