第18話


「一体何があったんですか?」


 王者DualDartsが負けたというニュースを聞いてから少し。俺達は落ち着いて話すために部屋を移動してオフィスにある会議室へと来ていた。


 いつもは和気藹々と作戦を考えたり雑談をしたりするこの部屋に、得も言われぬ空気が流れる。


 国内王者DualDartsは去年並み居るチームを圧倒して優勝した強豪だ。失礼な言い方になるが、国内でこのチームに勝てるところはMRかCWしかないと言われるほど。


 それにあそこには茶会さんがいる。彼の実力は俺もよく知っているし、みんなもライバルとして鎬を削った仲だ。知らないはずもない。


 有名なチームというのはそれだけで強い。有名で成績を残している分、活動資金が多く良い環境が整っている。そしてそれに比例するように凄腕のコーチやアナリスト、そして良いプレイヤーが集まるのだから。


 だからこそ、名実ともに国を代表するチームが全くの無名のチーム・・・・・・に負けたというのは到底すぐに受け入れられるものではなかった。


「説明するより見たほうが早いと思うよ。これを見てくれ」


 そういったタスさんが見せてきたのは一つの動画、今日のDD対DK──DarknessKnight戦の配信アーカイブだった。





『さぁ両者ピックが終わりました!構成はミラー同じですか?!DKもフェイカー入り構成を使うんですね!』

『構成が同じというのは驚きましたが、ミラーマッチはチームの自力が如実に現れますからね。これは挑戦者から王者への宣戦布告か、まだ一度も見せたことのないDarknessKnightのメンバーの力量がここで明かされることになると思います』

『王者DualDartsがその堂々たる王の威容を見せつけるのか!はたまた挑戦者であるDarknessKnightがその剣先で王の喉元を切り裂くのか!注目の一戦が今スタートします!』


「ユーさんが言ってる通り、DKは本当に無名だった。だからここらまでは誰もがDDが勝つと信じて疑ってなかった…。だが、そんな俺達を嘲笑うかのように彼らはその異様な実力を示した」


 画面に視線を戻す。最初は当たり障りの無い探り合いのようなラウンドになるかと思いきや、攻めのDKはAサイトにむけてラッシュを始める。その勢いに飲まれる形でピストルを落としたDDはすぐさま次のラウンドで取り返す。


 だが、DDが思うように動けたのはここまでだった。


 セカンドラウンドを落とし武器が不利なラウンドで、DKはまたもやラッシュ。強い武器を持つDDに軍配が上がると思いきや、何故かDKは一人も死なずにサイトを確保。武器を二本手に入れ、人数も有利になっていた。


「……Tas。悪いけど今の場面、もう一度見せてくれないか?」

「そう言うと思った。俺も最初見たときは目を疑ったよ。……ここだね。一寸の狂い無くReduceとbluenoがシンクロ・・・・している」


 そうして確認してみると、確かに二人は全くの同タイミングで全く同じ動きをしている。それこそ目の錯覚を疑うほどに。


「あ、あり得ないだろ……偶然でもできすぎだ」

「二人がここまでシンクロしてるとすべての戦いが2対1になりますね………そりゃ無傷なのも納得です」

「なんやっけ、双子なんやったか?この二人は」

「そうらしいね。………双子特有のテレパシーなのか、このシンクロは偶然じゃない。───少し飛ばすよ?ここらへんを見て」



 スコアが1:2になっている。どうやらさっきのラウンドの次ラウンドのようだ。


 そこでも彼らは同時に動いた。二人でタレットを壊し、二人で飛び出て二人で撃ち合う。次のラウンドも、その次のラウンドも彼らは鏡のように瓜二つの動きを見せていた。


「しかも質が悪いのが、ViXって仕様上同キャラをチーム内で使うことはできないよね?だからスキルはそれぞれ別のタイミングで使ってるんだ」

「うわぁ………フラッシュ回避読みフラッシュまじか……」

「………これは撃ち合えない」

「これだとスキルが無駄になるなんてこともなさそうだね……」


 同じ動きをしてくるのに、スキルのタイミングはきちんとずらしてくる。スキルをずらしているのに、行動のタイミングは全て同じ。咄嗟の場面でこんなことが起きたら何がなんだか分からないだろう。


「こんな感じでこのマップの最終スコアが7:13。DKの攻めは脅威の11本取得だ」

「ははっ……何でこんな奴らが無名で埋もれてたんだ……?ランクでも見たことないぞ」


 リュカさんの言うとおり、そこは俺も引っかかっていた。俺はかなりランクをやる方だがReduceとbluenoというプレイヤーは今まで見たことがない。一体彼らはどこでこれほどの練度になるまで戦っていたのだろうか。


「それが去年までは二人揃って留学していたみたいだ。帰ってきたのが今年の冬。それまでは外国鯖でやってたみたいだよ?」

「なるほどねぇ……」


 このゲームにも幾つものサーバーがあるが、基本は日本に住んでいれば日本のサーバーを使えばいい。普段俺達は日本サーバーで戦っているからな。出会わないわけだ。


(だから俺達は二人を知らなかったのか………)


 流れる試合を見ながらぼーっと考える。それにしても凄まじい。DDのメンツは個人技も国内トップクラスが揃っているのに尽く撃ち負けていく。まるで悪い夢を見せられているようだった。


(…………これどうやって戦えばいいんだ?)


 頭の中で彼らをどう倒すべきかシミュレーションしてみる。今回のPLN戦のようにスキルを使って足並みを乱す、強気に撃ち合うことで一人無理やり倒して残る一人と1対1をする……。いくつか策は思い浮かぶものの、実際にやってみないと結果の想像もつかない。それもそのはず、俺の知ってるViXにこんな立ち回りをしてくる敵なんていなかったんだから。


(うーむ、わからん………なんか癖とかないものか)



「まぁなんにせよ、1stマップはDDの圧倒的敗北。2ndマップも対応しきれず10:13で敗北。結果だけ見れば0:2のストレートだね」


 画面は気づかないうちに試合後のインタビューに移り変わっていた。だいぶ長いこと考えていたみたいだ。画面に映る茶会さんがとても暗い顔をしていることが気がかりだけど……


「茶会さん…………ん?」


 ピロン!という音ともに俺のスマホにメッセージが入る。チラッと見てみると通話アプリのデスコードだった。


 Teabreak:Riv4l君、俺達はDKに敗けた。それはもう君も知っていると思う。とても悔しいけど、でも同時に俺は少し嬉しいと感じている。君に立ち直らせてもらったあの時から、俺もこのゲームを楽しんでいたんだと思い出せたからだ。楽しいゲームに強敵が出てきたら燃えるだろう?だから、絶対俺達は勝ち上がる。この舞台で絶対に戦おう。君も楽しみにしていてくれ。次の俺達は今日よりもっと強いからね。



「………っははははは!!」

「ど、どうしたの?!…リヴァルがおかしくなっちゃった!」

「思春期だろ知らんけど」

「ちゃうちゃう厨ニ病や」

「なんであんなシリアスな場面からこんな適当な雰囲気に持っていけるんだい……?」

「…………カオス」


 茶会さんを勝手に心配していた俺は一体何様だ?彼は強い人だ。俺なんかに黙って心配されるタマでもない。

 彼はもう前を向いている。決して現実逃避をしているわけじゃない。正面から敗北を受け入れて前を見てる。だったら俺も前のことを気にしなくちゃならない。


 パァン!


 俺の頬を叩いた音にみんなが驚く。


「すいません、必要のない心配をしてました。………俺達は絶対に勝ちましょうね」


 みんなの驚いた顔がだんだん笑みに変わっていく。どうやら他人の心配をしてるのは俺だけだったみたいだ。まだまだ場数が足りないな。


「当たり前だろ、勝つこと以外考えて戦うバカがいるかよ。それに次の相手は雑念持って勝てるような相手じゃないぜ?」


 そう言ってリュカさんが指差したトーナメント表。そこに書かれた赤い線をたどる。


「まぁ、そうなるよな………Lex」


 次の試合は2日後。対MR戦。

 我が友、Lex率いる格上チームだ。


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