第1話 異世界の夜明け
1節 異世界の朝
「……ここは?」
舞の魔法で飛ばされた僕は、空が明るくなり始めている時間帯に草原に立っていた。
深い紺色の布とそれに散りばめられた様々な星の砂がオレンジ色のインクで少しずつ明るくなっていく。その様子はとても幻想的で、ただ太陽が昇る方向をずっと見ていた。
標高は何キロメートルあるかわからないくらい高い大山脈、その中でも1番大きい山の頂から太陽は上がっていく。やがて見えるようになると、眩しすぎて直視できないほど明るかった。すぐに目を逸らし、他の方へ視線を配る。
遠くには巨大な都市が見える。その都市からは煙が高く何本も吹き上がっていて、窓から漏れる明るい光が夜景を創り出していた。夜明けまでずっと光り続けるその街は、不夜城のようだ。
それ以外の方向にあるものは、さっきの山脈や近くの森くらいで、草原には本当になにもない。ただ靴の高さにも及ばない低い草が広がる。そしてその上を走っている動物たちが遠巻きに望める。そんな不思議な世界に、僕はずっと見惚れていた。
やがて、空の色は深い紺とオレンジの混ざった色から明るい水色に変わってゆく。大小様々な雲がいくつも浮かんで、草原に影を作る。それを避けるように動物たちが走る。少し歩くと近くに線路が見えてきた。
そして遠くから煙が動いてくるのが見えた。
僕はなぜか僕の意志に反して線路の上へ歩いていた。
やがて煙が近くへ来る。巨大な車体が見えてくる。そしてブレーキを掛けながら汽笛を鳴らすが、足が動かない。それどころか、手や頭すら動かせない。目は蒸気機関車のヘッドライトのみを見つめ、離せなかった。
やがて走行音が大きくなり、機関車が足元に来る直前まで、耳をつんざくようなブレーキ音を上げながら減速していた。だが、すぐに僕の意識は暗転した。
2節 異世界の朝 再び
気がつくと、今度は4人の仲間と車とともに見ながら真衣が消えたあたりに戻っていた。さっきの異世界の朝と鉄道に轢かれたのはなんだったのだろう。今となっては確認のしようもない。真衣が幻でも見せたのか、それとも2度目の異世界なのか。確認のしようもないが、轢かれた記憶があるのは確かだ。
これからどうしよう。とりあえず、車は真衣が直したこと、巨大蒸気都市はかなり遠くにあること、魔法の森が近くにあるのはわかった。
そしてと高津真衣と名乗った少女は最後に言葉を残して消えた。早朝からどうしてこんな目に遭わないといけないんだか。一体僕らが何をしたと言うんだ。
強いて言うなら一部の人がしょっちゅう授業中に寝たり忘れ物をしたりとか?
目の前の少年少女4人が僕の友達であることはわかっているが、その4人も何をしたらいいかわからないという顔をしていた。草原には爽やかな朝の風が吹いている。多分いつも通りなら今頃親に布団から引き剥がされて朝ご飯を食べている時間帯だろ
う。
というか、そんなことはどうでもいいんだ。いやよくはないけど。
まずとりあえず何をしようか。明らかにVRゲームとかそんなのではないだろう。
この世界は紛れもなく異世界だ。
今までの世界の常識が通じるかと言われれば、当然通じないだろう。
なぜこの世界に転生させたか、彼女は興味本位と言っていた。まあ本当かは怪しいが。
3節 新車と貨物
「ねぇねぇ、まず何する?」(如月
最初に声を上げたのは如月だった。
「何すると言われましても……どうしましょうかね」(時雨
「どうしようねー。なんも思いつかないや」(如月
「如月はもうちょいなんか考えてよ……」(朝凪
「あっ俺思いついたぞ」(矢矧
「どしたのだ矢矧くんや」(朝凪
「お前のその言葉とイントネーションはなんなのだ坂田氏よ」(矢矧
「んなこと言われたってわからんもんはわからんのだよ」(朝凪
「つーかその坂田氏って言い方やめろゆーとるやろがい」(朝凪
「てかそーじゃねぇ」(矢矧
「流すなや」(朝凪
「まず車の中身を確認しないか?」(矢矧
「といいますと?」(睦月
「貨物室の中身引っ張り出したり、状態を確認したりさ」(矢矧
「よしそれで決まり!」(如月
「そんな行き当たりばったりな……」(時雨
「だってなんもすることないじゃん」(如月
「まあそれはそうですが……」(時雨
ということで車の中身を確認していこう。
まず車の中の構造。最前列は運転席と助手席の2席。その次の列は3人分の席。茶色で、古めかしい昭和の車という感じのシートだ。どこからともなくレトロさを醸し出している。そのさらに後ろの席は無いが、同じ間隔で席を置くと6席くらいは置けそうなくらい広かった。ワンボックスカーといえど一般車の中ではだいぶ大型のもののようだ。
ま、置こうとしても貨物があって置けないのだが。後ろのトランクが開いた。どうやら貨物を本当に全部広げるつもりのようだ。6席をそこそこの間隔で置けるってめっちゃ広いと思うのだが……
それで、天井には天窓的なものがある。これで空を見ることができるようだ。
あっそうだ
……………………………………
何しようとしたんだっけ?
稀によくあるこの現象、本当に謎である。何かしようとして行動しようとしたら何をしようとしたか忘れる。多分
なんとなく外観を眺める。
茶色の昔っぽい色合いの車体に、バンパー、フェンダーやライト周りが銀色となっている。全体的に昔っぽい。旧車なので当然と言えば当然だが。
そして
フロントは銀色の直線を直角に組み合わせたエンジングリルが特有の雰囲気を醸し出している。その左右には大きな
だが、その角ばったライトや全体的に四角いボディが何とも言えない無骨さを出していて、女子の目にどう映るかは知らないが、僕からしたらとてもカッコよく見えた。
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