第2話 新車の旧車
1節 車のチェック
次にボンネットを開けてみる。カクカクしてのっぺりとした、左右だけ直線に角の取れたような(絶望的語彙力)ボンネットだ。
開くとエンジンが出てきて、それに繋がる大量の配管が目に入る。中央に書かれたエンジンの簡単な仕様のようなものには、社名は書いてなかったが、エンジンの型番と、
エンジンは液冷V型6気筒のディーゼルエンジンのようで、
なんでこのファンタジーな世界観にも関わらずこんなくそ古いバンにえげつないハイテクエンジンが装備されているのかはわからないが、とりあえずパワーはありそうなのでこいつには助けられそうだ。
「矢矧ー」
「なんだ?」
「この車変態エンジン積んでる」
「何積んでんの?」
「ディーゼル液冷V6シングルターボ」
「変態だな」
「ほんとね」
変にいじったらやばそうなのでこれくらいにしておこう。
全力でボンネットを閉める。するとものすごい音と共に若干車体が揺れた。思ったより勢いがついたようだ。次に運転室を眺める。
運転席の方へ行くと、なんかやたらとメーターやらボタンやらレバーやらがある。なんか僕の知っている車といろいろ違う。
メーターは当然っちゃ当然だが全部アナログだ。でも一部に何かしらの配管が付いている。いくら昔の車とはいえこんなに古臭いものなのか?
別にどうでもいいのだが。それらの計器類には全てにしっかりどれがどの計器なのか書いてあった。
速度計、燃料計、エンジンの回転数計と温度計など、あとはあまり運転中は見たりしなくてもいい計器が6つくらい。割と数がある。メーター類はそれくらいで、レバーとかも色々ある。
ペダルとかレバーにも色々名前が書いてある。ペダルはブレーキとサイドブレーキの2つ。レバーは、エンジンの出力を司るスロットルレバーと、エンジンの動力をタイヤに繋げるクラッチレバー、それと
ンジンの回転を増速させるシフトレバー。
なんかスイッチ系も色々ある。
それらは全てハンドルや、その周辺に現代の車と同じように付けられている。
現代の車ならばカーナビが装備されている場所はCDプレーヤーが装備されている。
あと何やら不穏な“
あと当然っちゃ当然だがハンドルにはクラクションもある。
やたらと多い計器とボタン類だが、果たして誰が運転するのだろうか・・・まあ現実なら誰がするどころか警察のお縄だが。
というか気づかなかったがどの席のドアも全て窓はハンドルをくるくる回して開けるやつみたいだ。今や旧車でもないと見れない装備だが、この世界では現役なのかもしれない。もう一度外に出てみる。サイドミラーの下には謎のハンドルがある。
おそらくこれは超昔の車に装備されていたエンジン始動用のハンドルだろう。なぜイグニッションでまとめて動かすようにしなかったのか。あと普通この手のハンドルはエンジンの真正面にあるはずだが。
運転席を降りて外に出ると、4人がめちゃくちゃ色々物を広げている。どんだけ入るんだあの貨物室。まああいつらはほっといて、外装を見る。
全長は大体6メートルちょいくらい。全幅は2メートルくらいで、全高もそれくらい。現代のワンボックスカーのようにエンジンルームだけ前に突き出しているような感じだ。総じて、“でかい”この評価に尽きる。なんでよりによってこんなでかいんだか。絶対運転しずらいし駐車とかも苦労する。まあその分、人のスペースも貨物のスペースも広いのだが。
◇◇◇
「よーし開くぞー」
ガラゴロガラゴロ!!!
「うわわわわ!荷物がなんか出てきてる!」
「とりあえずここら辺のもの全部外に広げるぞ」
「りょーかい」「わかった」「わかりました」
全員から返事が返ってきたので俺らは荷物を積み下ろし始めた。
よくわからんものが山のように。でかい灰色のシートがあったのでそのシートを広げてそこに並べる。テント、
「「おーい!全部降ろしたぞー!!」」
2節 謎貨物やらその他やら
呼ばれた方へ行くと、物が色々並べられていた。アウトドア用品とか図鑑とかなんやらがたくさんある。
その中には
とりあえず右上から確認していこう。
1人用のテントと寝袋が人数分あった。野宿するよりはあるととてもありがたい。
その次にさっきの楽器2台のケースとスネアドラムの三脚。
んでさらに横に行くと裁縫セット、スパイク、体育館シューズもあった。恐らくみんなが部活で使っているものだ。
触った質感は完全に今までの世界にあるものと同じだ。正直こんな世界で使えるのかと言われれば謎だが。
そんで次は簡易的な調理器具や懐中電灯、火おこし器や懐中電灯などのキャンプや登山などのレジャーで使うような装備が大量に入っていた。
その他にもこの世界の植物やら動物やらの図鑑が何冊かと、どういう仕組みなのかはわからないが前の世界のマップアプリのようにスワイプで拡大縮小したりドラッグで見る場所を動かしたりできる地図もある。
だがなぜか今自分たちがいる場所の周辺しか地図は描かれていない。あと細かな雑貨がいろいろある。
「みんな気になったもの取っていじってみようぜ」
「ん、了解」
ということで気になったものをいじる。
僕はもちろんスネアドラムを見る。
縦に小さい正方形のケースのロックを外し開くと、学校で使っているものと同型らしいスネアドラムと、僕が使っていたドラムスティックが入っている。
スティックは特に変わった様子はない。
楽器店とかで普通に買えるスティックだ。触ると練習の時に
中1の時から使ってるスティックなので、持ち手のコーティングは剥がれ、メーカーのロゴや材質などを表す文字は少し消えかかっている。
次にスネアの方だ。スネアは学校のものと同型ではあっても新品のようで、胴は傷ひとつなく、
早速スネアの三脚を広げる。スネアを受けるところをリムと同じ径まで開いて、三脚も草むらで倒れないように限界まで目一杯広げる。
そしてスネアを置いて
ダン、ダンとスネアらしい音が響く。ロールも連打も問題なし。至って普通のスネアドラムだ。
他の物を確認していると、低いトロンボーンの音が聞こえてきた。どうやら通常のトロンボーンではないようだ。
見てみると、2段階のバルブと、普通のものと比べて複雑なパイプ、そして大きいベルを持つそのトロンボーンは、バストロンボーンのようだった。
「それバストロンボーン?」
「はい。
「バスの見た目ってなんかカッコよくていいよね」
「語彙力死んでません?」
「死んでない死んでない」
「なんか坂田くんってたまに語彙力とか滑舌が壊滅的になりますよね」
「ソンナコトナイヨ」
「ありそうですね」
「辛辣だなあ」
そんな会話をしてしばらく時雨の演奏を聴いていた。音が安定していてとても上手い。
難しいリズムのメロディーを綺麗に吹いている。低音がよく響いて体に響く。
そして、トロンボーンと彼女の容姿が合わさって、とても輝いている。いつも真面目に練習している時雨だからこそ、上手い演奏と楽器で引き立っている。
「そろそろ確認も終わったし積み込むぞーお前らー」
「あいよー」「わかりました」
スネアをケースにしまってしっかり蓋を閉じる。スタンドも短くして三脚を畳む。そして大きいものから順に荷物室に入れていく。
寝袋やテント、調理器具など頻繁に使うものは上部のルーフキャリアに載せてロー
プで固定する。
そんなこんなでいつの間にかついていた古ぼけた腕時計を確認すると、時間はすでに10時になろうとしていた。
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