第10話 空き地

「家に帰って着替えたら、ハルの家に行くね。そこから一緒に祠探し、しよ」

 絵美はそれだけ言うと走って帰ってしまった。

 ひかりニュータウンに行くなら、私の家からの方が近い。

 本当に見つかるかわからないのに、ゆかりと絵美は本気なんだと痛感した。

 家に帰って着替える。

 お母さんに、絵美と遊びに行くことを伝えておいた。

 絵美が迎えに来て、自転車二台でまず中学校を目指す。中学の裏門にまわり、裏門から大きな通りをまっすぐ進むと、ゆるい上り坂が少しだけ続く。

 ゆるい上り坂の始まる交差点で、私たちは顔を見合わせる。

「こうやって来てみると、この坂、長いね……」

 私は自転車から降りて、坂の一番上を見つめる。

「ここ、山だったんだなぁって思うよね」

 絵美がしみじみ言った。

「自転車は押していこうか?」

「そうだね。日曜は西側の端から見ていったんだよね。今日は大通りの一番上から東に降りていく道から見ていく? いくつか小さな公園あったし、空き地あった気がする」

 私と絵美は、自転車を押しながら話し合っていた。

「何してんの? 誰の家に行くの?」

 一台の自転車が、ゆるい坂を下って私達の前で停まる。あやちゃんだった。

「ただの散歩だよ」

 絵美が少しあわてた口調で言った。

「散歩? ふうん……?」

 あやちゃんは首をかしげながら、通り過ぎていった。

「適当に誰かの名前言えばよかったのに……」

 私が小声で言うと、

「とっさに名前が出てこなかったの」

と、絵美がしょんぼりした顔でうつむいた。

「大丈夫だよ。散歩してるようにしか見えないよ」

 私はフォローしてみる。

 滅多に来ない場所を歩いているからといって、怪しまられる理由にはならないはず。散歩だと言い切ってしまえば、「ふぅん、そっか」くらいで思ってもらえる。

「そうだよね」

 絵美はほっとしているようだった。

 しばらく無言で歩いていると、絵美が立ち止まって、自信なさげに言った。

「ここ曲がった奥の方に、空き地あるよね」

「うん。見えるよ」

「この地図には、空き地がないみたいなんだ」

 地図には、家が二軒分の敷地となっている。その奥に公園があるとも書いてあって。

「この地図、ゆかりの家にあったものだよね」

「うん。ニュータウンに住んでる人が持ってる地図もこれと同じ……じゃないような気がしない?」

 絵美の言葉に、そんなことあるのかな? と思ったけど、地図と違うというのが目の前に、ある。

「ちょっと、見てみようか?」

 絵美が、地図を折りたたんでバッグに入れた。

 私と絵美は、自転車を押しながらその空き地の前まで歩く。

 そこは、ちょっとした森のようだった。荒れ果ててるのは手前にある背の高い雑草だけで、その奥から丘のように土が盛り上がり、ただの空き地じゃないような雰囲気をかもし出している。

 地図に嘘がある?

「あやしいよね……」

 絵美が言った。

「うん。ここに祠がありそう」

「ほら、あそこ……。関係者以外立ち入り禁止って看板出てるよ」

 絵美は小高い丘の手前に木で作った小さい看板を指差した。

「なんでこんなとこに立ち入り禁止の看板があるんだろう」

 二人で顔を見合わせ、首をかしげる。

「やっぱりあやしいよね」

 絵美一人だけが、わくわくした口調になっている。




 


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