義手冒険者は鍛錬を怠らない
129 ハードな模擬戦なので装備が壊れるのは仕方ない
すぐ死ぬ冒険者の特徴は努力も鍛錬もしない奴である。
かといって、技術を磨き努力すれば死なない、というワケではない。凶悪な魔物や凶悪な人間に立ち向かう勇気や度胸があり、かつ、運にも恵まれていなければ、すぐ死ぬ。
冒険者を何ヶ月かやるだけで、生き残りたい奴はそれを悟り努力する。
新人冒険者や弱そうに見える冒険者に絡む暇で暇で仕方ない連中は、遅かれ早かれ冒険者を引退することになる。職を変えるか命を失うかのどちらかで。
……ということで、エアは休暇中でも鍛錬を怠らず、今朝も早起きして、『ホテルにゃーこや』の敷地内を走っていた。
【エアジェットブーツ】を手に入れてから、移動は遥かに楽になったが、頼り切りでもいざ壊れた、不具合が出た時に感覚が掴めなくて困ることになるので、鍛錬の時は普通の…『にゃーこや』オーナーのシヴァが作った特製の運動靴を履いて走っている。
丈夫なのに素足のように感じるぐらい柔らかいので行動を妨げず、靴底に滑り止めが付いた衝撃吸収素材を使っており、足や膝の負担がかなり軽減されている。特殊な能力付与はされていない。
先日作ってもらったショートブーツ、膝下ブーツも履き慣らすために時々変えている。
素の身体を鍛えないと、身体強化をかけた時に身体を壊し兼ねないし、解いた時の反動が大きくなるので、土台をしっかりさせないとならない。
まぁ、身体強化をかけていなくても、エアのステータスはとっくにかなり高いので、本気で走ると、他者からはスキルを使った瞬間移動に見えるかもしれない。
【はやっ!エア、はやすぎだよっ!まって~】
ホテルにゃーこやだと同じ時間に鍛錬するらしいシヴァの従魔、グリフォンのデュークがたまに追いかけて来るが、今日もエアは振り切った。飛んで追いかけて来ていてもエアの方が速いのだ。まだ子供グリフォンなこともあって。
デュークは黄色のクチバシで金目の黒い鷹頭、前足は鳥足、下半身は茶色の毛並みの獅子、手羽に白いラインがある黒い翼、尻尾を除く体長は2.5mぐらいといった一歳半の子供グリフォンだ。
Aランク魔物で強いことで知られているグリフォンなのだが、人間に育てられたグリフォンと人間に育てられたデュークはかなり愛想がよく、かなり賢い。
デュークがしゃべるのは念話を外部にも聞こえるようマジックアイテムを使っているからだった。
エアは猫型精霊獣六体と使い魔契約をしてから、一緒に鍛錬しているが、さすが、高位精霊獣たちはデュークと違い、余裕でついて来る。普段は猫、子猫サイズだが、今は一番動き易い体長3mぐらいになっている。
では、とにゃーこやの地下、と言い張ってる別空間に影転移して、身体強化をかけて走るとさすがに四体が脱落、金目ブルーグリーンの風の精霊獣のシエロ、緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータだけはついて来た。ニキータは影転移しているが、持ち前の能力を使っているのはシエロもエアも同じだ。
エアは影転移までは使わない。
わざわざ地下まで来ているのは、身体強化をかけて走ると、さすがに地面が荒れるからである。それでも、ここに来るのは自動修復だからだ。
実はダンジョンなので。
そして、各種武器の素振りをしてから模擬戦。
ここには海も川も滝も草原も森もあるので、色んな状況を想定した鍛錬にもってこいなのだ!
精霊獣たちとの手合わせは、さすがに一体ずつでお願いしている。
精霊獣たちはちゃんと戦う時も体長3mぐらいで、もっと大きくなることも可能だが、大きくなればなる程、機動力が失われるのは精霊獣でも同じらしい。
今日は海中戦で金目水色の水の精霊獣のクラウンと模擬戦をやったが、水中装備があってもさすがに辛かった……。
人間って泳がなくても本当に浮くんだな、と改めて勉強になったぐらいである。
ぐったりと力が抜けたエアを運んだのはやはりクラウンで、砂浜からは金目金茶トラ柄の土の精霊獣のロビン、ビーチチェアに寝かせて身体と髪を乾かしたのは金目ブルーグリーンの風の精霊獣のシエロ。
更に、【クリーン】と【浄化】をかけて身体や装備を綺麗にしてくれたのは、金目銀色の子猫型、光の精霊獣のルーチェ。
ビーチ担当のにゃーこに飲み物をもらって来てくれたのが金目真紅の火の精霊獣のロッソだ。
最後に緑目夜色の子猫型、影の精霊獣ニキータが、ポンポンとエアの頭を軽く叩いて慰める。
一朝一夕で精霊獣たちに勝てるとは思ってないので、負けたことではなく……。
「シヴァに強化してもらうかな…」
エアが嘆くのは水中装備をまた壊してしまったことだ。
元はダンジョンドロップでシヴァに強化してもらった装備なのだが、エアが錬金術で何度か直して強化をしていても、水に強い耐久性のある素材がよく分からないので、何度も壊れているのだと思う。
ハードな模擬戦なので装備が壊れるのは仕方ないにしても、もう少し保たないものか。
取りあえず、水中装備は【チェンジ】でしまい、涼しい普段着に着替えた。
よく冷えた果実水を飲みつつ、転がっていると、【回復リング】のおかげで傷も体力も魔力も次第に回復して来た。
精霊獣たちと模擬戦するのは、伊達に長命じゃないので「そういった使い方するのか!」と勉強になることも多いのだが、かなりかなりハードだった。
ちょっとやそっとじゃやられない人間だと、よく分かって来たらしく、手加減もあまりされてないような気がする……。
朝の鍛錬が終わり、動けるようになると、大浴場へ影転移。
温泉の朝風呂は格別なのだ!
精霊獣たちも温泉は気に入ってるらしく、思い思いに浸かってたり、泳いでたり、浮いてたり、お湯をかけ合ったり、と楽しんでいる。
他の客がいる時はおとなしくしているので、ちゃんと
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