第10話 忍び寄る影
今日も今日とて望月さんには異能を使って周りを警戒してもらった。
学校にいる間も意識して能力を使って、怪しげな気配はないか探してみたのだが、特に異変は見つからなかったようだ。
そして帰り道、今も絶賛修行中である。
「むむむむむ……」
両指を側頭部に当てながら、唸っていた。その所作で気配を感知できるのか本人に聞いたところ。
「雰囲気でやってるよ?」
との事だったので、特に意味は無いらしい。
「ふへぇ……疲れた……」
「異能って使い続けると疲れるんだ」
「うん。何て言えばいいのかな……勉強がんばりまくった後、みたいな。意識がちょっとぼーっとして、もう何も考えたくない~、みたいな感じ」
「なる……ほど……?」
分かるような分からないような。とにかく疲れるらしい。
「あまり無理はしないようにね」
「えへへ、うん」
注意をしたつもりなのだが、なぜか喜ばれてしまった。予想外の反応に思わず首をかく振りをして明後日の方向を向いてしまう。
「あれ、今何か──」
「しっ!」
望月さんが感知するタイミングとほぼ同時だった。
左斜め前方、距離にして約40メートルほど。交差点の向かい側。スーツを着た3人組がいた。
「服部君、あの人たち──」
「あぁ、俺も分かった。歩き方が仕草が普通のそれと違う。おそらく、望月さんを襲った連中に関係があるとみていいと思う」
緊張が走る。頭をフル回転し、この状況での最善策をいち早く模索する。
「幸い、あっちは気づいてないみたいだ。望月さん、迂回しよう」
「う、うん」
家に直線で帰るルートを変更し、右回りで迂回する。
おそらく、望月さんの顔は割れてしまっている。
遠目でも顔を見られたらヤバイ。
「望月さん、マスクを被ってくれると助かる」
「分かった。グラサンは?」
「それはいらない」
過度な変装は自分は身分を隠したいですよ、と周りにアピールしているようなものだ。
なるべく自然に、顔が分かりにくくなり、かつ身に着けていても不思議でないもの。今だとマスクが最適だろう。
幸い、望月さんは持っていたらしいのでそれをひとまず着用。
迂回しながら家へと向かう。
「服部君、そっちは危ないかも……」
「分かるの?」
「うん、嫌な感じがする。今のまま進むと、多分鉢合わせる」
俺は見えているものだけを警戒することしかできないが、望月さんは更にその先を行っている。
まるでスマホの位置情報機能だ。
見えないものの位置まで感じ取れているとは。
「分かった。望月さん、異能は後どれくらい使えそう?」
「……ごめん、後1,できても2回、意識を集中させるのが限界っぽい。それ以上は倒れちゃうかも」
「了解。後はこっちでなんとかする」
更に迂回し、進む。
なるだけ視界が遮れるものが多い道へ。周り角が多い住宅街を進む。
いつもなら既に家に到着している時間だが、全然到達できる気配がない。
迂回しているから勿論そうなのだが、時間の進みが異常に遅く感じる。
警戒に警戒を重ねた結果、ようやく終わりが見えてきた。
後は角を2回ほど曲がり、直進すればわが家へと至る。
「っ!」
いる。
曲がり角の先、2人の足音。
アスファルトを歩いているのに、砂の上を歩いているような静かな足音。
「服部君……!」
異能を使ったのか、望月さんも気づいたようだ。
身を隠せそうな場所は無い。
望月さんを抱えて屋根に上ることも考えたが、あちらの実力が分からないし、近くに他の連中がいると非常に厄介。
派手な動きはできない。
であるならば──。
「ごめん、望月さん……!」
「え──きゃっ」
少し強引に望月さんを壁に押し付ける。
いわゆる壁ドンというやつだ。
そして顔を極限にまで近づけた。
「「……」」
2人して息が止まる。
無限ともいえる時間が流れる。
後ろで足音が聞こえる。
チッ、という舌打ちが聞こえた気がする。
足音が過ぎていく。
横目で奴らの姿が消えたことが確認できた。
「──ぷはっ!」
急速に体を離し、呼吸を再開する。
潜水を終えた後のような気分だ。
「ご、ごめん望月さんっ!」
「う、うん……ダイジョブ……ダイジョブ……」
全然そうは見えなかった。
これでもかというくらい顔が真っ赤だ。
普段が明るいから異性にもめちゃくちゃ慣れてるかと思っていたが、実はそうでもないのか……?
そんなことを考えてる場合じゃない。危機は去った。後は家へ帰るのみだ。
その後無事に家へ帰ることができた。
しかし、これも一時の喜びに過ぎない。
俺はすぐにじいちゃん、望月さんのおじいちゃん。橘さんにも事情を話した。
「ふむ……事態はかなり深刻なようじゃな。友則、なぜすぐにワシに話してくれんかったのじゃ」
意外なことに、望月さんのおじいちゃんは事情を話してなかったらしい。
「……すまん。お前には借りが数え切れんほどある。そこから更に借りを作るなどという真似は、ワシにはできなかった」
「おじいちゃん……」
「だが、もはやなりふり構ってはいられぬな……」
そう言うと、望月さんのおじいちゃんは膝をつき始めた。
おそらく土下座するのだろう。
しかし、それをじいちゃんは止めた。
「よせ、友の土下座など見る気は無い」
「じゃが……」
「すぐに嵐子に調べさせよう。連中の素性が分かれば、対策の取りようもあるじゃろうて」
「私も、微力ながらお手伝いいたします」
「はっはっは。橘くんの出番はまだまだ先じゃろう。時が来たとき、存分に力を貸してもらうぞ」
「御意に」
「以蔵……! すまん、恩に着る……!」
「私からも、ありがとうございます」
2人は深々と頭を下げた。
「良い良い。困った時はお互い様。弱きを助け、強きは天誅。服部家としてこれほど腕が鳴ることはないぞ」
じいちゃんはよくこの言葉を口にする。それだけ代々継いできた忍者としての生き方に誇りを持っているのだろう。
「祐。お前も手伝うのを止めはせんが、無理──いや、無茶はするなよ」
「分かってるよ」
「あの、服部君を責めないでください。私のために、一杯頑張って……あ、あんなことまで……」
そう言って望月さんは顔が真っ赤になっていく。
あまり誤解を招くような言い方をしないでほしい。
ほら、横でじいちゃんが何か察してしまった。
「祐、お前……修行と称していかがわしいことを……」
「してないしてない」
「若……念のため聞きますが、避妊は……」
「念のため聞かなくていい! というか2人が想像しているようなことはしてないからな!」
「橘くん、今夜は赤飯を頼む」
「御意に」
ダメだ。この2人。早く何とかしないと。
そのころ、スーツの連中は会議室のような部屋に集まっていた。
一番前の教壇にはリーダーらしき人物がため息交じりに部下の報告を聞いていた。
連中のリーダーも内心少し焦っていた。
こちらは多くの人出を割いているというのに、一向に見つからない。
何の成果もあげられませんでした、とは報告できない。
「あの、リーダー。この街からはもう出てるんじゃ……」
「それはねぇ。外に出るルートには既に見張らせてある。そいつらからは報告を受けちゃいねぇ」
「じゃあ、人を増やすとか……」
「馬鹿か。ジジイとガキ。たかが2人探すのに今でさえ人手を使いすぎてる。これ以上俺を怒らせるなよ?」
「も、申し訳ありません……!」
空気が一気に張り詰める。
ここ数日、何も進展がない。
上司の怒りと部下の恐怖が入り交じり、部屋の空気は最悪だった。
「だが、人を増やすってのは悪くねぇ」
「え……?」
「これだけ人手を使って見つけられないんだ。やつら、味方をつけやがったに違いねぇ」
「で、では……」
「へっ、こっちも増やしてやるよ。その手のプロをな」
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