第24話 証拠はここに
伊神の会社に潜入し、ようやく最上階まで来ることができた。
現に俺は、こうして伊神が日々ふんぞり返っているであろう社長室へと足を踏み入れている。
「お、お前は誰だ!?」
「ただの配達員です。それより──」
チラリと望月さんの姿を確認する。
「……」
彼女は何も言わず、ただ涙ぐんでこちらを見ていた。
あちこち傷だらけだ。
きっと痛い思い、怖い思いをしたのだろう。
自然に手に力が入る。
言い表せないほどの怒りが込み上げてくるが、グッとこらえる。ここで我を忘れて暴れまわっては、全てが台無しにするわけにはいかない。
「お、お前、忍者協会の人間だな!?」
「答える義理は無い」
一歩、一歩と、伊神との距離を詰める。
「お、おい。いいのか? 私は異能のために──」
「嘘つかないで! 忍者さん、この人、異能者を海外に売り飛ばしたり、とにかく会悪いことをしてるの! 証拠だって──」
「黙れぇっ! お前はしゃべるなあああああああああああああああああああ!!!」
「え──」
伊神は懐に隠していた拳銃を取り出し、ためらいもなく引き金を引いた。
それを見逃すほど、俺の腕は衰えていなかった。
キィン。
俺は銃弾の速度に合わせて、装束の小手で弾丸を弾いた。
「な、な……」
「ありがとう。キミの勇気は、無駄にはしない」
「……うん」
もう、躊躇いはない。
伊神との距離を詰め、後はこいつを殴り飛ばすだけだ。
『社長。電話に出ないということは、緊急事態ですかな?』
部屋の中に、聞き覚えの無い男の声が響き渡った。
「こ、この声……あの研究者の……!」
「む、村田か!?」
『おぉ、なんだいるじゃないですか。スマホに出なかったから、緊急用の連絡先を使わせてもらっていますよ。結論から言うと、部外者の扱いをどうするか決めかねていましてね』
「ぶ、部外者……?」
『あぁ。見てもらうのが早いか。スマホを見ていただければ』
そう言うと、伊神はスマホを取り出し画面を見た。
そして、恐怖におびえた顔は段々と、邪悪な笑みへと変わっていった。
「……くく、はは。はっはっは。はーっはっはっは!! よくやった村田ぁ! おいクソ忍者ぁ!」
伊神はこれ見よがしにスマホの画面を見せた。
「これは、お前たちの仲間じゃないのかぁ?」
そこに映っていたのは、仮面が半分取れかかっているメイドさんが、ボロボロに傷つきながらも攻撃を避けている姿だった。
一体どれくらいそうしていたのだろうか。息は上がり、服もところどころ破けている。彼女をそこまで追い詰めることができる人物は、早々いない。
「京香さ──あ」
望月さんはしまった、という顔をしたが、伊神には既に感づかれている。
遅かれ早かれ、橘さんと俺たちがグルなのはバレてしまっていただろう。
「さぁ、大人しくしてもらおうか。こっちはこのメイドをどんな方法でも殺せるんだからな」
「どんな方法でも……?」
「あぁ。村田、せっかくだから見せてくれないか?」
『くくっ、超機密情報ですぞ?』
「構わん、お前も見せたくて仕方ないだろう?」
『ではその通りに。ほれ』
スマホを内カメラにしたのか、村田と呼ばれる研究者の顔と、その後ろに大勢の人が見えた。その全員が、目に生気は宿っておらず、心あらずな様子だった。
『見たまえ。これが全部異能者だ。斬撃能力を持つ者もいれば、体を硬化させる能力、巨大化もいたかな? 殺し方は選り取り見取りというわけだ』
「……」
「み、みんな……! お願い目を覚まして! そいつに洗脳させられてるんだよ!?」
『無駄無駄。私が何度こいつらに洗脳をかけたと思っているんだ。それこそ、体をズタズタに傷つけても違和感を感じないほどにな』
「クズ野郎が」
我慢できず、拳を握りしめた。力強く握りしめすぎたせいで、爪が手に食い込み血が滴り落ちる。
「お、おっと待て! 動くなよ? このメイドの命がどうなってもいいのか?」
『……』
画面が再びメイドを映している。
画面の向こうで、京香さんは何も言わない。
あれは覚悟を決めた瞳だ。このまま殺されても悔いはない。そう言っているような気さえする。
「悪い橘さん」
「ちょ、ちょっと忍者さん!! まさか京香さんを見捨てる気!?」
「いや、今の悪いは、待たせて悪いって意味だ」
俺はポケットから、スマホを取り出した。
「さっきの会話、しっかりこのスマホにも聞かせてもらったよ。会話内容は、今頃警官にいってるはずだ」
「……! じゃあ……!」
「あぁ、今頃警官が──」
「くく、はははっ!! はーーーーーーはっはっは!!!」
「な、なにがおかしいの!?」
「いや、そこまでバカとは思わなくてな……。俺がそんな小さな権力に屈すると思ったか? 警察に連絡したとして、到着までどれくらいだ? そして、更に絶望的な情報だ。俺は、警察内部に既に根回しは完了してるんだよ」
「そ、そんな……」
「理解できたか? 会話の内容なんて、いくらとっても無意味──」
『あ~、すんませ~ん。何かこの近くでぇ、乱闘騒ぎがあるって聞いてきたんですけどぉ』
間の抜けた声が、伊神の持っているスマホから聞こえてきた。
「はは……。手伝わないとか何やかんや言ってたけど、やっぱり近くにいたんだ」
「な、なんだ……誰だ今の声は!?」
「俺は警察に電話なんかしてない。ただ、知り合いの警官に電話しただけだ。不真面目で、だらしなくて、ふざけてて、その上ギャンブル中毒者。もうどうしようもない。でも、そんなどうしようもない時にこそ、頼りになるお巡りさんにな」
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