夏
「おすすめの曲だよ」
動画サイトのURLと共に、メッセージが送られてくる。
合格祝いとして親から買ってもらったスマホ。アドレス帳に登録している人の数はとても少ない。そして、長い夏休みの間にメッセージを送ってくる相手は、決まってかおるだ。
暇を持て余していたため、URLをタップする。リンク先に出てきたのは、二十代と思わしき女性アーティストが歌うPVだった。
時々かおるが教えてくる曲には、ラブソングが多い。歌詞の意味には気付かないフリをして、当たり障りのない感想を送る。
「綺麗なPVだね。花火とか」
「花火大会楽しみ。来週の土曜」
返信早っ。まだ行くとは言ってないのに。そう返そうとしたら、追加でメッセージがくる。
「去年のみづきの浴衣、可愛かったな。もちろん、いつもの私服も素敵だけど」
なんでもアリか。去年は二人でいたところを後輩に見られて、私だけが浴衣だったから
いっそのこと、小学生の頃に使っていたヨレヨレのTシャツでも着ていこうかしら。試しに衣装ケースの奥から引っ張り出してみたら、サイズが小さすぎて諦めた。
当日、雨が降って中止になれば良いのに。
土曜日。願い通り、天気は雨。
ただ、かおるはそのくらいではめげなかった。
「残念だね。仕方がないから代わりに映画館行こ」
「雨の中外出るの面倒」
正直に返信する。
「みづきの好きなアニメなんだけどな」
「行く」
欲に負けた。結局、かおるは私にとって、都合の良い相手。何しろ、私には一緒に遊んだり、趣味を語り合ったりする友達が、他にいないのだから。罪悪感を覚えながらも、映画を楽しみにしている自分がいた。
映画は、平成という時代に社会現象を巻き起こしたと言われている、セーラー服を身に着けた女の子たちが変身して敵と戦うアニメのリメイク版。以前話題になっていて、観に行ったら面白かった作品の続編。だから確かに気になっていたし、どうなるのかとハラハラしたんだけど。
「はるかとみちる、強い感じあったよね」
かおるはメインではないキャラクターに焦点を当てて、感想を語る。その二人は、女の子同士だけどカップルだと囁かれているから、共感できる部分も多いのだろう。
「オープニングも良かったし。あれ、みづきにピッタリだよね」
「え」
一体かおるの中で私は、どういうイメージになっているのだろう。
そういえば以前の映画では、大物作詞家が手掛けた主題歌が自分にピッタリとか言っていたっけ。
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