第9話 図書室
月曜になった。昨日の出来事は、夢だったのかなと思うくらいに、現実感がない。
私と千紗が帰ったあと、ゆかりと絵美はひかりニュータウンに向かってた。学校に行かなきゃ、二人の話を聞けない。どうなったのか知りたい。
「おはよう」
正門入ってすぐ、千紗をみつけて声をかけた。
「おはよう、ハル」
「もしかして、眠れなかった?」
「うん。ゆかりと絵美が気になって」
「だよね、私も」
会話はそこで止まって、無言で校舎に入る。
階段をあがり始めたところで、
「ハル、千紗! おはよう!」
と、後ろから元気なゆかりの声が聞こえた。振り返ると、笑顔のゆかりがいる。安心する笑顔だ。
「昨日、あれからどうだったの?」
「ひかりニュータウン、広かったあ! 地図持っていったけど、それっぽいところ全部見られなかったよ」
ゆかりは、途中で声のトーンをおとす。ゆかりは話題の中心になりやすいから、気をつけたんだろうと思った。
「ゆかり、おはよー」
教室に入るとすぐ、絵美が挨拶してきた。私と千紗を見たあとに、おまけのように「おはよー。ハル、千紗」と言う。
窓際のゆかりの席に集まった。
「見つかってないってことだよね」
私が、ゆかりを見ながら確認した。
ゆかりは頷く。
「ゆかりの家からの帰りに、アレを神社の境内の端っこの方に埋めてきたよ」
折った鉛筆と破った紙のことだと思った。
「祠探し、次の土日で続きを、ね?」
絵美が、ゆかりを見ながら言う。ゆかりは「そうだよね」と言った。
「私と千紗で、今日の昼休みと放課後、図書室行ってみる。それでわからなかったら、市立図書館だね」
私は千紗を見ながら言った。千紗も頷く。
チャイムが鳴って、私たちはそれぞれの席に戻った。
千紗はもともと、たくさん喋るタイプじゃない。それでも、いつもよりさらに少ない気がするのが気になっていた。
図書室行ったら聞いてみよう。
昼休みになった。私と千紗は、図書室に向かう。
「地元の民話や郷土史があれば手がかりになりそうだよね」
「そうだね」
千紗の言葉に相槌をうつ。少し、元気になったのかな?
図書室に入ると、クラスの図書委員のあやちゃんがいた。
「今日が当番なんだよ。何か探しに来たの?」
返却された本のチェックをしていたあやちゃんには聞けないので、
「面白い本ないかな? 卒業までに、あと一冊読んでおきたいから来てみたんだ」
と、誤魔化した。
「そうなんだ。探しものがとくにないなら、私は当番の仕事してるね」
あやちゃんが、私と千紗から離れたのを見てから、先に本を探している千紗のところに行ってみた。
「郷土史の本、なさそうだよ」
千紗が首を傾げながら言う。
「図書室にないんだったら、市立図書館行かなきゃいけないね」
「学校に歴史に詳しい先生、いないかな?」
私がそう言うと、
「どうしてそれに興味を持ったか聞かれたら困るよね?」
と、千紗が応えた。
確かにそうだなと思った。手がかりになるものは結局ないのかと、図書室を出ることにした。
「なんにもないのが、不思議な気がする」
千紗が呟いた。千紗は悲観的だ。
「小学校の図書室だからかも」
私は、楽観的に考えてみた。
図書室には手がかりになる本がなかったことをゆかりと絵美伝えたら、
「土曜日は図書館に行こうか」
と、ゆかりが言った。
「この町の古地図があるかもしれないから」
「そう、それ。祠の位置がわかるかもしれないから」
絵美の言葉にゆかりがはしゃいだように言ったことで、絵美が得意げな顔をした。
「学校終わったあと、ニュータウン行ける?」
絵美が、私たちの顔をみていく。
千紗は首を振った。
「あたしは、今日、ダンスのレッスン日だよ」
「私は大丈夫。六時までに帰るなら」
「じゃあ、私とハルで昨日見られなかったところ行ってみようよ」
「そうだね」
昼休みが終わって、午後からの授業。私は廊下側の後ろの方の席で、絵美は真ん中あたりの列の前から三番目。だから、よく見える。
千紗が、ぼんやりしているように見えた。寝不足だからというより、心ここにあらず? そんな感じ。
図書室で首を傾げていたことに引っかかってるのかな。千紗は考え過ぎちゃうところがあるから、心配。
授業が終わって、放課後。
千紗は、おばさんの具合が心配だと言い、ゆかりは、ダンスのレッスン前に振り付けの確認すりからと、帰ってしまった。
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