127 閑話・見に行くだけでは干渉にならん ―精霊side―

 そんなある時。

 最初に土の精霊獣が召喚されました。

 続いて影の精霊獣。

 数日空けて水の精霊獣、風の精霊獣、光の精霊獣、火の精霊獣が召喚されました。

 短期間で六体も、です!

 しかも、すべて猫型の高位精霊獣です!

 獣型を取る精霊はその性状で自然とその形になる場合と、精霊の好みで獣型になっている場合とがあります。獣型と他の形の精霊たちとの位階の差はまったくありません。


 そんな高位精霊獣を召喚したのは、どういった人間たちなのでしょう?


 精霊の里の精霊たちはざわめきました。

 ほぼ一斉に六体もの召喚は、精霊の歴史上、まったくなかった事態です。

 人間たちに何かあったのでしょうか。

 魔法が衰退するに従い、召喚魔法も衰退しています。

 あの忌々しいエルフの精霊魔法ですら、召喚出来るのは、せいぜい下位の精霊程度です。

 時々生まれる才能溢れる特異個体でもたくさん生まれたのでしょうか。



 どこでも自由に行ける若い精霊たちが大勢、様子を見に行きます。

 しかし、若い精霊たちは中々帰って来ませんでした。

 精霊たちは更にざわめきました。

 何か悪いことでも起こったのでしょうか。

 それとも、逆に面白いことになっているのでしょうか。

 精霊たちは基本的に暇なので、物見高い所があるのです。


「どうしたのだ?何を騒いでいる?」


 眠っていた土の精霊王が起きて来ました。

 精霊たちみんなで説明します。


「なんだ、そんなことか。高位精霊獣なのだから、何か悪いことが起こったわけではあるまい。様子を見に行った連中がどうして帰って来ないのかは見に行けばよかろう」


 契約した精霊以外は人間たちには不干渉では?


「見に行くだけでは干渉にならん」


 そうだったのか!と精霊たちはざわめきました。

 みんな、あまり力のない若い精霊たちだけが、自由にどこにでも行けるのだと思っていましたから。


「…とはいえ、ちゃんと姿を消して行けよ。精霊の姿を見れば人間たちは騒ぐだろう」


 はーい!


 みんな、いい返事をしたのですが、土の精霊王は不安に思われたようです。

 みんなで見に行くことになりました。

 精霊獣たちが召喚された場所はすぐ分かりました。

 高位精霊獣は生まれたての精霊でも本能ですぐ分かるぐらい力が大きく、あらゆる場所に精霊がいるので後は訊くだけでしたから。

 人間の捜査方法で『聞き込み』というヤツです。


 召喚された猫型精霊獣たちは……すごい目に遭っていました。

 一体、どうしてこうなってるのでしょう?


 人間と一緒に精霊獣たちも人間の食べ物を食べている上、店の人にオマケまでされているのですが……。

 食べ易いよう串も外してくれているのです!


 え?精霊って人間の食べ物を食べられるのですか?

 猫型精霊獣たちは美味しそうに食べています。

 高位精霊獣だから味も分かる、のでしょうか。

 いえ、それよりも!

 六体の猫型精霊獣たち全員、一人の人間に召喚されたのでしょうか?

 ここに全員揃っている、ということは。


「ほう、珍しい人間だな。帰って来んわけだ」


 土の精霊王は納得されてようです。

 どういった意味でしょう?

 珍しい?…ああ、契約者は虹色光沢の夜色の髪で、綺麗なエメラルドグリーンの目をしているからですか。

 エメラルドグリーン?

 まさか、遥か昔の伝説の……。


「先祖返りだろう。目の色と優れた身体能力を受け継いだ替わりに、魔力を貯める器に恵まれなかったようだが……何だ、あの左手は。マジックアイテムか?」


 契約者の左手?ありますが……。

 そんなことより、あのゴロゴロしているのを至上としている猫型精霊獣たちが、この短期間で随分と契約者に懐いていますね。

 おや?契約者は精霊獣たちが食べたがる物を好きなだけ与えているのですか。

 ん?人間なのに精霊のためにお金を払うのですか?


 ええっ?

 精霊たちみんな、驚きました。



 人間は生きて行くためにお金を稼ぎます。

 そのお金で食べ物を買ったり、身なりを整えたり、住む場所にお金を払ったりします。

 だから、余裕があっても無駄にお金は払わない、と習いましたが、今の人間は価値観も変わって来ているのでしょうか。



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