「やった! 今年もみづきと同じクラスだ」

 掲示板の前で、かおるが抱きついてくる。奇遇なことに、私たちは同じ高校に合格した。


 四月は、新しい人間関係を構築するチャンスでもある。せっかくだから、高校で初めて会う人たちと友達になりたい。

 だけど、難しいんだろうな。理由は明確。

「みづき、一緒にトイレ行こ」

 こうして休み時間のたびにかおるが近付いてくるから。


 最初の数日は、授業が終わると同時に、前の席の鈴城すずしろさんが振り向いて話しかけてくれていた。中学の頃より難しくなったよねとか、あの先生格好良いよねとか。同意を求めるものがほとんどとはいえ、二択の質問は答えやすくて丁度良い。


 けれども、かおるは会話の途中で割り込んでくる。

「みづき、用事があるからちょっと来て」

「何? 話ならここでも良いよね」

「ごめん。大切なことだから」

 かおるの“大切なこと”は大体予想が付く。だから、あまり乗り気はしない。

「あら、ウチはお邪魔だったかな? 二人でいってらっしゃい」

 鈴城さんだってほら、この通り。


 かおるに連れてこられた場所は、閉鎖されている屋上へと続く階段。人気ひとけがないから内緒話をしやすい。

「用事って」

「悪いんだけど正直言うとね、みづきには他の子とはあまり話して欲しくない」

「そんなこと言ってないで、かおるも皆と仲良くすればいいのに」

「嫌だ。みづきと一緒にいる時間が短くなるじゃん」

 こうなると知ってはいたけれど、軽く頭が痛くなってくる。

「でもさ、このままだと社会に出てからやっていけないよ」

「いいよ、みづきに一緒にいてもらうから」

「一緒にって、いつもは無理だよ」

「ううん、ずっと一緒」

 はあ。思わずため息が出てしまう。高校を卒業したらどうするつもりなのかしら。ずっとって、いつまでなんだろう。


 二週間も経てば、クラスの中で自然と、友達グループが出来あがってしまう。ほとんどは同じ中学校の人同士。ついでに、誰と誰が同じグループなのかも皆に認識される。


「聞いた? 京野きょうのさんと瀬川せがわさんって、付き合ってるらしいよ」

「まさかあ」

 噂話なら、せめて本人がいないところですれば良いのに。

「気になるなら確かめたら良いじゃん」

 会話をしていたグループの中から、鈴城さんがこちらへ向かってくる。


「ねえ、二人って付き合ってんの?」

「そういう風に見える?」

 かおるが笑顔で答える。

「僕、みづきのこと好きだよ。みづきもだよね」

 訂正しよう。二択の質問は答えやすいと思っていたことを。

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