第2話
あれから俺はまたいつものように深夜までランクを回し、次のクリップを作るために慣れない編集作業をしていた。
やり始めると案外楽しく、ついつい熱中してしまった。顔を上げたときには既に空には朝日が覗いていて────
「はぁ、はぁ‥‥‥…くっそねみぃし‥‥疲れた」
今日は平日。当然学校もある。いつもより準備に時間がかかって危うく遅刻するところだったが、俺はなんとか朝のHR直前に教室へと滑り込むことに成功した。
徹夜明けと走った疲れで全身が重い。俺は崩れるように自分の席に突っ伏す。
「おう、なんかすげぇ眠そうだな。大丈夫か?」
前の席からかけられた声。
それに反応して顔を上げると視界に映るのは中学からの悪友──清水航太の姿がある。どうせなら可愛い女の子に心配されたかったが、そこに居たのはただのイケメン。現実はそう甘くないらしい。
「徹夜した‥‥授業始まったら起こして…」
「ん?………あぁ。了解した。お前はゆっくり、ゆーっくり寝とけ、な?」
ニヤついた声が重い頭に響くが、返事を返すこともできずに意識が落ちていく。持つべきものはやっぱり親友だよなぁ‥‥‥。
その後、奴は授業が始まっても奴は俺を起こさず、しこたま先生に怒られた。
許さん。後でなんか奢らせてやる。
♢♢♢
眠気と疲れの果てに辿り着いた昼休み。俺と航太は食堂で一緒に飯を食べていた。勿論今俺が食べている学食は奢らせた物だ。
「おい、お前すごいことになってんぞ!」
「ん?なにが?」
「耳かせ!」
スマホを弄りながら飯を食べてた航太が突然立ち上がり、興奮気味に顔を近づけてくる。近くの女子がこっちを見てなんか恍惚な顔で呟いてるじゃねぇか、変な誤解生んでそうだからやめろ。
航太の無駄に整った顔を押しのけ席に座らせる。だが航太はまだ興奮の抜け切らない表情で、代わりに俺にスマホを見せてくる。
しかたなく見るとそこに写っているのは俺のツブヤキッター。確かにこいつはこの学校で唯一、俺がプロゲーマーであることを知っている。だがどうしてそんなに興奮しているんだろうか。
「ほらこれだって!これ!」
「どれだよ………ん?!」
航太が指す指の先。よく見たらそれは昨日、というか今日の朝に上げたViXのクリップだった。自分でもいいプレイができたとは思っていたが、そこにはそれでも俄には信じられないような光景が広がっている。
「リツイート3000,いいね1.5万?!」
自分のスマホで確認するも、間違いない。フォロー通知も大量に来ている。
俺のクリップがバズった………のか。
「
「ねぇよ?!ランクで何回か一緒になったくらいだし………あ、でも昨日確かLexがRyukaのサブ垢がいる、とか言ってたな」
CWは国内トップ層のチームの一つで、昔は何度も国内王者として世界と戦っていた。俺の尊敬している同年代の選手もそこにいる。しかし残念ながら今のCWは一昨年までの勢いが嘘のように失速し、最近の大会では惜しいところで勝ちきれない場面が増えていた。
それでも予選を軽々と突破しメインリーグでも決勝常連という看板は変わらず背負っており、そこの選手たちは皆国内でトップの実力を誇っていることは間違いない。
そんな選手たちの中でも、リーダーを努めているRyukaは10年も最前線で戦い続けている大ベテランで、そのキャラクターコントロールとスキルの巧みさは国内で並ぶ者はいないと言われているほど。
配信上で垣間見える人柄も相まって、ツブヤキッターのフォロワーも70万人を超えている超々大物なのだ。
「だからか。そのとき活躍したんだろうけど、そのRyukaが呟いてる。ほれ」
Ryuka:
この人めっちゃ強かった。戦ったときはサーチャーだったけど他のロールも行けるらしい。フレックスってやっぱ最高だよな
【引用リツイート】
国内の最前線で戦っている選手に強いと言われ、胸の中がぐわっと熱くなる。
もう一度自分のスマホで上げたクリップを確認すると今もゆっくりとだがリツイートやいいね数が増え続けていた。
そして更にその反響はそれらだけじゃない。
DMにもいくつか通知が来ていたのだ。
震える指で確認すると、それはいくつかのチームからの一度話したいという旨の連絡。
一夜で変わった状況に夢でも見てるのかと呆然としていると、それらのDMの中に先程見たチームの名前があった。
「CW………」
Crazy Wolf:
Riv4lさん、こちらはCW ViX部門です。
FAの件でお話をお伺いしたく、連絡させていただきました。
つきましてはこの中で予定が合う日はございますでしょうか。一度本社に来て頂きたく思います。候補日程は…………
「本当に俺が……?」
「よかったじゃん。応援してるぜ。」
動揺している今ばかりは航太の軽薄そうな声ですら頼もしく感じられた。
クリップ一つで世界は変わる。
この日を境に俺──Riv4lは表舞台へとその身を投げ出すことになったのだ。
────────────────────
Tips.ViXのロール
ロールとはゲームにおけるキャラクターの役割のこと。
相手の視界を遮ったり、罠を張ったりすることで防衛を有利にするロールや、
ブレイバー:攻撃の要。殆どのキャラが移動系スキルや
サーチャー:索敵スキルを多く持つ。フラッシュは複数持つ。このロールのキャラだけが、相手のフェイクスキルを看破できる。
ホールダー:エリアを保持するためにスモークと呼ばれるスキルでプレイヤーの視界を遮る。スモークにはキャラごとに一つ特殊効果が付く(微スロウや弱体、マップ妨害など)。
ブロッカー:守りの要。モロトフと呼ばれる範囲ダメージスキルやトラップ、タレット、壁などの設置スキルを駆使して相手のエリア侵入を防いだり感知したりするロール。
フェイカー:一番難しいロール。相手のマップやトラップを停止させるスキルやデコイ展開のスキル、足音を作り出すスキルなど多種多様なフェイクスキルを持つ。デコイは動かせるがその間キャラは操作不可というものや、壁に隠れることができるがちゃんと見れば誰でも看破できるスキルなど弱味もある。相手の報告を混乱させて有利盤面に展開を導くロール。
某ゲームの“俺がやる”さんのようなデコイ使いが聴覚、視覚、意識の隙間をつけるようになった代わりにPS要求がとんでもないことになった世界線。
ブレイバーはフラッシュを少ないけど持ってるデュエリストで、サーチャーはイニシエーターの索敵強化版。ブロッカーはモロトフ持ちセンチネル、ホールダーはモロトフが無くなった代わりにスモークの持続時間や効果が強くなったコントローラーみたいな感じのイメージ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます