11.

 そこからはもう、大森さんに言われるがまま緩さのあるお腹を揉みしだく。


 ぐにゅり。


 こちょこちょっと動かした指先が、柔らかいお肉の中に沈み込む。


 ぷにっ。


 ある一定の深さを超えると、弾性を帯びたそれが俺を押し返してくる。


「有間くんっ、あっ……」


 そして目の前にある大森さんのとろけた顔つき。

 漏れ出る熱い吐息。


 指先から伝わる柔らかさも相まって、気持ちよさはマックスだった。


 落ち着くような、それでいて大森さんを自由に支配しているかのうような。


 男としての本能をバッシバシに満たしてくれるのが、この腹揉みであった。


「……そろそろ終わりにしましょうか」

「はっ」


 おい時間忘れてんじゃねえか。

 ったく、男ってバカなんだから。というか俺ら2人ともバカだわこれは。


「どうです、だらしなかったでしょ?」

「そ、そこはノーコメントで」

「正直に言ってくれていいのに。有間くんはやっぱり優しいですね!」


 大森さんは多少なりとと自分の体型を気にしているみたいだけど、男はこのぐらいが一番そそられると何度も(ry


 キーンコーンカーンコーン。


 そこで、少しハイになってしまっていた俺たちを現実に引き戻すチャイムが遠くで鳴る。


「あっ……」

「遅刻、しちゃいましたね」


 ペロっと舌を出して苦笑する。

 まあ仕方ないよねぇ、と軽い感じの大森さんだ。


「ほら、言わんこっちゃない……」


 先生に遅刻理由を聞かれたらどうするんだこれ。

『大森さんのお腹を揉んでました』って言うのか?


 いや遅刻どころか一生学校に行かなくて良くなるけど。


「ったく、遅れたものはどうしようもないか……」

「あはは、ですねですねっ!」

「切り替えのスピードが鬼」

「まごまごしてたら料理が冷めちゃいます!」

「えーと、なんの話をされているのでしょうか……」


 遅刻は主に大森さんの奇行のせいではあるけど、俺も乗っかって楽しんでしまっていたし。一方的には責めれんな。


「じゃあ今度こそ行こう。もう走らなくてもいいし」

「です、ね」


 すんなりとは返事をしない。

 今度はなにかね。


「有間くん」


 改まって言われる。

 俺はこの声音によく記憶がある。


 弁当を食べさせて欲しい。

 そうお願いしてきたときと同じ――ワガママを打診するときの少し悪い声音。


「な、なに」


 身構えて返事をした俺の肩に、大森さんはポーンと手を置き、


「このまま2人で……学校をズル休みしちゃいません?」


 べろ〜と舌を出して悪びれる。

 ふくよかな体型も相まって大森さんは『素直な良い子』というのが第一印象に来る。


 そんなイメージと違う大胆な提案に、俺は愚かにも惹かれてしまう。


「さすがに学校をサボるのは……いや、でもなあ」

「えへへ。マジメな有間くんなら即答で断るかと思いました」


 平常心の俺ならそうしていただろう。

 でも俺の心は昨日から、わかりやすく大森さんに甘くなり始めていて。


「私、学校に行くより有間くんと2人で遊んでみたいです!」

「そんなこと言うの、ズルい……」

「だってホントなんですもん!」


 その一言に完全に背を押された。

 あぁ、俺も弱いな。


「……あー、ケホンケホン。きゅ、急に喉が変だなあ」

「ぷっ」

「あー、念のため学校は休むかー。残念だなー。先生に電話しないとなあー」

「ひひひっ」


 罪悪感を拭うための俺の棒読み演技に、大森さんが吹き出す。


 そして、ニマニマした顔で俺に手を差し出し。


「今日は2人でい〜っぱい楽しいことしましょうね、有間くんっ!」


 今度は、大森さんの手を握った。



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