「ウチは理系。気象予報士目指すの」

「今の学力じゃ無理っしょ」

「これから努力するし。で、テレビの仕事でアイドルとお近づきになる」

「動機が不純」

「なれたとしてもアイドルに会えるとは限らないだろ」


 相変わらず、鈴城さんたちのグループは賑やかだ。

 卒業後の進路が未定でも、二年生から文系と理系のうちどちらのクラスに所属するか、一年生のうちに選んでおかなければならない。

 担任から回収されるよう頼まれた文理選択調査票を、教室から進路指導室へと運ぶ。


 職員室じゃないんだ、と考えながら歩く。

 それにしても、どちらへ進むのか、かおるには尋ねられなかった。じゃあ、かおるが書いたのは。個人情報が記入された用紙の束をめくり、かおるのものを探す。

 小学生の頃、かおるは私に、「正しい行動をしてるから」好きだと言っていた。でもさ、私だって、「正しくない行動」をすること、あるんだよ。


 進路指導室に辿り着く。

「どうも。それで瀬川、話があるんだが」

 調査票の回収は口実で、こっちが本題なんだ。

「京野と付き合っているという噂は本当か?」


「どうして先生まで」

「良いか? 校則では、不純異性交遊は禁止だ。同性については言及されていないが、だからと言って許される訳ではない」

「私たちはそんな関係ではありません」

「言い訳無用。こうした噂が学外にまで広まると、学校全体の評価が下がって、次年度の新入生募集にも影響が出るんだぞ」

 何言ってるんだろう。学外に噂が広まったり学校の評価が下がったりって、本当にあるのかな。それに、もし噂が広まったりしたら、珍しいもの見たさに受験しようとする中学生が増えるかもしれないし。


「秘密にして欲しいなら俺に従え。言うことを聞けば、黙っておいてやる」

 担任が近付いてきて、右手を突き出してくる。昔ドラマやバラエティーでよく見かけた、いわゆる壁ドンだ。

 信じられない。先生がこんな人だったなんて。


「教師が生徒に手を出すことの方が問題ありますけど」

 声と同時にドアが開く。

「京野! 何故ここに」

「ここって、大学受験用の資料があるから誰でも入って良い部屋じゃないですか。滅多に人来ないけど」


「やっぱり男なんて、ケダモノばっかり」

 担任が出て行った後、かおるは毒を吐く。

「アイツは絶対許せない。いつか×す」


 ×す。

 瞬間。かおると担任が血塗れになっている情景が脳内に浮かぶ。

「いやあ」

 助けてもらった癖に、頭を撫でようとしていたかおるの手を払いのけた。

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