第8話 調べる 

「これから時間あるし、ニュータウンの西側にある、ここの公園の辺りに行ってみない?」

 ゆかりが、地図を指差して言った。

「それ、いいね。行ってみようよ」

 絵美が同意する。

 ゆかりが私と千紗を交互に見る。

「どうする?」と、ゆかりが首をかしげる。

 ひとつひとつの仕草が、テレビで見るアイドルのように可愛い。

 ゆかりは、アイドルに憧れるだけじゃなくて努力もしてる。合唱部に入ったり、おばさんにせがんで東京に行って有名な舞台を生で観たり。ボイストレーニングに通うため、スクールを探しているし、ダンスも習ってる。

 単なる夢で終わらせたくないという強い意志がある。そういうの、かっこいいなと思う。

「私、自転車ないし……」

 千紗が小さな声で言った。

 千紗の声ではっとする。

「今日、私と千紗は、やめておくよ。昼休みや放課後、学校の図書館で昔の地図とこのあたりの民話や歴史を調べてみるから」

 ここまで来たら、祠が本当にあるかどうかじゃなくて、行動しなきゃいけないような気がした。

 でも、祠を探しに行くなら準備をちゃんとしなきゃ。

 祠は、どういう目的でそこに作られたんだろう? 

 知るのが怖いけど、知らないままではいられない。

 それに、願いごとが本当にかなうのなら、ちゃんと探したいという気持ちもあったりする。キューピッド様が悪い何かだとしてもかまわない、というのもある。

 みんなの願いがかなうのなら悪いことじゃない。努力しないで、楽をしようとしてるんじゃない。

なら、すがれるようなものがあれば、がんばれそうだから。

「ハル、大丈夫? 顔が赤いよ?」

 ゆかりが、私の肩を軽く叩いた。思わず、コップを落としそうになる。

 ゆかりが私の顔を覗き込む。すると、

「ハーブティー飲んで体が温まってきたんじゃないの?」

と、絵美がコップをお盆に置きながら言った。

 ゆかりと絵美が夢中で話している間に、ハーブティーを飲み始めていた。リラックスしたかったから。

「そうかも。ハーブティーおいしかったよ。ごちそうさま」

 私はコップに残ったハーブティーを飲み干して、お盆に置いた。千紗も、ゆっくりとコップをお盆に置いた。

「今日は解散かな? あたしと絵美はニュータウンの公園とか見に行くから」

 私はストールをたたんでベッドの上に置く。千紗も同じように置いた。

 それぞれが上着を着て、ゆかりの部屋を出て行く。ゆかりは、「お盆をキッチンへ片付けてくるから、外で待ってて」と言って、早歩きで去っていった。

 私は千紗を見ていた。

 千紗が私の視線に気づいて、目をそらす。

「そう言えば、ひかりニュータウンってほとんど行ったことないんだけど、ハルは?」

と、絵美が訊ねてくる。

「私もほとんどないよ」と答えた。

 絵美は千紗に話を振らない。千紗が、私たち以外の誰かと遊ぶことがないと知ってるから。

 そんな話をしていると、広い玄関に着いた。

 絵美が、「あそこってけっこう広いから大変だと思うんだよね」と言いながら、靴を履く。

 私も靴を履きながら、「でも期限がある訳じゃないし……」と言葉を返す。

「それもそうだね」

 絵美は、相槌をうちながら玄関のドアを開けた。

 玄関を開けたとき、ゆかりが追いついた。

 自転車を駐輪場から出した。

「ニュータウンで何か見つけたら、学校で言うね。ハルと千紗は、図書館で調べるの、よろしく!」

 ゆかりの家の大きな門を抜けて、私と千紗はゆかりと絵美に手を振った。


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