126 閑話・精霊たちの事情 ―精霊side―

 精霊はどこにでもいます。

 小さいものから大きなものまで様々な形の精霊がいます。

 大きさに位階いかいは関係ありません。

 精神生命体たる精霊は大きさなんて自由自在なのです。

 生まれたての精霊が年を重ねれば、どんどん位階が上がる、というわけではありません。生まれ持っての才能も必要になります。その辺りは人間と同じですね。


 高位精霊はほとんどが精霊の里にいます。

 退屈しています。

 影響力の大きい高位精霊は、契約していない限り、人間たちには不干渉といういにしえの誓約があるからです。


 一応、仕事がないわけではありませんが、精霊はたくさんたくさんいますし、仕事をしてどんどん力を付けて行きますので、それを邪魔するわけにもいきません。

 かといって、高位の精霊獣が動かなければならない事態など、世界が未曽有みぞうの危機にさらされた場合ぐらいしかありません。

 だから、高位精霊は退屈しているのです。

 平和なのはいいことですね。



 高位精霊の大半は眠っています。

 時々起き出して、自由にどこにでも行ける若い精霊たちから色々と話を聞きます。

 ほんの少し眠っている間に、人間の魔法は衰退しているようです。

 精霊をることが出来る【精霊がん】を持つ人間も、随分と数が減りました。


 いえ、人間自体の数が減っていたからですね。

 人間同士で争って殺し合い、魔物が氾濫して大勢の人間が死に、天変地異が起こって日照りが続き、雨が続き、雷が落ち、大規模な山火事が起こり、寒さが続き…とどんどん人間は死んで行きました。

 どうして人間同士が争うのか、精霊たちには理解出来ません。


 中でもまったく理解出来ないのは、耳が長い『エルフ』と呼ばれる亜人です。

 多くの精霊はエルフを嫌っています。

 【精霊魔法】という、とても小さな若い精霊たちを集めて捕まえ、使役する魔法を考え出したからです。

 とても小さな若い精霊たちは自意識が薄いです。だからといって、勝手に捕まえて勝手に使役していいわけがありません。


 しかも、エルフはその小さな若い精霊たちを使い潰し、消してしまいます。

 そう、殺しているのです!なのに、エルフはそれを悪いと思ってもいない性格も悪い人ばかりでした。


 ある時、水の精霊王がその惨状を知り、激怒しました!

 非道なエルフたちの身体から水分を奪うと、エルフたちは干からびました。

 いくら、半精神生命体とはいえ、肉の器から出られない状態で干からびては、生きていられるわけがありません。


 火の精霊王がその干からびた遺体を燃やし、風の精霊王が残った灰を風で押し流し、土の精霊王が地の底へと沈めました。どうやっても復活出来ないように念入りに。


 エルフの数はかなり減りました。

 また精霊王を激怒させてしまうのを畏れたのか、子孫を増やすこともなくなりました。

 細々でも何百年後の今も生き残っていること自体が業腹ですが、滅ぼしてしまうのは何かマズイらしいので仕方ありません。



 長い時を生きる精霊は本来は寛容なのですよ?

 そこにつけ込んだエルフが悪いのです。

 【精霊魔法】も強制的に捕まえて使役するものではなく、「魔力と引き替えに手伝ってくれたら嬉しいな」程度のかなりささやかなものになったので、仕方なく許容しています。

 後は個人的にどう思うか、ですからね。

 たとえエルフでも、中にはいいエルフもいますから。

 本当に少数ですけど。本当に本当に少数ですけど!



 ******



 精霊は人間からたまに召喚されます。

 波長が合う精霊に自動的に『ゲート』が開きます。

 「『使い魔』として手伝ってくれないかな?」という打診です。

 利己的に大きな力を求める者、世界を壊しそうな者には召喚が出来ないようになっています。危ないですからね。


 奴隷のような主従関係を求める者なんて論外です。

 あくまで『暇だから力を貸してあげる』であって、奴隷になりたいわけではありません。

 使い魔契約した後で方向性が合わない、性格が合わない、と分かれば、そこで契約は終了です。

 使い魔契約は人間からも精霊からも、どちらからも簡単に破棄出来るものです。



 高位精霊は滅多に召喚されません。

 強い力を持つ高位精霊は、それだけでか弱い人間の害になることもあるからです。

 強い人間にしか召喚出来ませんが、滅多にいないので高位精霊たちは退屈しているのです。



 長い時を生きる高位精霊ですので、人間と契約したことのある高位精霊が四割程います。

 契約者はやはり強い人間ばかりでした。

 精霊に頼むのは戦闘のサポートばかりですが、中には精霊に頼り切りで自滅した契約者もいました。


 人間には文化があるのですから、もっと面白いことを頼む契約者がいてもいいと精霊たちは思うのですが、あいにくと、せっかく召喚した精霊に戦闘以外を頼む契約主はほとんどいませんでした。


 落ちた橋を土魔法でかけ直す、崩れた家の替わりに土魔法の家を建てる、濁った井戸水を水魔法でキレイにする、そういった頼まれ事もありましたが、本当に極少数でした。

 精霊はもっと色々出来るのですが、人間が知らないので仕方ないかもしれません。精霊も訊かれないので言いませんしね。



 そうそう!

 精霊と人間は意思疎通が出来るのです。

 言葉が違うので『念話』というイメージを伝え合うだけですが、それで何となく伝わります。

 精霊の中でも特に長生きしている高位精霊は、人間の言葉を覚えているので、もっと意思疎通はスムーズに出来ます。


 実は人間の言葉が話せる精霊もいます。

 何十年、何百年と眠っていることも多い高位精霊は、人間にとってかなり昔の言葉なら話せるのです!

 何故なら、暇で仕方がなかった時に、契約が終了して戻ってきた高位精霊を教師にして「人間の言葉を覚えようブーム」が来たことがあったからです。

 ただし、今の人間には理解出来ません。

 昔の言葉の方が言い回しが難しく、難解だったからです。


 同じ時代の似たような地域に高位精霊と契約出来る人間が複数出れば、今の言葉も覚えられたのでしょうが、召喚自体、中々されません。




――――――――――――――――――――――――――――――

フォロワー1,000人突破感謝!「ベレットの寝室間違い探し!」

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093084253002235


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る