第19話


「じゃあ、おさらいするよ。MeltRainは去年から大幅にメンバーが変わっている。全く別のチームだと思ったほうがいいね」


 試合前の作戦会議。ソレはいつものようにオフィスの会議室を使って行われていた。


 ホワイトボードにはTasさんが解析した各選手のメインピックや立ち回りの癖などの個人データが貼られている。


「それでも去年国内2位を取ったときと変わらず、EnY4ss、Deadline、そしてLexはチームに残留している。まぁこの三人はある程度データが揃っているからさらっと確認しといて。あ、でもRiv4lは初対戦だからしっかり見といてね」


 そう言われ、俺は前にあるホワイトボードを見る。


 一人目のEnY4ssはかなり攻撃的に立ち回る選手で、よくサーチャーやホールダーを使っている。中でもサーチャーのタイムというキャラやホールダーのケイネを使うときに調子がいいらしく、味方を待たずに一人でフラッシュピークをしてくることが多いのも注意が必要だ。


 そして二人目のDeadline。フェイスさんと同じように仕事人気質なブロッカー使い。立ち回りもかなりサポート的で、撃ち合い大好きなLexやEnY4ss、そして移籍したがGhostなどの強気な立ち回りもカバーしたり、自分が死なないように情報を集めたりするのが得意なまさに巧いと言えるプレイヤーだ。ここをどう崩すかが大事になってくる。


 そして三人目。チームリーダーでエースのLex。彼とは付き合いも長いため、ボードに書いてあるデータがあまりにも・・・・・少なすぎる・・・・・・ことに違和感は覚えない。そこに書いてあるのは一つのキャラについてのみ。


 彼はOTPOne-Trick Pony────何があっても一つのキャラしか使わないのだ。


 彼の使うキャラはエスカトルというブレイバー。ブリンクスキルにフラッシュ、自己回復という一見使いやすいスキルを持ったキャラであるが実際にエスカトルを使ってみるとその評価は大きく変わることになる。


 ブリンクスキルが設置型・・・であり、任意で起動できるバネトラップ・・・・・のようなもの───そう、トラップなのだ。


 エントリーを任されることが多いブレイバーのロールなのに、瞬間的なブリンクの使用が難しく、しかも設置した場所から離れると飛べないという仕様上、敵と突然遭遇したら逃げるのも難しい。そして設置したトラップはもう回収することができないというのも難しさを引き上げる要因となっている。


 しかもそのブリンク以上にウルトが癖の強いものなのだが…………それは試合でわかることだろう。俺は意識をTasさんの話に戻した。


「そして問題なのはこっちだ。データが少ないAsterとMeMeは今大会からの参加で、特にAsterの方は何をしてくるかわからない。戦績サイトでマップの動きから立ち回りを予測してみようとも思ったんだけど…………」


 そう言って彼が指差したのはAsterのデータ。彼だけは文章ではなく動きのパターンが補足とともに書いてあった。


「…………すまん、どういうことだこれ?」

「…………そのままの通りだよ。彼はリスポーン・・・・・地点から・・・・動かずスキル・・・・・・も使わない・・・・・───所謂AFKAway From Keybord、放置をしたラウンドがあった。それだけじゃなく、ブレイバーのLexより先にエントリーしようとしたり、クリアリングもせずに走りまわったりと理解に苦しむ動きが多いんだ」


「「「「「「…………」」」」」」


 一同絶句。そりゃそうだ、大会というプロの仕事場である戦いで放置やトロールをかましているのだから。普通はそんなことやったら大問題になる。


「クビにならないのかって思うよね…。正直俺もそう思って戦績サイトを見返したんだ。そしたらあまりにも奇抜すぎる動きに隠れていた衝撃の事実が判明した。それがこれ」


“Asterはブロック予選全5試合10ゲーム中、7試合のMVPを獲得している”


「これがどういうことが分かるかい?トロール行為をして、放置で動いていないラウンドもあるのに、それでも尚スコアが一番高いということだ」

「「「「「「………」」」」」」

「勿論彼一人の力ではない。おそらくMeMeにはAsterの動きを優先でサポートするよう伝えているんだろう。Asterのスコアが高いときは軒並みMeMeのアシスト数も高い。それも頭に入れておいて欲しい」


 確かGhostの代わりに入ったのがAsterという選手だったと聞いた覚えがある。Ghostも予選で戦った通り、かなり強い選手だった。だが、ひょっとして………Ghostは実力でAsterには勝てないと踏んだから移籍したんじゃないか?


 俺の中でAsterの脅威度がグンと上がる。正直最初はLexをどう止めるかが重要になってくると思っていた。デュオするときも彼は凄まじい強さを誇っていたから。


 だけど、Lexだけを見ていては足元をすくわれる。今日の試合は一筋縄では行かなさそうだった。



 ♢♢♢



『今日はValkの代わりだ。ホールダーとしてチームを頼むよ』


 Tasさんが別れたときにそう言っていたことを思い出す。戦術よりも個々の感覚を重視するMRに対してはValkさんの心理戦は効果が薄いと踏んでいるようだった。


 今日の俺の役割はValkさんの代わり。つまりスモークを使って相手を妨害し、エリアを確保するホールダーというロールになる。


 しかも今回の運用はRyukaさんとの2ホールダー構成。メインホールダーを俺がやる。

 使うキャラはコルト。奇しくもAsterの前任だったGhostが得意としているキャラであり、おそらく今回もAsterが使ってくるキャラだった。


 スキルのスモークとカーテンを買い、ピストルラウンドの開始に備える。


『最初はB前待機でリコンとか避けて、その後ドライで行くぞ。見つかったらスキル使っていつものセットにしよう。………相手は順位的に格上だが、負けるわけには行かない。気ィ引き締めていくぞ!』

『『『「おう!(…コクッ)」』』』


 タイマーがゼロになり、ラウンドが始まった。


 最初はみんなで遮蔽に隠れることで相手サーチャーのスキルに反応しないようにする。


『おっけー、リコン躱せたな。さぁ行こ───』


 Ryukaさんが話している最中だった。パシュンという音とともにRyukaさんが倒されキルログが流れる。ログにある名前はAster。


 戦いの火蓋はAsterのあまりにも早いファーストキルによって切られたのだった。


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