211 前足でぺしっと馬車をふっ飛ばす

 馬車は本当に派手に転がっていた。

 車輪がくぼみにハマり、坂道で勢いが付いたことで車輪が外れ馬車も道から外れ、木に激突。その衝撃で乗っていた人と荷物が投げ出され怪我したのだろう。

 護衛も馬に乗っていたようで、護衛の人数分いた。五人と五頭だ。報告に来たもう一人を合わせて六人。商人一人二頭立ての荷馬車で短期の護衛なら、このぐらいの人数だろう。


 エアは別に認識阻害もかけてないし、気配も殺してないのだが、護衛たちが見える所まで近寄っても全然気付いていなかったのは、護衛失格だ。

 やっと気付いた護衛にエアは軽く手を挙げ、依頼票を見せつつ依頼内容を説明し、副会頭に一筆書いてもらった手紙と預かったポーションを渡す。

 番頭が胡散臭うさんくさそうに見て来た。


「おい!本当に馬車が入るような大容量の収納を持ってるのか?カーティスと会ってから来たにしては時間的に早過ぎるし、何でカーティスがいない?馬は?」


 知らせに来た護衛はカーティスと言うらしい。

 番頭が横柄に色々と怪しい所を挙げる。番頭は鑑定スキルを持ってるようだが、エアを鑑定してもレベルが違い過ぎて出来ない。だからこそ、一筆書いてもらったのに、その手紙を読まないのだ。


「まず、そっちの手紙を読めば?」


「ちょっ、番頭さん!疑うのはマジでヤバイって!その人、無茶強い…」


「夜色の髪、鮮やかな緑の目、細身で顔がいいってあの噂のヤバイじゃ…」


 まだ噂になってるのか。いや、話題がないのでいつまでも残っているのか。


 そこで、ニキータが体長5mぐらいになり、前足でぺしっと大破してる馬車をふっ飛ばしつつ影収納に入れた。

 もちろん、大きくなる必要もふっ飛ばす必要はないので、エアが舐められているのが面白くなかったのだろう。


 投げ出された商品や破損した商品もついでに収納してあり、土の精霊獣のロビンが荒れた地面をならしてくれていた。

 仕事は完璧である。


「ありがとな」


 大きな顔を寄せて来たニキータをエアが撫でつつ魔力を渡すと、元通りの猫サイズに戻り、肩に乗って頬にすりすりジャレる。腕に乗って来たロビンも撫でて魔力を渡した。

 番頭と護衛たちは呆然としたままだ。


「グダグダとくだらんことにこだわって、時間を無駄にしたいのなら勝手にすればいい」


 馬車と荷物を運べば依頼達成なので、別に疑われていても構わない。

 エアたちは番頭たちの目の前で飛び上がり、そのまま、飛んで街に戻った。認識阻害は途中でオンにして、商店の側に来てからオフにする。

 副会頭は早過ぎることには驚いていたが、すぐに馬車は裏に出して欲しいと言われたので、そちらへ出した。


「あー聞いてた通り、派手に壊れたな。番頭の怪我はどうだった?」


 敬語はいらない、とエアが言ったので、普段の口調に戻っていた。


「さぁ?手紙を読まずに、おれを疑う余裕ぐらいはあったぞ」


 エアがそう言うと、副会頭は驚きで目を剥いた。


「…それは申し訳ないことをした。後で謝らせ…」


 話だけですんなりと納得する辺り、番頭は前から人の見た目で偏見を持ち、軽はずみな行動も多いのだろう。


「いらない。そっちが大事な商機を逃しただけだ」


 誰が貸しマジック収納屋のオーナーか、露店でマジックペーパーやポケット型収納を安価で出していたのは誰か、もうとうに噂になってそうだが、やはり、信じていないのかもしれない。


 依頼完了サインをもらうと、エアたちはさっさとギルドへ行き、依頼達成手続きをして報酬をもらった。

 宿泊料金程度は稼げたので、雑用にしては中々割がいい仕事だった。


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