第14話

 

 俺たちは本体の、ありすの願いを叶えた夕日色のアオユウヒを探す。

 その方法と言っても単純で。

 三人で横一列に並んで、しらみつぶしに探していくしかない。


 ローラー作戦だ。


 海岸から頂上へと登っていき、くまなく周囲のアオユウヒを見ていく。

 頂上へ登れば、また道をずらして探す。

 

 元々、ヘリポートとベースキャンプ、海岸までの道のりだって、なんとか歩けるようにした道だ。俺たちが今歩く道は更に酷く、何度も転んだり、滑ったり、手足は長袖長ズボンで守っていても、生傷が絶えない。

 特に小柄なあいらは何度も転んだ。

 そのたびに、俺が手を差し伸べても、彼女はその手を振り払い、果敢にも前に進もうとする。


 その後ろ姿は、初めて出逢った日……自転車を漕ぐあいらの後ろ姿と同じで。

 こんなに小さいのに、なんて強い子なんだろうと感心するばかり。

 いや、あいらを強くしているのはありすの存在であって。

 俺だって、二人の絆に負けない気持ちで青い花を掻き分けて、くまなく夕日色のそれを探した。





 夜になれば、ありすが眠る海岸へと戻り、キャンプをする。


「――ありす、ありす。ごはん、食べられる?」


 海岸の岩を枕に、横たわるありすの耳元で優しく尋ねる。

 しかし、ありすはうっすらとまぶたを開けると小さく「いらない」と答えた。


「お姉ちゃん、何か食べないと元気がでないよ?!」


 あいらは、ありすの口元へとスイカを持ってくる。四分の一に切られたスイカ。


「ほら、お姉ちゃんの大好きなスイカだよ!?」


 小さく首を振り、すうっと眠りに入るありす。

 その姿に衝撃を受けたあいら。


 スイカを持ったまま、立ち尽くしている。


 ――すると突如、その赤い実を手でぐしゃりと掴むと、ありすの乾いた唇に押し当てた。


 無理やり果実を押し込むと少し喉が動いた。

 あいらは一心不乱に、スイカをありすに与える。


「食べて! 食べてよ……! お願いだから!……お姉ちゃん……!!」


 赤く滴るあいらの腕。しかし、その水滴すらありすは飲みこまなくなる。

 本格的に眠ってしまったようだ。


 あいらは項垂れ、スイカをその場に落とした。

 地面に叩きつけられて割れたスイカに蟻が群がり始める。


 落ち込むあいらの肩を、早川博士が叩いた。


「……ありすちゃんは疲れているんだ。俺たちだって一日動きっぱなしで疲れただろ? もう寝よう。たくさん寝て、体力を回復させて、明日には必ず夕日色のアオユウヒを見つけような!」



 ありすのすぐ傍で、俺と早川博士のテント、あいらのテントに分かれて眠りに入る。

 俺たちが捜索しているのは昼間だって危ない未開の地。夜はしっかり休んで日の出と共に活動しようと博士と決めたのだ。


 一日中島を歩き回り、俺もあいらも博士だって足は血マメだらけ。歩くだけで針に足が刺さる様な激痛を感じる。体は疲労している。とても重い。


 しかし、眠れない。


 怖くて。こうして眠っているうちにありすの命が消えてなくなってしまうんじゃないかと思うと、怖くて、俺は眠れなかった。

 隣の寝袋に包まった博士は横になった瞬間に豪快ないびきをかき始めた。

 その豪快ないびきが途切れる合間に、外から啜り泣く様な音が聞こえた。

 

 それは、隣接するテントの中からで。


 俺は重たい体をゆっくりと起こし、テントの外へと出た。

 眠るありすを見上げる。小さく胸が上下に揺れている。その自然な命の営みに安心する。

 啜り声はやはりあいらのテントからだった。


「あいら……」


 声を掛けた。すると啜り声が途絶えた。


「あいら、大丈夫か?」


「…………」


「眠れないよな……俺も、すっげえ疲れているし瞼は重いのに、心がザワザワして、なんだか不安で寝れないんだよ」


 そう呟いた時、テント入口のチャックがジジジ……と音を立てて開いた。

 そして、あいらは言った。


「桐谷、入ってきて」

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