第30話 雷鳴

「服部くん……!」


 由愛は肺が張り裂けるほど、呼吸を繰り返しながら祐の元へと向かっていた。



 由愛が目を覚ましてから、父と母から事情を聞いた。

 ここまで祐が連れてきてくれたこと。

 2人は由愛を助けようとしてくれていたこと。

 そして、祐は突如として襲来した謎の敵を追いかけていったこと。


 由愛は胸騒ぎが止まらなかった。自分が言ったところで役に立たないかもしれないが、それでも行かずにはいられなかった。


「ほ、本気かい由愛!」

「まずは助けを呼んでから……!」

「ごめん、パパ、ママ。なんだか、すごく嫌な感じがするの。お願い、行かせて……!」

「ゆ、由愛!」

「パパとママは、助けを呼んできて!」


 2人の制止を振り切って由愛は駆けだしていた。

 自分の感覚を信じるままに、もはや慣れ親しんだ波長を追いかけると、大きな野原に出た。


 そこに2人。

 1人はフラフラになりながらも立っている少年と、黒装束の男。


「服部くん!!!」


 喉が張り裂けるほど大きな声をあげた。

 しかし、もう遅かった。


「あ──」


 黒装束の男は弾丸の如く駆けて、少年の心臓を打ち抜いた。


「ごふっ……」


 少年は少量の血を吐き出し、ゆっくりと、膝から崩れ落ちた。


「服部、くん……?」


 あれほど頼もしかった忍者は、恋焦がれていた忍者は、目の前で、倒れた。


「そちらから来てくれるとは好都合」

「……嘘、嘘だよね、服部くん……」

「心の臓を打った。もはや助かる余地はない」


 ゆっくりと、ふらふらと、由愛は祐に駆け寄る。

 生気が感じられない。

 祐はピクリとも動かず、ただ寝転んでいた。

 そこには、死があった。


「あ……あぁ……」

「安心しろ。すぐに後を追わせてやる」


 男は懐からクナイを取り出し、振り下ろそうとした時だった。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「ぬぅ!?」


 突然、由愛の体から電撃が走った。

 男は即座に身の危険を察知し、身を引いた。


「服部くん……! 服部くん……!」


 由愛を中心にいくつもの雷撃が辺りに走り、空からは稲妻まで降り出していた。


「暴走か……? いや、それにしては異能者自身の意識ははっきりしておる……どちらかといえば、異能の”開花”に近いな」


 由愛は微弱な電気を放ったり、他者の波長を感じ取ったりと比較的控えめな能力だったが、”開花”することで電撃を放ち、稲妻を降り注ぐまでに成長してしまっていた。


「まるでこの世の終わり……異能者らしい異能に成り果ててしまったか」


 クナイを構えなおす。

 接近することは不可能に等しい。

 ならば、投擲武器らしく、投擲して命を奪う他ない。


「さらばだ……!」


 投げられたクナイは一直線に、由愛の頭部めがけて放たれた。

 由愛に避けるという考えはない。目の前の祐の死を嘆くことしかできない。


 クナイが頭部へ突き刺さる、その一瞬より先に。

 それを素手で止めた、忍者がいた。

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