130 ついでに引率をしてやって

 朝風呂の後、エアと精霊獣たちは食堂に移動して朝食にする。

 妹のアイリスは低血圧なので、中々起きて来ないので別である。

 客も早起きして鍛錬する、遊ぶタイプの客はいないので、ほとんどエアたちの貸し切りだ。

 従業員たちにも「おかまいなく」と伝えてあるので、エアに合わせて無理に早起きしない。食堂担当のにゃーこがいれば、元々事足りる。


 配膳や給仕をされたい貴族や有力者なら文句を言うかもしれないが、どうしても欲しいのなら個性があるもふもふ猫型二足歩行ゴーレムのにゃーこが出来る。

 サイズは小柄な人間ぐらいで、人間の言葉はしゃべらず、にゃーと鳴くのみ。人間の言葉は理解しており、かなり器用で学習能力もあるので料理ぐらいは普通に出来る。

 食堂での従業員たちはあくまで補助な感じなのだ。


 ここのホテルのコンセプトが『遊べるホテルステイ』なので、客に付き添って、あれこれ説明し、時には一緒に遊ぶのが大半は子供の従業員たちの主な仕事なのである。

 なので、客の希望は公序良俗に反しない限り、かなりの融通が利く。

 あくまでホテル内では、であり、「街を案内して欲しい」は却下だ。

 シヴァが育ててるだけあって、色艶よく小奇麗な容姿、姿勢よく礼儀正しく、知識もマナーもバッチリなので、貴族や有力者に小姓や侍女やメイドに欲しがられるのも無理もない。



 朝食メニューはAセットBセットと日替わりで二種類あるが、他の料理も何でも頼める。種族や生活習慣によっても食べるものが違うから、だとか。

 エアは別にこだわりがないので、A、Bのどちらか朝食メニューを頼む。毎日違うので精霊獣たちも文句はなさそうだが、どちらかは精霊獣本人…精霊獣自身が頼む。


 エアは今日はAセットにした。煮魚(バリナスマス)、根菜とオークの煮物、だし巻き玉子、味噌汁、ご飯、漬物といったバランスがいい朝食だ。ご飯と味噌汁はお替りし放題。

 しかし、エアはVIPパス持ちのVIP客なので、元々食事を含めて何でも無料である。

 期限がないというのもすごいが、全部無料でこうも待遇がいいのも居心地が悪いので、たびたびレア食材を色々と差し入れているワケだ。


 朝食後は食休みついでに、サロン&図書室でまったり。

 ここのソファーも座り心地がいいし、街ガイドや各地の写真集がちゃんと本に装丁されてたくさん置いてあり、見ているだけでも楽しいのだ。マルチタブレットでも見れるのだが、やたらな場所では使えないし、エアは本の形式の方が好きである。

 気に入った本は格安で買えるのでその辺りもいい。フルカラーの本は染料も多く使うのでもっと高いと思うのだが、そう高くしても買う人がいない、という配慮なのかもしれない。


 エアがまったりしてるうちに、従業員たちが出勤し、アイリスや他の客も起きて来る。

 サロンは飲食禁止なので、エアは欲しい本を買ってからアイリスと一緒に食堂に移動する。

 アイリスは朝食を、エアは早めのティータイム。

 そして、飲み食いしつつ、今日の予定を決める。

 ホテルにゃーこやに滞在してそろそろ二週間半。

 一ヶ月ぐらいゆっくり遊ぼうか、というものすごくざっくりとした予定しか決めてないので、延長してもいいし、他の街へ行ってもいい。

 影転移で短時間で移動出来るようになったので、行動範囲がかなり広がってるのだ。


 ******


「あ、そろそろ一ヶ月か。納品依頼でもこなしとくかな」


 前回納品依頼を達成してから一ヶ月ぐらい。

 Cランクなら三ヶ月以内に依頼を受ければいいが、何が起こるか分からない冒険者なので余裕を持たせておいた方がいい。

 そこに、シヴァが食堂に入って来た。


「よし、ナイスタイミング!エア、ついでに冒険者もやってるウチの従業員とバロンの引率をしてやって。ビアラークダンジョン」


 エアのつぶやきがシヴァにも聞こえたらしい。

 バロンもシヴァの従魔でシャドーパンサーだ。

 バロンは深緑の毛皮に銀の斑点模様、金目ですらりとしたスタイルで、かなり強そうなのだが、【影転移】で従業員たちを運んだり、影の中に潜んで護衛していることもあるので可愛がられている。


「リミトたち?何人?」


 シヴァの後ろから私服のリミトが顔を出した。

 エアが初めて会ったにゃーこやの従業員がリミトとサーシェ、そしてデュークだ。もう一人大人のルトベナールを加えて。エレナーダダンジョン43階のセーフティルームでのことである。


「Dランクのリミトとサーシェ。まだ登録年齢に達してないマシューとリオンも浅層なら大丈夫だ。バロンは転移ポイント登録ついでに。報酬は…結界魔法のスクロール。レクチャー付きでどうだ」


 エアがまだ覚えてない魔法をシヴァが報酬に挙げて来た。


「プラス水中装備の強化方法も教えてくれ。で、泊まり?」


「取りあえず、日帰りで」


「Bさん、無茶振りじゃない?前に言ってた食材たっぷりのダンジョンでしょ?お隣のエイブル国って言ってなかった?」


 シヴァは従業員たちに『オーナー』だけではなく『Bさん』とも呼ばれている。従業員たちを一斉に雇った時、覚え易いように。

 『Aさん』はアカネである。


「おう。王都エレナーダの南東、ビアラークの街の街中にあるダンジョン。でも、無茶振りはしてねぇって。エア、影転移の距離が伸びたからここから十五分ぐらいで行けるって言ってたし」


「ニーベルングダンジョンまではな。プラス五分…もかからないか。今だと」


「にゃ!」


 まかせて、とばかりに影の精霊獣のニキータが左手…左前足を挙げた。

 エアとニキータが協力すると、【影転移】の距離が伸びるのだ!

 そうなると、アイリスは連れて行けないので、ホテルで遊んでてもらう。今日のアイリスの護衛は光の精霊獣のルーチェである。


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