第19話 時雨と魔法
1節 魔法を使う下準備
ええ?私が?
私が最初に思ったのはそんな感想でした。正直、容姿なら他の人より少し自信があります。ですが、そんなことを言われるとは思いもしませんでした。
「こっちだ。ついてきてくれ」
「はい」
私はランドルフさんに連れられるまま店の奥へ入る。
棚にはさまざまな魔宝石や魔法道具が置かれており、私たちの世界で言うハンガーラックのようなものには、ハロウィンなどの仮装で着るようないかにも魔法使いというような服が何着もかけられている。
尖ったつばの広い帽子に、白と黒のぴっちりとした服と、紫の帯が入った黒いローブ、そして黒い膝くらいまでのロングブーツ。
ランドルフさん曰く、このような服は見た目だけでなく、魔法を扱う時に普通の服よりも扱いやすくなる加工がされているようです。
個室を1部屋貸してもらい、そこで着替えます。
今までの服は畳んで置いておいて、渡された服を着ます。最初は少し緩かったですが、着て少しすると勝手に縮んできつくもゆるくもないサイズに落ち着きました。
不思議なものです。
「お、着替え終わったか」
「はい。では、ご指導よろしくお願いします」
2節 最初は『無』属性から
「よし、それじゃあ始めよう」
「最初は無属性からだ」
「無属性?」
「ああ。無属性はどの属性の攻撃に強いとかはないがどの属性に弱いということもない。加えてさほど難しい魔法が多いわけでもないからな」
「なるほど。具体的にどのような魔法があるのですか?」
「そうだな、まあ基本なんでもだな。空中に剣を出して薙ぎ払ったり、電気のビームで攻撃したり、硬い弾を発射したり、氷の板を周囲に作って防御したりとな」
「え、それなら他の属性を使わなくてもいいのでは」
「いや、無属性で使えると言っても、例えば電気の攻撃は、雷属性の攻撃なら感電させることができるが無属性じゃただ痛いだけだし感電も起きないんだ」
「それぞれの属性固有の能力が無いということですか?」
「そういうことだ。それじゃあ早速やってみようか」
「はい」
まず、魔導書と呼ばれる本を宙に浮かべるようです。
よくファンタジー作品などで見る描写ですが、よくよく考えたらここはファンタジー世界なので当たり前と言えば当たり前かもしれません。
本を浮かせるようなイメージをしながら、本の表紙だけ開き体の正面に持つと、本の下に小さい魔法陣が出現し小さく上下しながら本が浮きました。
「すごい……本当に浮いてる」
「これだけなら誰でもできるんだがな、本題はここからなんだ」
私はランドルフさんから渡された、暗い灰色をした板状の宝石—無属性の宝石を、言われたように肩から斜めにかけている細いベルトの穴にはめ込む。
すると、途端に体の奥から力が湧いてくるような感覚がするようになりました。
「おお、うまくいったようだな。鏡を持ってきたから自分の顔を見てみろ」
「……?はい」
私は渡された手鏡で自分の顔を見る。
「え!?」
私の左目は無属性と同じような暗い灰色の目になっています。なので、私は今赤色の目と灰色の目のオッドアイということ。
「……かっこいいかも」
「魔宝石はめただけで色が変わるということはなかなかいいぞ」
「ありがとうございます」
「よし、それじゃあまずは“サンダー”という本来なら雷属性の基礎的な魔法をやろう」
魔法というものは感覚に頼る所が多いらしい。右手に集中して、詠唱する。
「サンダー!」
何回か詠唱しながらやってもそれっぽいような感覚があるだけで、うまく魔法を出せない。
「手から電流を出しているような想像をしながらやってみろ」
言われたように頭の中で魔法を使っている私を想像する。
その想像をしながら、詠唱すると、ビリビリとした感覚が手の平に広がり、すぐに2メートルくらいの長さの灰色の電流が流れた。
「え!すごい……」
「おお!出せるようになったじゃないか!それじゃあ少し移動して、そこらへんの岩に当ててどれくらいの力か見てみよう」
「わかりました」
3節 魔法の力恐るべし、です
「よし、じゃあその岩にサンダーを使ってみろ」
「はい」
意識を手に集中させて、頭の中で想像しながら、さっきよりも強く力を込める。
「サンダー!」
さっきよりも強い電流が流れて真っ直ぐ岩へ向かい、ハンマーで叩いたような硬い音を上げて岩に小さくヒビが入った。近づいてみてみると当たった場所周辺だけ少し焦げています。
「おお良いじゃないか。それじゃあ次は“スクリューボルト”をやってみよう。これは無属性の中では割と攻撃寄りな魔法だな」
「本来は何属性なんですか?」
「これは大地属性だけで基本使うんだが、他の属性の魔法を掛け合わせてその属性の
効果を付与して使うことができるんだ」
「なるほど」
聞くと、それは体の周囲から金属ボルトのようなものを空中の魔法陣から撃つとのこと。すごい人なら同時に10以上の魔法陣から、さながら機関銃のように撃てるようです。
ものすごく爽快そうで、いつかできるようになりたいです。
今度は、宙に魔法陣を浮かべて攻撃している姿を想像する。そして、言う。
「スクリューボルト!」
カァン!
横に一つ浮かべた魔法陣から、小さい衝撃波のようなエフェクトが出て、そこから細長いボルトのようなものが、さっきサンダーでヒビを入れた岩へ向かう。
そして、命中した弾がヒビを押し広げ岩の一部が砕けて転げ落ちた。
「すごい!やった!」
「やっぱりかなり魔法が上手いな。これは将来面白いことになりそうだ」
それから私は、“サンダー”や、“スクリューボルト”だけでなく、土属性の“ロールシールド”、炎属性の“ファイア”などの魔法を教えてもらいました。
練習をやめて魔導書を手に取ると、それまで感じなかった疲れが一気に降り積もってきて、軽い
その頃ちょうど商店街でひたすら必要なものを買って積み込みをしていた4人が来てくれたので、私は吾妻姉妹の二人に肩を貸してもらい、広くて横になれる貨物室に寝かせてもらいました。
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