教室前方のドアを開く。

「おはよー。ハッピーバレンタイン」

 鈴城さんの手元には、綺麗にラッピングされたクッキーがある。

「学校にお菓子持ってきたらいけないんじゃ」

「みっちゃんたら真面目ね」

「いつからみっちゃんって呼ぶようになったの」

 後ろから、かおるが顔を覗かせる。

「今からー。かおちゃんのもあるよ。クラスの全員に配ってるから。あ、ウチのことはすずって呼んで」

「ありがと、すず」

 鈴城さんは友達グループと仲良くしていることもあれば、こうして単独行動もできる。正直に言えば、羨ましい。


「ところでかおちゃん、隣のクラスの子が呼んでたよ」

「誰か知り合いいたっけ」

 かおるはそう言いながら、教室を出て行った。彼女の中性的な容姿や話し方は、女子に人気がある。だから毎年この時期になると、チョコレートや何やらをたくさん受け取ってくる。


 かおるは皆が思っているような子じゃないのに。陰では、×すとかいう単語、

平気で使うんだよ? 多分、知っているのは私だけ。

 私だって昔は、笑顔が爽やかだとか、表面的なことしか見ていなかった癖に。こういうことを考える自分が恨めしい。


「インタビューです。みっちゃんとかおちゃんは、どちらが先に声を掛けたんですか」

 鈴城さんが冗談交じりに質問してくる。

 過去を振り返る。あれは、気になる女子がいると幼馴染の圭に言われて。どんな子なのかなと気になって。

「それは、私からだけど」

「みっちゃん、意外と積極的なんだ」

 ああ。また誤解される。

「恋人としては付き合ってはないからね」

 友達付き合いだからね。私にとっては。


「じゃあなんで、今まで否定しなかったの」

 それは、タイミングがなくて。そう答えようとしたけれどやめた。言い訳にしか過ぎないことは、自分でも知っている。

「前さ、遊びに誘おうとしたんだけど。皆に止められたんだよ。あの二人の間には割って入らない方がいいって」

 そんな気配、全然なかった気がするんだけど。


「そもそも、付き合っているって最初に言い出したの、かおちゃんだよ」

 かおるなら言ってもおかしくない。私のことが好きだから。

「だから、みっちゃんとウチらが仲良くするのはダメなんだって。なんか、お気に入りの玩具オモチャを他の人には渡したくないみたいなカンジ? 帰ってきて今の状態見たら、怒るかな」


 放課後。

「知らない人たちからたくさん渡された。みづきにもおすそわけするね」

 かおるが人からもらったお菓子を渡してくるのは、また別の話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る