第12話
翌朝、女性陣は早急に夕日島から避難することが決定した。
その代わり、早川博士の信頼がおける人材を呼び寄せる事にしたのだが、いきなり明日から無人島に来られる人材など居る訳がなくて。
数日の間は、俺と早川博士だけになりそうだ。
最低限の荷物だけを持った女性陣がヘリコプターに乗って八丈島へと避難していく。
野口さんがピストン輸送し、最後の便であいらとあいらの母親と美津さんが避難する事になった。
ずっと俯くあいら。
俺は何か声を掛けようとしたが、酷く睨まれる。
きっと妹の自分がありすの傍から離れなくてはいけないのに、他人の俺と博士が残ることへの抗議なんだろう。気持ちはすごく分かる。
あいらの母親が博士に深々と頭を下げてありすの事を頼んでいる。
その後、美津さんが博士の鍛えた腹筋に軽くパンチして「絶対に、ありすちゃんを助けてやってよ」と言う。そんな美津さんを博士は片手で抱きしめた。
三人を乗せたヘリコプターのメインローターが風を起こしてゆっくりと青空へと上昇する。
俺は日の光で眩い空を目を細めて見守る。
――だが。
しばらく経っても、ヘリコプターは上空で浮いたまま前進しない。
俺と博士が顔を見合わせていると、ヘリコプターが降下してくるではないか。
「機材トラブルか?!」
やがて地上まであと数メートルという所まで降下した時、ドアが開いた。
そこには風圧にポニーテールが靡くあいらが立っていて。
「桐谷、受け止めろ!」
「!?……!?……はあ!?」
あいらがジャンプした。
ヘリコプターの内部から、博士から、悲鳴が響いた。
俺は無我夢中で、跳んできたあいらを受け止めた。
しかし、いくら小柄のあいらでも、上空から跳んできた体は衝撃が強くて重たくて。体勢を崩し、二人してヘリポートをゴロゴロと際まで転がった。あいらの頭を守りながら。
その間に、ヘリコプターは再び上昇していく。
「お、おい! ヘリが上がっていくぞ!?」
「いいの!! ママ達には、私をここに残さないと、今すぐ落ちて死ぬって言ったから!」
その過激な台詞に面食らう俺と博士。
あいらは下地になっていた俺の胸元からムクリと起き上がると「さ! お姉ちゃんのところに戻ろうよ!」なんて言っている。
博士はその発言に呆れて、頭を抱えている。
こいつ、何も分かっていない。
さすがの俺も、あいらの勝手な行動にふつふつと怒りが沸いた。
あいらの腕を引っ張ると、強めの口調で言った。
「あいら! 分かれよ! ここは女の子にとって、危ない島なんだよ!!」
「……だから?」
「お前が危険な目にあって、ありすが喜ぶとても思うのか!?」
「……別に『お願い』しなきゃ大丈夫だろ……」
なんて、ぼそりと呟くあいら。
あまりの危機感のなさに、男だったら殴っていたかもしれない。
「私だって、ライフルが使えるんだ。だから平気だよ」
「でもな、あいらちゃん。本当にどうなるか分からないんだ!」
「嫌だ。絶対に私もここに居る。お願いだよ。自分の身は自分で守るから」
延々と押し問答を続けても、あいらは引かない。
すると博士はオーバーなほど大きなため息をついて、指を二つ立てた。
「……じゃあ、分かった。でも、二つ約束して欲しい。一つ目。絶対に俺と斗真君から離れない事」
あいらは素直にコクリと頷いた。
「二つ目。もしも君がアオユウヒに寄生されてしまった場合……最悪、俺たちは君を殺すかもしれない。……それでも、いいね?」
あいらは迷うことなく、頷いた。
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