第16話


『おおおおお!ナァイスRiv4l!お前も調子良さそうだな』

『Riv4lナイスや!けどMythsもRiv4lも調子いいからって、油断せんように!PLNは守りが強いで有名やからな!』

『『はーい』』



 なんやかんやで、3ラウンド連続取得はできた。でもValkさんが言ってたように油断は禁物だ。この勢いのまま、俺達はその後もゲームメイクをしていかなければ…………と意気込んだのもつかの間のことだった。



『はー、僕つよ!』

『ほんとに化けもんじゃねぇか』

「Mythsその調子で頼むー」

『まかせろ!』


 Mythsはもうノリノリで、積極的に前目で撃ち合いに行き、敵を倒して帰ってくる。


 時には一人で詰めて三人倒して生還するという、もはや何が起きてるかよく分からない状況にすらなった時もあった。


 6:0になった瞬間相手もたまらずタイムアウト。タイムアウトが遅い気もするが、それだけ相手コーチもチームの力を信じているのだろう。だが、これは流石に対策も大変だろうなとは思う。


 絶好調のMythsは間違いなく日本一強い。調子が安定し、英語が喋れさえすれば彼は海外にすら行けるプレイヤーなのだ。


 これは昔、それこそMythsがプロになったときから言われていることで、彼がプロになったきっかけもランクモードで現役プロ3人を含む敵チームをバッタバッタとなぎ倒す所がそのプロの配信に乗っていたからである(ちなみに、そのうち一人は今うちのチームのリーダーをしているRyukaだ)。


 だから相手は対応できるできないに関わらず、間違いなくMythsに好き勝手やらせないために動いてくる。Mythsがいない側のサイト、つまり俺のいるBサイトを中心に攻めるとかは一番簡単に思いつく対応だろう。


 だったらそこからは俺の仕事だ。


「うちのチームの配置なんですけど、RyukaさんかSigM4さん俺の方サポートできますか?相手の思惑、散々にかき乱してやりましょう」




 タイムアウト明けの7ラウンド目。PLNは予想通りBに攻めてきた。


 予想していた俺は置いておいたタレットの反応で行動を開始する。今回Bサイト内にはRyukaさんもSigM4さんもいる。B防衛の人数が増えることは相手も織り込み済みだろうけど、スキルでのクリアリングは必然的に丁寧にならざるを得ない。AからはMythsもラインを上げてきてるし、俺の行動は間違いなく刺さるはずだ。





 俺は空を向いた。


 背中を壁に向け限界まで下がる。さんざん練習した目印やタイミングは体も覚えている。あとはスキルを放つだけ・・・・・・・・


 ────定点


 壁や障害物の向こう側の相手、しかも遠く離れていてもこのグレネードは狙った場所に絶対落ちる。マップの大きさや壁の模様が変わらないことを活かして、ある目印にエイムを合わせてスキルを使うことで空から放物線を描いてスキルが降ってくるという紛れもない技術の一つなのだから。


 俺が放った2発のノックバックグレネードは山なりにゆっくり壁を超え、Bのメイン通路に落ちてくる。サイトのクリアをしなくてはいけない場面で空から落ちてくる無音の物体に気づくものはいない。


 2回の爆発音。連鎖的にノックバックした敵は俺の予想通りにメイン通路を吹き飛び、サイト内───RyukaさんとSigM4さんの射線が通る広間までその体を投げ出した。


『ナイス空爆!』

『ほんとにそんな定点があったんだね。驚いたよ』


 立て続けに流れるログ。

 相手のキャラが倒されたものばかりだ。


「定点見つけるの好きなんで。まだまだ行きますよ!」


 そこからも俺の定点空爆は盤面を有利にコントロールし続ける。


 ある時はメイン通路への空爆を警戒した敵チームがミッドを使って攻めてきたが、それを確認したValkさんの報告で放った空爆により敵を前後に分断。爆発後硬直もあり前に吹き飛んだ敵を倒して人数有利を作る。


 そしてまたある時は車椅子の動きとグレネードによるセルフノックバックを活かして敵を撹乱。裏から詰めてくるMythsが辿り着くまでの時間を稼ぐ。


『防衛でこれなら予想よりいいな。ナイス若人ども!』


 結果俺達は、9:3で前半戦の防衛を終えることになった。




 そしてハーフタイムを挟んだ後、後半戦のピストルラウンドが始まる。俺達は攻めの要である絶好調のMythsを中心に攻めることにした。


『取り敢えず配置確認からかな。ミッドにRiv4l、残りAで』

『『『「了解」』』』



 俺の進むミッドは警戒するべきところが二つある。


 まずはA側に抜けるための外通路。頭一つでこちらを狙えるポジションがあるため注意しつつ進まなくてはならないが、Valkさんのスモークもあるしこちらは何とかなるだろう。


 大変なのはもう片方、B側に抜けるための2階通路とスロープ下通路だ。2階通路は入り口のスロープを超えて顔を出すと、大体そこに通過を確認できる罠やタレットが置いてある。それに加えてそこから先は障害物も無い長い長い直線通路。ましてや相手は2ブロッカー構成。ここを見ずに、なおかつタレットも置かないなんてことはないはずだ。


(だけど俺は大胆に行動しなくちゃならない。それが俺を入れた理由だからな。……相手の動きに耳を澄ませろ。タイミングを考えるんだ)


 2階通路を見るとやはりタレットが置かれている。一度タレットを壊してからスロープ下を通ってみるか?そしたら相手も取り返しに来るしかないし……


 そんなことを考えているうちにVCが活発になっていく。どうやらみんなはA側に対するエントリーを始めたようだ。


(だったら二人引き付ければ4対3の人数状況で始められるな)


 そう判断して俺はすぐさまタレットを破壊。変わりに俺のアラームを置いて敵が抜けないようにしておく。


 そして足元にグレネード。スロープ横の出口から飛び出し、着地の瞬間にもう一度グレネードを使うことで衝撃をゼロにした。このグレネードの音は相手からも聞こえているはずだが、俺も硬直の間に敵の足音を聞いておく。


「敵そっちに寄り始めました。裏取ってみます」

『こっちは一人倒したからサイト入る………?!』


 流れるキルログ。Mythsが一人倒したあとにこっちの四人全員が壊滅したことを示すログだった。


「は?」


 キャラはセシリアveqqサイPRIOD。PLNの二枚看板がその本領を発揮し始める。

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