第17話
『くっそ、サイト内セシリア!100カット!』
『悪いサイ70カットや!』
『セシリアはやったけどサイまだいる!』
(veqqとPRIODの二人………大会の配信で見ただけだったけど実際に相手にするとこうもやりづらいのか)
絶好調のMythsを含む本隊を壊滅させるほどの連携力。それに加えてサイの地面を隆起させ壁とするスキルを活かした遅延に、セシリアのグレネードがこっちの足並みを乱してくる。
おそらくマップに対するキャラの特性利用や自分で見つけた定点を除くと、セシリアも俺より向こうのほうが上手い。その前提を念頭に置いて立ち回る必要がある。
チームとして2枚のブロッカーを最大限に活かし、すべての攻撃を受け止める最硬の巨壁。
「これがPLNか」
そう呟いた直後、画面にタイムアウトの通知が入る。スコアは9:9。俺達も色々と作戦を立てて実行してみたものの、後半に入ってからはただの一本も取れなかったのだ。
『相手の寄りを遅くするか、スキルを入れられたあとにこっちに来れなくすることが重要になってくるね』
重苦しい空気の中、Tasさんが明るい声で言う。
『相手は遅延スキルが豊富だ。サイなんて遅延のスペシャリストだからね。だけど、そのスキルはサイトにいる他の味方にも入る。だから彼らはスキルを極限まで誤爆しないように少人数で守って、こっちのエントリーが来たら複数人でのリテイクを準備するようにしているんだ』
Tasさんの言うことは確かに的を射ていた。サイのスキルは全てが広範囲だし、今までの攻めでは一度こっちがサイトにエントリーしたあと、エリアを広げている時にスキル合わせの早めリテイクで取り返されていた。サイのスキルの誤爆リスクを減らすためにリテイクを前提に作戦を立てたというなら理解ができる。
『それに多分リテイクの早さから見るに今のところveqqとPRIODはお互い別のサイトを守っている。まぁ多分早く寄れるようにサイト内でもミッド寄りだろうけど。だから俺達に必要なのは第一に敵を簡単に寄せないこと。Riv4lのラークやMyths単体でのフェイクエントリーで敵をゆさぶって』
『「了解」』
『そして第二にリテイクを遅らせるためにスキルを使うこと。エントリーのスキルはSigM4のリコンとMythsのブリンク、それとスモークだけでいい。
『『『『「了解!」』』』』
(さてタイムアウトで言われた通り、ミッドラークで裏抜けたり情報取ったりするんじゃなくて、本隊の行かない側のサイトをラークしてるけど……はてさてどこまで行くべきか)
「取り敢えずAメイン取れました」
『オッケーじゃあこっちもB進行するわ』
なんにせよ、まずは状況を連携して動かすところからだ。俺の報告にあわせて本隊が動き始める。
一応ここからの計画ではMyths単体でエントリーすることで相手をB側に寄せて最終Aという流れになっているが……
『サイト入った!スモークだけお願い!』
『あいよー!』『了解や』
MythsがBにエントリーしたあと、彼を抜いた本隊が俺の確保しておいたAメインに移動。その間俺は敵の寄りを確認するために、ドライでAサイト奥まで進行していく。
(足音は一つBに寄ってる。これまで2.1.2の配置だったことから見てもA中にあと一人いてもおかしくないか…)
「Myths!一人そっち寄った!A中は居ても一人だと思います」
『分かった。さぁ始めるよ……!』
SigM4さんのリコンがAサイトの壁に刺さる。映る範囲に敵はいないようだ。残る候補はヘブン下か中央の大障害物裏に絞られる。
『……一人やって、一人──サイがローです!Aに寄ってくと思います!』
『Mythsご苦労さん。寄られる前に早くサイト取るぞ。俺とValkが足音立てながら中央裏見る。せっかく奥まで入れてるしRiv4lはBからAに戻ってくるやつ倒してくれ』
「りょうか……」
返事をしようとした時に俺の頭を何かがよぎった。これまでの相手の動きやTasさんの言葉を思い出せ。本当にこのまま戦いに行くべきなのか?もし戦いに行くなら撃ち合いはミッド辺りになるだろうが、それでいいのか?
……それならこっちのほうがいいんじゃないか?
「………いえ、リテイクのときサイトにすべてのスキルを使われないようにリテイク途中に飛び出します。それまで隠れてるんでサイトはお願いします」
『………それもいいな、了解任せろ』
俺が思い出したのは相手のリテイクの際の動きだった。相手はリコンとサイの
だがそれらが緻密に噛み合うことで、スロウで動けないまま相手に一方的に位置がバレてやられてしまうのだ。
だったら、その歯車を一つでも
『……来るぞ!』
Ryukaさんのコールとほぼ同時、CTとヘブンからスキルの起動音が聞こえる。
その瞬間、俺はグレネードで自分をノックバックさせて飛び出しつつ、敵の足元にグレネードを放った。
地面でグレネードが爆ぜ、相手の位置がズレる。緻密な連携に必要なスキルは定点に近い。セットアップと呼ばれるそれは元から用意していた作戦のようなものだ。位置がズレたら当然隙間はできる。
『おっけー!敵のリコン映らんかったで!これなら戦える!』
敵のスキルがずれたおかげで、サイト内のみんなが全員やられるなんて最悪の事態は起こらなさそうだ。それに相手は外に出てきた俺にも対応しなくちゃならない。リテイク合わせはもう無理だろう。
なら後は撃ち合うだけだ。
ノックバックのタイミング上、武器を出すタイミングは俺のほうが少し早い。俺は武器を出した瞬間に一人をキル。そしてそこから少しずれつつ車椅子から立ち上がることでヘッドラインをずらした。
相手の弾丸は先程まで頭のあった位置。つまりセシリアの腹のあたりに着弾するが、仕様上ヘッド以外なら一撃で死ぬことはない。素早く照準を合わせ引き金を引く。飛翔する弾丸は相手の頭に向けて吸い込まれていき─────
「サイとキースやりました!」
『こっちもテムトレアやったで!』
『こっちも!…………うし!ナァイス!このまま行くぞオラァ!!』
そこからはもうこちらのペースだった。一戦目の雪マップは13:10。次の砂漠マップは相手もこっちの動きに対応してきて手こずったものの、サイト間距離の関係上攻めやすく13:11というスコアに落ち着くことになる。
メインイベント初戦、PLN戦──勝利だ。
『しゃあああ!!!一戦目、突破じゃい!!』
『『『「うおおおおお!!」』』』
胸中を充足感が満たす。RFの頃は戦って勝つことができてもこれほど嬉しくなかったし、充足感も無かった。遂に俺も、本格的にプロとして戦えるんだ。そう思うと夢が少し現実味を帯びはじめたような気がした。
「俺CWに入れて良かったな………」
ポツリと漏れた俺の言葉にみんなが高いテンションのまま近づいてくる。
「なんやなんや!そんなに俺らと一緒に戦えて嬉しかったんかい!うりうり!」
「ヴァルクさんまじで絡み方だるい人になってますって!リヴァルも困ってる!」
「じゃあ俺が代わりに絡みに行ってやろう」
「リュカさんは黙って!」
「何だお前リーダーに向かってそ───」
ワイワイとした雰囲気の中、その空気を壊すかのような大きな音がなる。みんなが一斉に音の鳴った方を見ると、そこには息を切らしたタスさんがいた。
「どうしたんですか?」
「DDが!王者が敗けた…!」
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