210 その依頼、受けようか?

 久々にキーラの街の温泉と料理を楽しみたいので、エアはいつもの奥まった高台にある宿に部屋を取ると、猫型精霊獣たちと市場で食べ歩いた。

 少し来ない間に知らない料理が増えていた。

 しっとりジューシーな白いソーセージや豆を揚げて甘辛く和えたもの、甘酸っぱいスープ。

 白いソーセージは卵白を入れて低温で蒸すことで、白くなるそうだ。日持ちはしないそうだが、時間停止収納があるエアには関係ない。

 熱々でしっとりして美味しかったので、今度作ってみよう。


 緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータと金目金茶トラ猫型の土の精霊獣のロビンはキーラの街に来たことがあるが、金目ブルーグリーン猫型の風の精霊獣のシエロ、金目真紅猫型の火の精霊獣のロッソ、金目銀色子猫型の光の精霊獣のルーチェ、金目水色猫型の水の精霊獣のクラウンは初めてなので、大いに楽しんでいた。


 お昼よりまだ少し早いが、その時間から開く店も多い。

 街の人たちも猫型精霊獣たちに好意的で、色々とオマケもしてくれた。

 前に来た時に美味しかった食堂は今日も盛況で、もう行列が出来ていたが、まだ短いうちに並んで食べた。新作のタレが出ていたので、そちらもしっかりと購入する。


 どの街からも割と距離があり、山の上にある立地が悪い温泉街でも、わざわざ客が来るのは、この料理の美味さと新商品開発の熱心さが大いに関係あるだろう。

 食後、冒険者ギルドへ寄って依頼や情報チェックをしたが、面白そうな依頼はなかった。


 アリョーシャの街のハーピーの大群討伐の緊急依頼を達成してから一ヶ月ちょい。

 その時の報酬も口座に入っていたので、ようやく、落ち着いたのだろう。思ったより多いが、物資も出してるので、まぁ、相応か。

 Cランク冒険者は三ヶ月以内に一つは依頼を受ける規定なので、まだ大丈夫なものの、エアは焦って依頼を受けるのは好きじゃない。


 近々、他の街で依頼を受けるにしても、生活雑貨を買い足しておこう、とエアたちが商店が並ぶ通りに行って買い物していると、男が慌てて店に入って来た。


「大変だ!馬車が壊れた!山道の半ばぐらいで馬車の車輪が窪みにハマって。番頭さんも怪我した!至急、ポーションと替わりの馬車と商品を手配してくれ、とのこと。幸い馬は無事」


 隊商専属の護衛の冒険者らしき男がそう伝えた。


「…はぁああっ?さっき出たばかりだろ。商品はどのぐらいダメになった?」


「四割ぐらいじゃないかと。なんせ、坂道で勢いが付いてたから」


 山道は相変わらず、何度か整備をしても、行き来するうちにえぐれてしまうらしい。土魔法使いが固めた道ばかりではないし、そんな予算がないこともあるのだろう。

 ヘタに固めても、今度は雨の日や湿気の多い時に車輪が滑って登れなくなってしまうのだ。


「それなら出直した方が早いが……壊れた馬車もダメになった物も放置しとくワケにも行かないし……。冒険者ギルドに容量の大きいマジックバッグを持った冒険者に、手伝って欲しいと依頼を出すしかないか」


「って、いるかぁ?馬車まで入るそんな大容量のマジックバッグ持ちなら、この街には来ないだろ。ダンジョンが近くにないし」


「荷物だけでも何人かで手分けしてもらう。人力で運ぶよりはまだ費用は抑えられるハズだ。…ああ、お客さん、悪いな。ちょっと立て込んでて」


 少し偉い立場らしい店員は、エアが持っていた商品を手早く精算した。


「構わない。居合わせついでに、その依頼、受けようか?おれなら一人で済む」


「え、大容量のマジックバッグ持ちなんだ?」


「いや、収納スキル持ちだ。このニキータが」


「……猫?」


「精霊獣」


「……あっ!イルーオからアリョーシャまで走ってたカラフルな大猫か?サイズが変わるんだよな?」


「そう。やっぱ、噂になってるか」


 まだ一ヶ月半弱しか経っていない。商人たちは情報が命だ。


「どうかよろしくお願いします!じゃ、今からギルドで手続きを」


 店は他の店員に任せ、護衛の冒険者も一緒にそう離れていない冒険者ギルドへ移動し、依頼受注手続きをした。

 報酬はそこまで高くなくていいのでそこそこで。

 依頼票があるが、一応、少し偉い店員…副会頭に一筆書いてもらった。


「え?おれも一緒に行くから、そんなのは…」


「馬でもついて来れないぞ。精霊獣たちも乗せるの嫌みたいだし」


 出発したばかりなのに小汚く臭う冒険者は、精霊獣たちじゃなくても嫌がるだろう。エアも嫌だ。生活魔法の【クリーン】が使えるのに、何故か使わない人とは気が合いそうにない。

 馬車と荷物を運ぶだけの依頼なので人は運ばない。馬は無事だそうだから、分乗すればいいだけだ。


「…え?え?」


 護衛が面食らってる間に、一筆をもらったエアたちはさっさと出発した。

 相手の名前と人数は聞いているし、馬車が壊れているので間違えようがないし、探知に既にひっかかっていた。

 蛇行する山道を道なりに進むのはだるいので、ショートカットして行く。…とはいえ、空は飛んでない。木々を蹴って飛び移って行ったのだ。

 果実や木の実があったので適度に採取もした。


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