第4話 モニュメント

 束本さんたちとの約束の日の当日になった。

 待ち合わせ時間は、午前十時。待ち合わせ場所は中学前のバス停だった。本当は地下街のモニュメント前だったけど、束本さんがバス停にしようって言ってくれた。わかりやすい場所のほうがいいだろうからって。

 ツカっち、そう呼ぶように言われたけど、つい束本さんと呼んでしまう。

 バス停に早めに着いてぼんやりしていると、束本さんが私を見つけて手を振る。

「ハルミ、早いね」

「おはよう。早く着きすぎちゃって」

「そうだろうなと思って、早く来たよ。他の子はモニュメントで待ち合わせになったから」

 スマホに連絡あったんだよと、束本さんは言った。

「みんな、持ってるんだね。私は高校入学まで待ちなさいって」

「塾や習い事あったり、親が働いてるからだったりだね。うちの場合、共働きだから連絡手段よ。いろいろ決まり事あるけど、しょうがないよね」

「家に私が使ってもいいタブレットはあるよ。前に住んでた町の友だちとメールしたりちょっとだけ動画みたり」

「手紙よりメールのほうが早いもんね」

 そんなふうに話していると、バスが停まった。

 バスの座席に座ってから、私は気にしていたことを話す。

「洋服買いに行くのって、いつもお母さんとだったから、なんか緊張しちゃうかも」

「私は小学校卒業して春休みに初めてみんなで買いに行ったよ。他の子も似たような感じ」

「そっか。良かった。みんなおしゃれなイメージあるから、慣れてるのかと思ってた」

「お姉さんいる子は、お姉さんがおしゃれだとそうなるみたいよ。私は雑誌見て似たような感じの服を探すかなあ」

 ゆかりが、交換日記に雑誌の切り抜き貼ってたっけ。こういう洋服買ったよって報告だった。

「よくわからないから、束本さんに見てもらいたい」

 バスが終点に着いて、それから待ち合わせ場所のモニュメントに向かった。

 地下街に向かうエスカレーターを下り、広々とした空間の真ん中に、モニュメントはあった。

 それを囲むようにベンチが点在している。待ち合わせ場所にはちょうど良さそうなところ。

「このモニュメント、この町を象徴する戦国大名の家紋モチーフなんだって。あそこの色がついたタイルからモニュメント見ると、ちゃんと家紋の形になるようにデザインされてる。実はね、お父さんがこのモニュメントのデザイナー。おじいちゃんは歴史学者で、日本の中世史を大学で教えていて」

「束本さん、すごい。束本さんはデザイン系、それとも歴史関係? そういう仕事にすすんだりするの?」

 なんだか興奮して束本さんの話を遮ってしまった。

「すごいのは私じゃないよ。でも、ハルミはやっぱりいい子だね」

 え、なんで。私は首を傾げる。

「歴史の話とかモニュメントのこと、興味ないとか自慢とか、適当に流さずにすごいねってさ。あちこちに歴史を感じるこの町が好きだから、ハルミも好きになってもらえたらいいなって思った」

 歴史を感じる町。それを聞いて、祠の話を思い出した。

 発掘作業が始まったと聞いている。

 キューピッドさまの存在を信じるかどうか、信じていいかわからない。祠は確かにあったのだから、どちらでもいい気がしている。

 絵美は違うみたいだけど……。

「私が住んでた町、何もないとこだと思ってた。それでも好きなんだよね。不思議なこともあったし」

「不思議なこと? なんだろう、気になるなあ」

 束本さんにどう話そうか考えていると、他の子もモニュメント前に来たようだった。

「あとで聞かせてね」

 束本さんに、祠の話をしてもいいかな。キューピッドさまの話を相談したら、どう答えてくれるだろう。


 

 

 

 

 

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