第3話 友達

 「金沢さん、今度の休み、みんなで集まるんだけど、どうかな?」

 一時間目が終わって教科書とノートを片付けていると、前の席の束本つかもとさんが話しかけてきた。

 みんなって、誰だろう。そう考えていると、他の席から女子が集まってくる。クラスで目立ってる女子ばかりだった。

「GWのときに遊ぶ服を買いに行くのと、カラオケだよ。GWに、M中の二年の男子とカラオケ行くんだけどさ。金沢さんも誘おうと思って。向こう、七人らしいのね」

 男子とカラオケ。二年生。

 私とは縁がないような話題に、思わず固まってしまう。

「どこのグループにも入ってないみたいだし? うちらといたら、友達たくさんできるよ。部活入らなくても仲のいい先輩いたりとか」

「なんか固まってるし、金沢さん。かわいいなあ。ええと、ハルミちゃんだっけ。あたしら、ハルって呼んでいい?」

 ハル。その呼び方で、ゆかりと千紗と絵美を思い出す。なんとなく、イヤだと思った。

「ハルミ……が、いいかな」

 一緒に遊ぶ話より、ハルと呼ばれるのを避けたいと思った。

「ハルミね。うん。それでハルミは、カラオケ、どうする?」

 ゆかりだったら断らない。その人たちがどんな人かわかってないうちから、決めつけてイヤがったりしないだろう。絵美だったら、イヤならイヤだと言うと思う。千紗は、断れずに誘いに乗ってしまって後悔する。

 私は?

 私は、どうだったろう。

 わからなくなっていた。

 でも、ゆかりみたいに決めつけないでいるのはカッコイイと思った。

 まだ、この子たちを知らない。

 行けば楽しいかもしれない。この町を好きになるきっかけになるかも。

「行くよ。何時からかな?」

「よかったー! ほら、ハルミはノリ悪くないはずって、あたし言ったよね。あたしのカン、当たるんだよ」

 私の前の席の束本さんが、得意そうに笑った。

 他の五人はメイクしてるのがわかる見た目で派手なんだけど、束本さんはリップだけ。髪の毛はやや明るめのカラー。二重ふたえでぱっちりした目だから、リップだけでかわいい。

 「ツカっち、さすがだね。直感だけで生きてるのに、負けないよねぇ」

「だけってのは余計だよ。あたしが自分で言うのは良いけど、他人に言われんのはイヤだなー。でも、許す。今日は機嫌いいんだよね」

 束本さんはそう言って、私の目を見てきた。

 近い。目ヂカラ、すごい。

「ハルミ、かわいい子、見慣れてそう。やだなあ、じっと見ても平然としてる。やいちゃうなあ」

 あ。私は、心の中でゆかりと比べていたのかな。見透かされたのかな。そんなに顔に出ていたのかな。

「ごめんなさい」

「ぷっ。ハルミ、正直すぎる」

 束本さんの周りにいる子たちが笑う。束本さんも笑ってるから、気を悪くしてはいないのかもしれない。

 でも、良くないね。比べるのなんて。

「ハルミは、女子ウケする子だよね。男子に渡したくない感じじゃん?」

 束本さんが笑顔で言うと、他の子は口々に言った。

「そうかも」

「たしかにー」

「百合に目覚めちゃう感じ?」

「すれてないもんねぇ」

「ツカっち、目覚めちゃう?」

 なんだかよくわからないけど、悪いことじゃなさそう。

 友達、できたってこと、だよね。

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