第18話 伊神コーポレーションと忍者協会

「邪魔するよ」

「これはこれは、ようこそお越しくださいました」


 ある日、異色な組み合わせの二人が顔を合わせていた。


 一人は伊神コーポレーションの社長である伊神真司いかみしんじ

 そしてもう一人は、忍者協会のトップである百鬼知代なきりともよだった。


 二人は伊神コーポレーションの社長室で向かい合い、楽し気に話していた。


「それにしても立派なビルだね。言うだけのことはある」

「いえいえ、百鬼さんの屋敷も素敵ですよ」

「はっ、皮肉かい?」

「とんでもない」


 軽い世間話をした後、二人の顔つきが変わる。


「それで、どうでしたか? 我が伊神コーポレーションの異能研究施設は」

「あぁ、見せてもらったが、中々良いところじゃないか。土地も広大、潤沢な施設、決め手は異能者たちの様子だね。のびのびと暮らしてそうだ」

「それは良かった。信頼を得た、と思ってもよろしいですか?」

「あぁ。最初は異能者を気に掛けるアンタをどう殺してやろうかと思ったぐらいだが、あんたの異能に対する真剣さは理解できたよ」

「はは……それは怖い」


 伊神が恐怖を紛らわすためにテーブルに置いてあるコーヒーカップを口に着けた。その時、ボソッと百鬼は呟いた。


「ここだけの話、アタシは異能者なんて認めていないんだよ」

「おや……てっきり忍者は異能者と手と手を取り合い、協力し合う仲だと思っていました。実際、忍者協会ではこのような異能者リストで異能者を管理しているじゃないですか」


 伊神がテーブルの脇に置いてあったバインダーに目を向けた。

 そこには異能者の名前、年齢、性別、基本的な情報に加え異能の能力まで細かく記載されているリストだった。


「昔の話さ。神様が与えた能力、すなわち神の遣いだなんて言われていたが、アタシにとってはただの化け物としか思えないね。普通の人間が火や水を自由に出したりできるかい?」

「それは……」

「おっと、すまないね。配慮が欠けていた。あんたの弟も異能者だったね」

「……いえ。百鬼さんのような意見はよく耳にしますから。……でも、私は百鬼さんにも異能者に対して理解を得られるよう、努力するつもりですよ」

「ふっ、言うじゃないか。頼もしい限りだね」


 満足げな顔をして百鬼は立ち上がった。


「それじゃ、リストはしっかり渡したからね。他所に漏らしでもしたら承知しないよ」

「もう行かれるのですか?」

「あぁ。仕事の邪魔をするつもりはないからね」


 そう言って、百鬼は立ち去った。


「……」


 誰もいない、静かな部屋で伊神は渡されたリストを見つめ、口の端をゆがませた。

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