第21話
難ッ産ッ!
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思えば俺が色々なキャラを使うようになったのも、このゲームが楽しかったからだった。
最初は野良のピックにあわせて味方を支えられるように、味方のやり方をよく観察するようにした。それを重ねていくと改善するべきところやそのまま伸ばすべきところが分かるようになった。そしてそれを自分でも応用できるようになった。ある程度使えるようになったキャラは世界のプロたちの配信を見て使い方を学び直した。足りないところを見つめ直して鍛え直した。
俺を構成するその経験。その努力と研鑽の日々が俺は好きだったんだ。
「楽しいなぁ………!」
『Riv4l……?』
Ryukaさんの声に俺は今がラウンド間の準備フェーズだということを思い出す。
「あぁ、すいません。………こんな大舞台で、強い敵と戦って、全力を出してもなお立ち塞がってくれているっていうのが嬉しくて」
『何だお前ドエm『Ryukaさん黙って!』』
そんな会話をしている中でも、俺の頭の中では試合のことを考えている。次はどう立ち回って、どう撃ち合うか。敵は格上、スコアは1:8。圧倒的に不利なこの状況で、どんな戦い方をすれば彼らを攻略できるのか。
ワクワクとドキドキが止まらない。溢れるように回る思考と激しく動く心臓が、俺が心からこのゲームを楽しんでいることを教えてくれていた。
「やっぱり俺このゲーム好きだ………!」
ついつい漏れ出した言葉。一瞬の沈黙が生まれ、すぐにみんなが吹き出す音がした。
『なんか色々考えちまってたが、そうだよな………。くはは、楽しそうで結構!結果がどうであれ心の底から楽しめればゲームとしては大成功だが、せっかく俺らはプロなんだ。最初から目指すは一つ、勝つことだけだよなぁ!』
『そうだね。おじさん、大会の中で楽しむ心を思い出したのはプロになってすぐの頃以来だけど………やっぱりいいね。勝ちたいよ』
『………頑張ろう、みんな』
『まだまだ僕達は成長できるってとこ見せてやろう!』
「………ははっ、みんなも同じ想いを抱いてくれて嬉しいです」
準備フェーズが終わる少し前、タイムアウトが取られる。取ったのは
『みんな、落ち着い……………てるみたいだね。要らなかったかな、コレ』
「いや、ありがたいです。勝つために作戦とかも必要でしたしね」
『そうだぜTas。お前から見てMRの動きは────』
そうして俺達は話し合う。相手の癖や立ち回りのコンセプト、得意とするセットや基本的な配置まで。
タイムアウトの時間は1分。すべてを話していては時間が到底足りない。だからこそ今回は最低限のそれらの情報と相手の動きの確認だけをする。作戦を時間のあるゲーム内で組み立てるために。
『────かな。作戦は…まぁ君たちなら何とかするだろう。……君たちは強い。色んな選手を見てきた俺が言うんだ、間違いない。自分たちを信じて頑張ってね』
『『『『「了解」』』』』
タイムアウトが終わり準備フェーズのタイマーが進み出す。情報は揃えられるだけ揃えた。あとは俺達がそれをどう活かすかだけ。
『まずはAster対策だよな』
「そうですね…かなり突飛な行動をしてると思ってましたが、Tasさんの分析で動きの規則性………というか癖が分かった気がします」
Asterのプレイは俺達の嫌なところを常についてくる。放置が今の所無い分、気になるのはドライ進行による奇襲と各所の釣り行動だ。
「まず、ドライ進行について。最初のラウンドが特に分かりやすいんですけど、彼はおそらくラウンドの開始からどう動くかを決めておいた上でその後のゲームを組み立ててます」
最初Ryukaさんを倒したとき、Ryukaさんはリコンを躱すために遮蔽に隠れていた。そこから行動を開始しようと動き出す瞬間、Asterに襲われた。じゃあ何故奴はその遮蔽に射線を通せたのか。答えは一つ、警戒などに時間を割くことなく、
「きっと最初のラウンドはBメインからミッドを抜けてAに入るというのを決めていた。だから遮蔽裏のRyukaさんが遮蔽から出た瞬間に倒すことができたし、俺達がAに向かったときには同じ経路、つまりRyukaさんを倒してリセットされた行動を再び行い、Bメインから前に詰めてミッドに抜けた」
『ふむ…………Riv4l君の言ってることは一理あるかもしれない。事前データでもかなりのマイペースって補足に書かれていたし』
「そうです。マイペースなのは本当に自分のペースを変えないから。だからこれは死なないように別れて詰め待ちをして、Asterが見えた場所にスタックすることで解決できるはず」
最初のラウンドならRyukaさんが倒された時点でミッドスモークを焚いて、その場待機で良かったのだ。次からAsterが動きを変えてくるようなことがない限り対応できるはず。
「そして二つ目の釣り行動の数々。謎スモークや足音ですね。こっちは多分
『………え?』
「正確に言えば、考えずに感じ取ってるが正しいんですかね?」
思い返してみれば、その行動の数々は局所的にリターンへと繋げていようとも、長期的に見れば向こうのリスクにしかならないものばかりだった。
謎スモークは奴が引くときに中継地として使っていたが、撤退しきったあとはそのスモークが邪魔でこちらの進行が見られない利敵スモークと言えるものになっていた。
大きな足音もサポートする味方を隠している代わりに奴の位置は丸分かりだし、そもそもサポートが確実にいるという証拠になる。
「この試合中ずっと疑問だったんです。どうしてあそこまで無茶苦茶な行動をして不利になっていないのか。……単に奴の戦況を読み取る嗅覚が凄まじいからだ、と考えると辻褄が合うんです。設定した行動をその類まれなる嗅覚で補いつつ立ち回っている。だってもし先まで見通して考えているのならリスクのある行動を取りたがらないはずだし、あからさまに自分でベイトをする意味がない。彼はチーム唯一のホールダーなんですから」
ホールダーが最初にいなくなるとスモークで射線が切れなくなる。つまり相手を警戒させることで時間を稼ぐこともできないし、取ったエリアのホールドもできない。
相手が威力の高いSRを買っていた場合などはもっと悲惨だ。設置を通されればそこをSRで覗かれているだけで爆弾が解除できなくなるのだから。ホールダーを使っている以上、前目に撃ち合うことはあっても自分を意味のない囮にするのはタブーであるのだ。
「だからこっちは耐えと報告が重要になります。Asterの行動に釣られない耐えと、自分がどこを警戒するかの報告。それさえやってれば多分どうにでもなると思います」
俺の考えを否定する人はいなかった。パッと思い浮かんだ癖だったが、的を射ていた自信はある。おそらくこれで問題ない。
準備フェーズのタイマーが終わる。なんとかラウンド前に間に合ったようだ。
『じゃあAsterの対策はそれで行こう。別れて待機からスタックで討ち取る。でもLexはどうするんだ?』
Ryukaさんの疑問に俺は先程よりも自信満々に答える。
「あいつは俺に任せてください」
俺だって伊達に友人をやってない。この試合のあいつの今日のノリは掴んだ。
「まってろMR。その
あとはそれに対応するだけだ。
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