第26話

 Faiceさんの活躍で延長線最初のラウンドを取得し、流れはこっちに傾いた。だが肝心なのはこの次のラウンド。二本連続で勝たなくては俺達の勝ちにはならない。向こうも後がなく焦るはず。


『……迷ったんだが、ここで出すか。例のセットアップ』


 だからこそ勢いのある作戦が光る。

 ラウンドが開始する直前、俺達は5人・・でミッドに集まる。


 ラウンド開始時、攻撃側はどちらかのメインに固まることが多い。重要なメイン通路のエリアを確保し、相手が隙を見せたら一気に流れ込めるようにするためだ。


 そんな中俺達はAメイン通路のコントロールを放棄し、FaiceさんのトラップでBメインのみ管理する。もし俺達がサイトを空けていることに気づかれれば最低限のスキルで爆弾を設置され、俺達のリテイクを数多のスキルで妨害されることになるだろう。Aサイトに至ってはスキルの必要すらない。でもそれは覚悟の上。逸る心を押さえつけ、俺達はラウンド開始を待つ。


 これ・・は以前の世界大会で出されたセットアップを模倣、改変したもの。アフィリア、ケイネ、コルト、セシリア、テムトレアの5キャラのスキルを組み合わせた奇襲戦法。

 成功すれば大きなリターンを、失敗すれば大きなリスクを負うその尖り方から日本ではあまり使われることのなかった攻撃型の立ち回り。カスタムでも俺達はこのセットを隠してきた。故に効果は覿面てきめんのはずだ。


『………いくぞ!』


 その合図とともにSigM4さんテムトレアがリコンを、Faiceさんセシリアがノックバックグレネードを定点で放ち、Mythsアフィリアがフラッシュを操作する。

 それと同じくして俺はRyukaさんケイネが視界の奥のミッドとBメインの間───Bリンクへと焚いたスモークにストリートステップで飛び込む。


『行くよ!せーの!』


 Mythsのフラッシュがリンク上で爆発し強い光が放たれた。同時にリコンとノックバックグレネードが壁裏でその仕事を果たし、Ryukaさんの放った桜吹雪盲目化スキルがフラッシュの光が届かない死角を通り抜けた。


 あとは俺がスモークからピークし、そこに居る敵を倒すだけ。この間わずか5秒・・

 これこそがこのセットの最大の特徴。ラウンド開始直後のスキル合わせとブリンクで敵を奇襲する超攻撃型速だ。


 俺がスモークからピークするとそこにはフラッシュと桜吹雪で視界を奪われたエスカトルLexたちがノックバックで遮蔽から出され、更にリコンで強調されていた。A側に居てこちらに居ない可能性もあったがどうやらその賭けには勝ったようだ。


 俺は目の前にいたタイムEnY4ssテムトレアMeMeをフルオート射撃で処理。その後エスカトルにエイムを定め────


「…ッ!ホントこいつは…!」


 俺の目に映ったのはエスカトルLexがピンボールのように空中で跳ねて遮蔽へと隠れていく姿。間違いなく視界は奪っているし、設置から起動までラグのあるバネブリンクはそんな状態で使えるものではないはずだった。


 しかしLexはその長いOTP1キャラ特化の経験と持ち前のセンスでソレを可能にする。


 俺はすぐさま狙いを変更。ブリンクで俺を追ってきているMythsやその後ろのRyukaさんたちに他の敵を任せ、ステップで遮蔽裏が見える位置に跳んだ。


 盲目ブラインド状態が切れるまで長くとも残り1秒程度。その前にやる───


「んな?!」


 俺の画面にダウン通知が映った。

 そして奥には未だ盲目状態のLex。


「ブラインドショット……」


 俺を討ち取ったのは間違いなくLexだ。見えてないまま音に反応して連射したLexの銃弾が俺の頭を運良く捉えたのだろう。


 だがそれでも人数は4対3でうちが有利。後ろからMythsも来ていたし何とかなる。


 そう思ったのもつか、MRの双牙がその本領を発揮する。


 リンクではブリンク→ハイジャンプで上を取ったMythsを盲目明けのコルトAsterが反射的なフリックで撃ち落とし、続けざまのフルオート射撃でRyukaさんたちのカバーピークを妨害。


 そこにエスカトルが背中を向けて・・・・・・飛び込んできた。数瞬後エスカトルのフラッシュが起爆。盲目状態になったSigM4さんを正確に撃ち抜く。


 フラッシュを避けてカバーしたRyukaさんのお陰でエスカトルは倒したが築いた人数差はイーブン。ラウンドは互角のまま最終局面へと移ることになった。



『…ッチ!コルトに逃げられた!すぐ戻るぞ!俺はAに行くからFaiceはそのままBだ!』

『……了解』


 どちらに攻めてくるか分からないためRyukaさんとFaiceさんは手分けしてサイトを防衛。だがMRのアクションは一向に起こらない。リスクを負ってRyukaさんがAメインをプッシュするも敵影は見えない。


 流石にAは無いとRyukaさんがBに寄り始め、残り時間が30秒となった時だった。


『……裏?!』


 いつも冷静なFaiceさんから珍しく驚いた声が上がる。直後キルログにはDeadlineの文字。


 どうやら相手のシステマDeadlineは俺達がBリンクで戦っている間にラークでAサイトにいたらしい。そこからRyukaさんがAに寄ったときにはもうすでに俺達のリスポーン地点を回っていたのだろう。


 完全に裏をかかれたFaiceさんはフリックでシステマを削るも倒され、人数差はついにひっくり返ってしまった。


 1対2の状況下で爆弾が設置されカウントが始まる。敵がBサイトのどこにいるか分からない。そんな中、Ryukaさんはスモークによる射線切りと目視による確認で慎重にクリアリングを進めながらBサイトを進行していく。


 ───ピピッ


 Ryukaさんが解除フェイクを行う。

 それに反応したシステマがジャンプピークで爆弾の位置を確認した。これでシステマの位置は確定。警戒をそこに向けながらRyukaさんはもう一度解除音を鳴らす。


 再びジャンプピークをしてくるシステマにそれを待っていたRyukaさんが弾を撃とうと───


 ──ダンッ!


 後ろからステップの音。瞬間Ryukaさんは射撃から意識を切り替えサイト内に回復したばかりのスモークを焚いた。


 反射的な回答はシステマとコルトのダブルピークを妨害し、1対1を作り出す。ピークしてきたシステマの銃弾を、銃を取り出す時間をうまく使い横にずれながらしゃがむことで回避。そしてプリエイムからの発砲により逆にシステマを倒すことに成功した。


 そしてRyukaさんはすぐさまスモークに入り込み、状況をリセット。そこからジャンプしながら飛び出すことで、Asterが頭に合わせたプリエイムを胴体で受けてダメージを減らす。


 すでにその手には銃が握られていた。


『ベテラン舐めんな!!』


 ───ダァンッ


〈クラッチ〉

〈ディフェンダー側の勝利です〉


『っしゃおらぁ!』

『『「うわぁあ!!!」』』


 対MR、BO31本目───


 14:12でCWの勝利だ。










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