第20話
「は………っやすぎんだろおい!」
あまりにも早すぎるAsterの奇襲。反応してピークするも既にそこに
ラウンド開始5秒で人数差をつけられた状況。出鼻をくじかれるというのはまさにこういうことを言うんだろう。
『………悪い、油断した。とりあえずこっからドライは無理だ。ミッドにスモーク焚いてAに抜けたと思わせてからFaice寄せてBラッシュでいこう』
Ryukaさんの落ち着いた声がみんなの浮足立った心を鎮める。まだラウンドも始まったばかり、ここで動揺しているわけにはいかない。
ピストルラウンドは武器が全員弱いことから人数差を覆しやすいという側面もある。やられたのがここで良かったと思っておくべきだ。
俺は気を取り直してミッドにスモークを使い、中央広場を敵から見えなくする。これでRyukaさんが言った通り、敵はAのショート通路からの進行とBのメイン通路からの進行を両方警戒しなくてはいけなくなった。
『……Aメイン取れた』
そこにAでラークしていたFaiceさんの報告が入る。
相手はABどちらも警戒しなくてはいけない分、両方ともを守れるように人数を分担する必要がある。そんな中でAメインが取れた。ならば俺達から見て、AメインとAショートで挟むというのが一番成功率が高い。
Ryukaさんもそう考えたようで、俺達はAを目指すことになった。
『ミッドに
『Aショートに敵がいてもおかしくないから気をつけてね』
「俺メインから行くんで、ゆっくり目でお願いします」
俺がAメインのFaiceさんに合流し、MythsとSigM4さんでショートを進行する。敵がいるかもしれないショートはMythsのフラッシュとブリンクで取って、その後サイトに入る際にSigM4さんのリコンとフラッシュを使ってもらい全員でなだれ込むという算段だ。
『3.2.1……ショートは確保できたよ』
「こっちもメインにつきました。いつでも行けます!」
『了解……じゃあこっちのリコンのタイミングで入って───え?』
両方の準備が整った瞬間、SigM4さんからリコンが放たれる。だがそのリコンは役目を果たすことなく、すぐに消えてしまった。スキルが消えるということはその使用者が死んだということ。
「なんでお前がそこにいるんだAster……!」
ショートの裏───つまり俺達が進行してきたように、ミッドを通ってからでないと来れない場所にコルトのアイコンが写る。
相手が2サーチャーで情報を取るのが得意といえど、ミッドに飛んできたナイフは壊したし、最初にBメインに飛んできたリコンもまだ回復していないはず。もちろんドローンの音も聞こえていない。それなのにマップのコルトのアイコンは間違いなくミッド側にあった。
つまり奴は、情報がない──俺達が複数人で固まっているかもしれない場所を、ドライで通過してきたということだ。
「人数差とかリスクとか考えねぇのかよ………!」
人数差は既に2対5。流石に全員でAに寄られたら設置を通すこともできない。俺達は慌ててAサイトに入る。だがそこにはすでに先程までショートにいたはずのコルトが待ち構えている。
ワンショットワンキルでFaiceさんが持ってかれ、遅れてサイトに入った俺もスモークから顔を出した瞬間に撃ち抜かれる。
〈ジェノサイド!!!〉
ファーストラウンドからジェノサイド。あまりにも幸先の悪い出だしとなってしまったのだった。
♢♢♢
そこから俺達はリードを保とうとするMRになんとか食らいつきながら一進一退の攻防を繰り返す。
その緊迫感のある中でもAsterは相変わらず動きが読みにくく、放置こそしてこなかったものの変なところにスモークを焚いたり、情報取らずに走って顔を出してきたりとやりたい放題だった。しかも質の悪いことに、その謎行動たちのほとんどが後の動きに繋がっている。
謎のスモークは
だがその直感が俺らにやりづらさを生んでいる。相手のサポート陣も慣れたものらしく、謎行動にきっちりスキルを合わせてくる。2サーチャー構成にしたのは情報整理の容易さと多数のフラッシュによるカバーのためだったのだろう。うちとはまた違った“チームの連携”だった。
そして、何よりAsterと同じく掴みづらい行動をしてくる奴がいた。データは出揃っており、使ってるキャラも変わらない。なのに止まらない。
Lex───MRのリーダーにして俺の親友だ。彼はスキルの使い方が巧い。バネブリンクは勿論、トラップとして俺達を仲間の射線が通るところに飛ばしたり、壁に設置したバネによる空中ブリンクで軌道変化をしてきたりと相対する側としては大変やりづらい。
しかも問題なのが
〈これぞまさしく男のロマン!!〉
世界に鳴り響くウルトの起動音とともに地面が揺れる。現れたるは鋼の巨人。
その体格は元の2倍ほどになり、ヒットボックスも比例して大きくなる。ゴツいパワードスーツのようなものだ。だがその代わりにヘッド判定が無くなり、アーマー自体に体力が300付く。ここまででも強いウルトではある。だがエスカトルのウルトの真骨頂はここではない。
問題なのはその自己修復機能。毎秒緩やかに回復していくタイプのリジェネ効果を持ち、回復量は脅威の50hp/s。しかもガトリングガンを装備しているため複数人で時間をかけて撃つしか倒す方法がないのだ。
『アッハッハッハ!!!Riv4lゥ!!!!』
─────それと使用者のVCが的にも丸聞こえになる。
「だぁあ!!こっち来んな!Myths一緒に頼む!」
『任せて!』
すごい勢いで走り寄って来る巨人。手からは狙わずとも当たると言わんばかりにガトリングを乱射しながら俺を追いかけてくる。戦術とかは何も関係ない、もはや私怨の領域じゃねぇか!
「くっそ止まんねぇ!」
『うわっわっ、あぶな!』
『一旦俺もカバーに行く!Faice、SigM4、メイン通路のホールド任せた!』
『『了解』』
俺とMythsが苦戦している姿を見て、Ryukaさんがサポートに来てくれる。三人の斉射でエスカトルはたたらを踏んだ。もう少し撃てば倒せるだろう。しかしそれこそが相手の思う壺。
『………くっ、タイムロー!』
『…………
メイン側をホールドしていた二人が奇襲された。
これがエスカトルの強み、相手を自分に集中させる戦術的強制デコイ。
放っておくには殲滅力が高すぎるし、倒すには人手がかかる。キルやデスによって溜められるウルトコストがでかいのも納得だ。
二人が倒された後、少し遅れて俺達三人の斉射がエスカトルを打ち倒した。しかしその頃には俺達の取れていたエリアは今いるミッドのみ。Aメイン、Aショート、Bメイン、Aショートの全てからいつ敵が来てもおかしくない。
「………全く…ほんとやりづらいよ、Lex」
その戦術と嗅覚で、気づいたときには既に相手を苦境に立たせている。まさに獣の群れのような戦い方。
それを肌で感じた俺は友人の顔を思い出しながらつい笑みを零した。
「楽しいなぁ………!」
────────────────────
ちなみにエスカトルが使われない理由はスキルのクセの強さよりも、
・VCの漏出による戦略の漏洩
・うるさすぎる移動音やガトリング連射音による連携のミス
を危惧されているからです。
大会において致命的すぎるだろこれ(考えたのお前や)。
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