第25話
ちょい長めです。
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ViXはそのゲームの性質上、マッチポイントになってからスコアが並ぶことがある。そしてそうなった後は延長戦として十分な資金を持った上で1ラウンドずつ攻守交代の2ラウンド先取の試合が始まる。
当然今回の試合もそのルールが適応され、俺達CWは攻撃側、対するMRは防衛側として延長戦が始まった。
俺達は先ほどと同様にAster対策としてまばらに別れて待機する。ただし、まばらと言っても今回はある程度まとまった配置ではあるのだが。
おそらく今回は
俺達が最初にAsterを対策したラウンド以降、Asterは時間を使ってくるようになった。おそらくそれはLexの入れ知恵。あいつはそういう部分はしっかりしてるからな。
だからこそ今回もこちらの対策を対策してくると思ったのだが………。
『来ないな。作戦は時間稼ぎのままか?』
30秒が過ぎてもコルトが詰めてくることは無かった。
時間は減る一方だ。俺達は仕方なく作戦を変更し、取られたエリアをスキルで取り返しつつ前へと進んでいくことにした。
『……………?』
後ろからチームメイトの困惑が伝わってくる。俺も胸騒ぎが止まらない。メインやミッドにすら
『フリーで取れたね…』
「取り敢えずこのままA攻めで問題ないですかね?」
『そうする他ないだろう。時間に余裕がある訳じゃないしな。Faiceは情報収集でミッド奥まで行ってほしい』
『……了解』
『じゃあリコン行くよ!1.2.3!』
そのまま敵からのアクションもなく、俺達はSigM4さんのリコンをスタートにしてエントリーを始める。
サイト内の広範囲を映し出すリコンが壁に突き刺さり、Mythsが
今回の攻めはオーソドックスなメインからのラッシュ。俺のスモークがヘブンとショートからの射線を塞ぎ、それに隠れるようにメインから後続の俺達がなだれ込んだ。
パッと見える範囲に敵は見えない。リコンによっていくつもある遮蔽裏の殆どがクリアリングされ、映らない範囲も先に入ったMythsが確認していく。
順調すぎるサイト内の確保。
だが、どうしても俺にはこのまますんなり行くとは思えなかった。
『取り敢えず爆弾設置するぞ────Mythsッ?!』
Ryukaさんが爆弾を設置し始めたとき、一つの銃声が鳴る。
流れたキルログはMythsがやられたもの。
『ヘブン下!!
Mythsの報告とともに爆弾設置をやめようとしていたRyukaさんがやられる。
見ればヘブン下から敵がぞろぞろと出てくる。胸騒ぎの原因はこれか!!
俺はすぐさまステップでショートへと身を隠す。咄嗟の行動だった。
だが後から気づく。
それは間違いなく悪手だった。
サイト内で孤立したSigM4さんがやられる。どうやら全体的に相手の体力を少しずつ削ったようだったが、一人も倒すことができなかった。
もし俺がサイト内で撃ち合っていたら、SigM4さんはフラッシュでのカバーから有利に撃ち合えたかもしれない。位置的にはその確率もかなり高かった。そうしたらFaiceさんの到着まで耐えられたかもしれない。
「………チッ」
浮かんだ思考をすぐさまかき消す。まだ試合は終わってない。余分な思考はここまで最適化してきた立ち回りにも影響を及ぼす。リセットして次の立ち回りに意識を向けろ。状況を分析しろ。頭をもっと早く、早く回せ!
加速する脳内で様々な未来が予測され、消えていく。
───俺は天才ではない。立ち回りの最適化や安定性の面での才能はあると自負しているが、Lexのように直感で最善の結末を手繰り寄せるなんてことはできないし、Asterのように他人のペースを崩すほどのマイペースを持っている訳でもない。茶会さんのように盤面を支配する
でもだからこそ、俺は俺のやれることをやらなくちゃならない。
必要なのは残りの短時間で敵を殲滅すること。幸いFaiceさんは位置がバレていない。やりようはあるはずだ。
「Faiceさん。………俺が
『…………了解。任せろ』
返ってきたのは心強い返事。Faiceさんは元々少人数戦が得意な人だ。なればこそ、彼の言葉はとてつもない力を持つ。
「お願いします」
これであとの心配は要らない。
Faiceさんなら勝ってくれるはずだ。
俺はウルトを発動する。
〈さぁ、テンションブチ上げて行こうじゃん!〉
世界に流れる起動音。
だが今回はそこで終わらない。
空が暗くなり七色の光にマップ全域が照らされる。世界はその姿を変え、まるで大きなステージになったかのようだった。流れるのは大音量の
これこそがコルトのウルト─────────DanceNight。
マップ全域が彼女のステージとなり、敵味方関係なくすべての音が聞こえなくなる。単純かつ戦局を覆す
そしてこのウルトは
音楽に紛れてヘブンへと駆け上がり、俺はスモークをショート入り口とサイト内に焚く。そして続けてカーテンをヘブンを切るように焚いた。
サイト内に敵がいると分かっている状況で、サイト内やショート、ヘブンにスモークを焚くというのは定石では利敵となる。
だがこのウルトが発動している間、そのカーテンやスモークはステージを彩る最高の舞台装置に他ならない。
俺はカーテンからステップを使って飛び出した。
カーテンから出た瞬間に敵を三人視認。二人は気づいたが一人はショートを見ていてこちらに気づいていない。
着地した俺はすぐさま最後のステップを使ってサイト内のスモーク
スモーク裏からすっと顔を出し頭を撃ち抜く。音が聞こえないため、敵の連携は既に崩壊しているはず。こちらの銃声もバレていない。
俺はキルを確認してすぐ、
そう、これがウルトのもう一つの能力。
────“ストリートステップ”の1キル回復。
俺は七色の光が照らすステージで終わりなき踊りを繰り返す。
気づいた二人のうちの一人を倒し、再び回復したステップで位置を変えてもう片方を倒す。
流石にスモークの外で戦っているのはバレているはず。脳内でそう判断した俺はステップでスモークの中に入り込む。だが、その中には
向こうが反射で咄嗟に撃ち込んできた銃弾を反射で行ったストレイフで躱す。ダメージは食らうが最小限に留めた。着地してすぐ俺はその頭を撃ち抜こうとする。だがLexもそれは読んでいたようで、しゃがむことによって
俺の放った弾丸はLexの頭を掠め、Lexの放った弾丸は俺の体を捉えた。一瞬の中で行われた高度な攻防。Lexは一瞬でその最適解を導き出した。仕方ない。ここはお前に譲る。でも────
「うちの守護神、舐めんなよ?」
時間は丁度、
サイト内のスモークがすべて晴れる。
サイト中央にいたLexはショートから
俺がショートにスモークを焚いた意味をきちんと汲んでくれていたようだ。スモークが焚かれている位置から敵が出てくるとは思わないし、一応ショートを見ていたやつは
この緊迫した状況で配置の変更などできるわけないのだから、Faiceさんが気づかれないのも当たり前だった。
その流れのままFaiceさんはコンテナ裏へと静かに隠れる。残り時間はあと10秒。爆弾自体は確保し直したため、いつでも設置はできる状態だった。
Faiceさんはタレットをヘブン側に向くように置いて設置を始める。相手はAster。何をされても不思議じゃない。
だが、不思議と不安はなかった。
ぬるりと顔を出した
Faiceさんが飛び出した先に奴は居なかった。だが、Faiceさんもそれを読んでいたのかぐるんと後ろを振り向く。
そこには隙を晒したAsterの姿。バレているとは思っていなかったのだろう。振り向きも遅い。
「勝った」
FaiceさんがAsterの頭を撃ち抜く。
延長線は俺達の先取で幕を開けた。
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