おまけパート その頃シェーレの家では
(作者コメント)
おまけパートは読み飛ばされる前提なので、ページの最後のほうにこの話のまとめを用意しておきました。
この中身は見る必要ないので、面倒なら存分に飛ばしちゃってください。
――――――――――――――
ということでシェーレとキョウタは家に着いたのだが、二人とも「あること」を忘れていた。忘れていたことにすら気づいていなかった。
なんのことかといえば、第2話で結界に監禁された「デザルト」のことである。
念のため再度説明しておくと、デザルトは自称界民ランクDの色白肌で、シェーレの姉に会いにやってきていた男のこと。そして彼はシェーレの家に来た結果、結界により強制的に「おるすばん」させられた。
しかし彼は、シェーレたちが帰宅した時にはすでにいなくなっていた。だから二人に気づかれることがなかったのだ。
■
……話はシェーレたちが外に出ていった時まで戻る。
コツンコツン。ガシッ!
「ひゃー……。本当に出られなさそうだ」
デザルトは家の外に出ようとしてみたが、玄関や窓の外には半透明の壁がつくられていた。試しに軽く叩いたり、強めに蹴ったりしたのだが、その壁はびくともしない。
まいったな、と考えるデザルトだったが、別に彼はこの日に用事がなかった。なので、大人しく待つことに決めた。
「このソファ、高そうだね……。――ワオ、ふっかふかだ」
………………。
しかし、暇を潰すような物はどこにもない。ゲストルーム内にはソファとテーブル、窓、絵画が数点と、床に敷かれたカーペット。……デザルトは、ただそこに在るだけの物を見比べる作業にも飽き飽きしていた。
そもそも家主のシェーレは外に出て「遊ぶ」ことが多いので、客をもてなす機会がない。それゆえ、ゲストルームは充実した造りになっていないのだ。
――ピタッ。ピタッ。
だが突如、部屋の外から物音が聞こえてきた。家主であるシェーレが戻ってきたのかと思ったが、物音は「玄関に近づいて」いく。もし帰宅したのなら、音は逆に玄関から遠ざかるだろう。それに、この音は裸足で床を歩いているように聞こえる。
「……あれぇ? ――シェーレ、どこぉー?」
声を聞いた瞬間、ガチャッ!!
「その声は、ルルーさぁん! ボクだよ、デザルトだよぉ!!」
……デザルトは立ち上がりながら姿勢を前傾に、部屋の扉へ直行。急いで扉を開けて声の主のもとへ飛び出した。
廊下には、長い銀髪をくしゃくしゃにした、寝間着姿の女性がいた。彼女の名は「ルルー・ケイオス」、シェーレの姉である。
ルルーは部屋から飛び出したデザルトのことを、細く開いた目で見つめる。
「………………だぁれ?」
「えっ」
……。
「ふわぁ……」
数秒間だけ互いの目が合ってから、ルルーは大きく
「あ、あのー……、ルルーさん? ボクのこと覚えてない?」
「ど……、だれぇ?」
ルルーは「どちらさま?」と言おうとしたが、五文字も発音するのが面倒だったので、二文字で済む「だれ?」に言い換えた。
つまり、それほどまでにデザルトへ興味を持っていない。
しかし実はこの二人、きちんと会って話したことがある。それはディアニーアにあるスナマード市でのこと。
× × ×
「ねぇ」
デザルトは後ろから聞こえた、儚き女性の声に振り向く。すると、そこには輝く銀髪の美しい女性がいた。
「――ひょ、ひょおーッ! なんでございましょう、マドモワゼル!!」
その見た目は、デザルトにとって好みどストライクだったようだ。
「私、ルルーっていうの。あなたは?」
「ぼ、ボクの名はデザルトですっ!」
「そう、デザ……、……まあいいわ。ねぇねぇ、あなたにお願いがあるの」
「なんでございましゃう!」
ルルーの目つきが蠱惑的なものになる。
「あのね……、あなた、『私の心を埋めて』くださらない?」
「そ、それは……っ!?」
「十日後の朝、私の家に来て。ステキな時間を過ごしましょう?」
「よ、喜んで~~~ッ!!!」
× × ×
もちろん、この時のルルーは「ルルー・ケイオス」その人であり、十日後は実際に今日のことである。要するにデザルトは、正式にルルーから招待されていたのだ。
……とはいえ、その時の会話はそこで終わり、なにをするかの話はしたが、「どこ」でするかという話はなかった。聞けたのは「ルルー」という名前のみ。
だが、実はそれだけで充分だった。何故なら……。
× × ×
デザルトは雑誌を手に取った。
「え?
× × ×
ルルーはなんと、あの
(ちなみに、シェーレがシアンポスと知り合いなのも、その繋がりによるものである)
とにかく彼女は有名人であるため、住所は調べればすぐに出てくる。それにより、デザルトはシェーレの家、イコール、ルルーの家を訪ねることができた。
また、ルルーは「十日後」と言っていたが、万が一家を間違えていては格好がつかないので、念のため九日後に一度、家を訪ねていた。デザルトがシェーレのことを知っていたのも、事前に顔を合わせていたからである。
× × ×
「やあ、初めまして! 突然だけど、ルルーさんはいるかい?」
「……はい? あなた、なんの用です?」
「おっとそうだね、ボクはデザルト。ルルーさんって、今いるかい?」
「お姉ちゃんは……、いないです。あ、あたしはシェーレっていうです」
「そうか、シェーレちゃん! ルルーさんはキミのお姉さんなんだね! じゃあ、また明日来るよ!」
デザルトは手身近に事実確認を済ませると、たったそれだけで軽やかに去っていった。
……。
「なんですか、あのザコそうな不審者……。殺し損ねたです、名乗り損です」
× × ×
……という経緯があったのだが、肝心のルルー本人は覚えていないようだ。
「んぅー……。にしても、この結界、狭っ苦しいのよねー」
ルルーは窓の近くまで行き、窓を開けて外を指差した。
「ばーん」
すると、グシャァァァン!! と音を立て、結界が破壊された。
「えええええっっっ!!?」
デザルトがどうしても壊せなかった結界を、いとも容易く壊したのだ。文字通り、朝飯前が如く。
「ふわぁ~……、ねむ~……」
そんな光景を見せられたデザルトが呆気にとられていると、ルルーは目をこすりながらデザルトへ声をかける。
「そうねぇ、あなた……。私の部屋に来ない? そばに居てほしいの……」
「……え? あ、その、ぜ、ぜ、ぜひっ!!!」
その誘いを断る理由など、デザルトにはなかった。
■
……歩くルルーは、あるドアの前で足を止める。
「ここよ……。さぁ、きて……」
ガチャ。……どんな部屋なんだろう、とデザルトは
――そこは、真っ暗だった。
ん? ああ、そうか。明かりが点いていないんだな。ちょっと期待しすぎちゃったかなー、とデザルトは思った。
それを察したのか、それとも察していないのか、ルルーは部屋の明かりを点ける。
――薄暗い石の壁に取り付けられた、手錠と鎖。床には紅い血溜まりと……、ほ、骨?
さらに部屋の中を観察すると、刃物や謎の機械が転がっている。先端が尖っていたり、回しやすそうなハンドルが付いていたり……。
そして手錠の真反対の壁際には、それらとは不釣り合いなダブルサイズの可愛らしいベッドが置かれている。
とても、麗しい女性の部屋とは思えない。まるでこれは、拷問部屋……。
「あ、あ、あ、あの……、ルルーさん?」
「なあに?」
「ボクを、ど、どうするんですか……?」
「もぉ……、分かんない? 私は眠いの……」
「『眠い』のと『この部屋』って、どんな関係ですか!?」
ルルーはハテナを浮かべる。
「えー……? 寝る時に『男の悲鳴』を聞いてたいだけよ?」
「……は?」
………………。
ルルーは言っていた。「私の心を埋めて」と。だが、それはもしかすると「悲鳴を聞かせて」ということなのではないだろうか。……デザルトはそう考えた。
ということは……、つまり……。
(無理やり悲鳴をあげさせられる……?)
……。
(……逃げよう。)
デザルトは身の危険を感じ、走ってここから逃げようと「考えた」。だが、何故か「身体は動かない」。
「あれ? え?」
床を蹴ってここから去ろうにも、どうしてか足が上がらない。
「さぁ、おいで……、うふふ」
ルルーはデザルトに向かって、その口調通りとてもゆっくり近づいてくる。デザルトは焦りに焦りまくっているが、やはり足は動かない。
(……いや待て、落ち着け! 落ち着くんだっ)
焦って走ろうとするからよくないのだ、冷静に一歩ずつ後ろへ下がろう、とデザルトは思った。
すると……、足が動く!
(こ、これだ……っ!)
もしかしたら、ルルーの能力で「逃げられない」状態になっているのではないか。彼の本能がそう考えたようで、逃げるのではなくただ「動く」ことにした。どうやらそれは正解だったらしい。
(よし、このまま……)
一歩、一歩と確実に、デザルトは後ろへ進んでいた。……しかし。
「――ねぇ……、逃げてない……?」
「ッ!!? や、や、や、や、やだなぁ! そ、そ、そ、そんな、わけ、が……!!」
「……いっぺん、足でも折っとこうかしら」
「ひいいいぃッッ!!!」
ルルーは右手の人差し指を立て、デザルトの足に向ける。その構えは、先ほど結界を破壊した時のよう。
流石にこんな状況では落ち着くどころではなく、デザルトの頭には「逃げろ」の文字で埋めつくされていた。そしてそれにより、足は動きそうにない。
「ま、待っ……」
「ばーん」
「ぎゃあああああ
――ブシャアアアァァァァァァッ!!!
デザルトが恐怖により叫びかけた瞬間、その肉体が弾け飛んだ!
………………。
「あらぁ? ……あ、やりすぎちゃった?」
ルルーなりに加減したのだろうが、彼女は最強クラスに強い。その攻撃に、界民ランクDの貧弱な肉体は耐えられなかった。足を折るだけのつもりが、身体を吹き飛ばす威力が出てしまったのだ。
「うー……、残念ねぇ……。……ふわぁ~あ」
せっかくの新しい音楽プレイヤーが壊れちゃった。……くらいの気持ちで、飛び散ったデザルトの肉塊を見つめるルルー。
「……仕方ないわぁ。……今日は、静かに寝ましょ」
殺したなら生き返らせればいいのだが、実はそのための蘇生薬はシェーレから取り上げられていた。というのも、ルルーが蘇生薬を持っていると拷問時に「加減」を面倒臭がり、際限なく蘇生薬を使ってしまうのだ。そうなるとシェーレの分が無くなってしまうので、姉に代わって薬を管理をしているというわけである。
「おやすみ~……」
そして、ルルーは血肉を片付けるのも面倒なほどに眠いのだろう。彼女はそのまま、部屋の中のベッドへ向かった。
■
ルルーは先述のとおり、
しかしそれは彼女にとって退屈そのもので、まさに耐え難い苦痛。だからこそ、彼女はいつも自らに「封印」を施し、日常に身を置かないようにしていた。
「封印」は「生きたまま活動停止になる」ということ全般を指すのだが、その形式は様々。対象を苦しめながら封印することもあれば、安らかに封じることもある。
ルルーは眠りによって意識を手放しつつ、同時に自身を封印し、ただ眠るより長く退屈を凌いでいるのだ。
要するに、ルルーは再度「封印」された。
前回の封印は十日という短い期間だったが、次に起きるのはいつになるか……、彼女自身もあまり考えていなかった。
それを人間的尺度で考えると、「目分量」が近いだろう。塩胡椒をまぶすように、それだけ適当な感覚で封印をしているのだ。
■
……ルルーがベッドに入って封印されたあと、それは動き出した。
「はぁー……っ、はぁー……っ!」
彼の名はデザルト。なんと彼は、肉塊になった状態から自力で蘇生した。彼は死んでも自動的に生き返る能力を持っているのだ。
「こ、殺されて正解だった……!」
場所は変わらず、ルルーのおぞましき部屋の前。しかし彼女はどこにもいない。
「よし。逃げるのだ、ボク!」
今度は逃げようと考えつつ、身体も動いてくれた。おそらくルルーが封印され、彼女の能力が動作していない状態なのだ。
……外に出ると、もう夕方になっていた。
「あぁ……。もうよーく分かった。ルルーさんやシェーレちゃんには近づかないでおこう……」
疲れきったデザルトはそのまま帰宅した。
おまけパート おわり
――――――――――――――
【まとめ】
シェーレの家で監禁されていた男「デザルト」は、家の中でシェーレの姉であり
しかし、ルルーには「男を拷問して悲鳴を聞く」趣味があると判明し、デザルトはその恐ろしさから逃げようとする。
ルルーはデザルトを逃がしたくないので彼の足を折ろうとしたが、誤って全身を破壊してしまい殺害。彼の悲鳴を聞くのを諦めたルルーは、起きていても暇なため、眠りに就きながら自らを封印した。
一方でその後デザルトは無事に蘇生し、シェーレの家から逃げることに成功した。
以上
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