128 閑話・しばらくは退屈することはなさそう ―精霊side―

「あの左手は高度な技術で作られた義手だな。そして、あの右手首の腕輪は精霊召喚のマジックアイテム。この時代にまで残ってる物があったのか……ああ、そうか。ダンジョンか。失われたアイテムもドロップとして出ることがあると聞く。しかし、召喚アイテムはかなり適性がないとドロップしないはずなのだが……?一つに一体のハズなのに……?」


 土の精霊王が何かおっしゃっていますが、意味が分かりません。


 そんなことよりも、あのスープのお肉、何のお肉でしょうか?

 火の精霊獣も美味しかったようで、おかわりを要求しています。

 そんなに美味しいのですか?

 精霊たちも気になるようで、少し離れた位置でじーっと見ています。あまり近付くと、あの契約者、勘がいいようなので気付かれしまいますからね。


 契約者がちゃんとおかわりを買ってあげました。

 火の精霊獣だけじゃなく、精霊獣六体全員に。

 優しい契約者なのですね!




 あっ!あれはスリですよ!

 獲物を物色しているようですが、上質な服装や装備からしても、どう見ても羽振りがいい契約者に目を付けた……おや?猫型精霊獣たちも姿を隠していませんね。まさか、精霊獣たちも狙っているのでしょうか。


 あら、どこからか飛んで来た石がスリの頭に落ちましたね。

 なんて運が悪い……いえ、契約者の仕業しわざでしたか。危機管理、ちゃんとしてますね。


 ……ん?あれ?この場合、精霊獣たちがどうにかするものでは?

 契約者、強くて危機管理もちゃんとしているので、特にやることがないのでしょうか。

 いえ、契約者と一緒に食べ歩きをするのも立派なお役目ですね!

 一人で食べ歩くのも、少々寂しいでしょうから。



 一定の距離を保ち、このまま観察していると、精霊獣たちはかなりいい待遇をされているようです。

 個別に名前を付けてもらい、専用の食器まであります。

 人間の食べ物、とても美味しそうですね。

 精霊が食べると多少の魔力に変換されるだけですが、味覚はちゃんとあるようです。

 精霊は食べなくても魔力があれば問題ない、というのは契約者も知っているハズです。

 なのに、存分に食べさせるのは何か深い理由でもあるのでしょうか?


 ああ!気になりますね!

 ……ん?分かりました!だから、様子見に行った若い精霊たちが帰って来なかったのですね!気になって。



「ところで、みんな。一体、いつまで見てるつもりだ?」


 ダメなのでしょうか?


「ずーーっと見られてるのは気にならんか?」


 気になりますね。

 ですが、精霊は見えなくなっていますから。

 ……あっ!!消えました!

 何故か、消えてしまいました!

 契約者も精霊獣たちも!


「契約者自身が【影転移】が使えるのか。ならば、そこまで気にならんのかもな。さすがに追えんし」


 影の精霊に頼めばいいだけでは?何らか痕跡があるでしょうし。


「却下だ。そこまでして追うのは『人間に干渉している』に入るぞ。そうじゃなくても、あちらの方がレベルが高いから高位の精霊しか追えんだろうけどな」


 ほらほら、帰るぞ、と土の精霊王が促して、見物に来た精霊たちは精霊の里に帰ることになりました。

 たくさんの精霊が人間の側に長くいるのも、何らか影響してしまいますので。


 それにしても、精霊獣たちの契約者は「いい人間」のようですが、それだけに残念ですね。人間の寿命はとても短いですから。

 精霊にとってはすぐ過ぎてしまうような、ほんのわずかな時間です。

 では、土産話を楽しみにしていましょう。



 ******



 少しして若い精霊たちが情報を持ち帰って来ました。

 ……え?六体の精霊獣たちの契約者、先祖返りの血筋とステータスを上げているので、500年ぐらいは余裕で生きるのですか?

 さすがに、その年月は精霊にとっても短くはありません。

 みんなでまた『見学』に参りましょうか。


 え、ストーカー?人間の言葉で言うと?

 違いますよ。見学ですよ、見学。

 あの美味しそうな食べ物、分けてくれると嬉しいのですが……え、それだと『タカリ』という迷惑なものになるのですか。

 人間社会は難しいですね。



 基本的に精霊たちは暇を持て余していますが、しばらくは退屈することはなさそうです。


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