192 特殊個体検証 ―にゃーこやside―

 バラバラにしても再生する程、再生能力の高い魔物の代表はスライム。

 水系魔物は再生能力が高い傾向があり、その生態は多種多様。生息域の環境にも影響されるため、複数属性魔物も多く、特殊個体も生まれ易い。

 こういった研究成果を記した書類は、数十年で失われることが多く、また最初から研究をやり直すため、この程度しか分かっていない。

 ――人間側は。


 魔力が多過ぎると荒れ狂い天変地異を引き起こし、バランスを崩す程の多くの魔物を生み出してしまう。その対策として神が創ったのがダンジョンだ。

 魔力を吸収し、厳しい環境ばかりのこの世界で生き残れるよう人類を鍛え、また、食料素材貯蔵庫としても存在する。

 そのことを大半の人類は忘れてしまったが、歴史の古い国の文献には残っていた。ただし、研究する者がいなくなってるため、信憑性が怪しいとされている。


 ダンジョンの存在意義を『にゃーこや』店長のシヴァが知ったのは、ダンジョンマスターになってからだった。

 人間の歴史より遥かに長く存在するダンジョンもあるため、基本情報はどのダンジョンにも共有されていたのだ。

 そういった情報の中に魔物についての情報もある。ドロップで出た【魔物図鑑】より、もう少し詳しい情報だ。


 だから、シヴァはコアたちと一緒に特殊個体の【スカージハーピー】を調べることで、そこそこ詳しく分かると思っていたのだが。


「でたらめ過ぎだろ、こいつ!」


 腹立つ程、分からないことばかりだった!

 しかも、部位ごとに属性が違うのだ!


 たとえば、右足中指が火、右足親指が水。こんなに近い部位で属性がほぼ正反対って何なんだろう?反発しそうなのに、してない辺り、物理法則ではなく、魔法や不可思議な力が働いてる、としか分からない。


 まぁ、そもそも、魔物自体、物質化しているんだか、していないんだか、よく分からない生き物なのだが。


 スカージハーピーは全体を凍らせたまま、あちこちを小さく切り取り、それから解凍しても再生する。

 プラナリアのように真っ二つに切断すると、二匹になって甦る、のではなく、切り取った部位が周囲の魔力を吸収してどんどん大きくなり、他の部位ともくっつこうとし…といった再生だったが、そのまま観察をいていれば、脳のように考える部位まで出来そうだったので破棄した。

 一匹でも不可解なことばかりなのに、さすがに危険過ぎる。



 思い付く限り、色々と実験した結果、こんな再生特化の特殊個体が生まれたのは、偶然だけではなく、生き残るための生存本能で行動し、ハーピーと再生能力が高い水系魔物、他にも色んな魔物を吸収し、進化?退化?した結果、特殊個体になったのは分かった。

 あちこちに既存の魔物の組織片や特性が見つかったのだ。

 生き物としては不安定な微妙なバランスなので、放っておいても崩壊して自滅しそうだが、その間の被害は相当酷いものになることだろう。

 素材の利用は出来ない、再生能力研究の参考にもならない、というのが分かっただけでもよかった。

 

 結界でも隔離した影収納に特殊個体のスカージハービーを解凍して放置しておけば、誰にも迷惑をかけずに経過観察が出来るので、そうすることにした。

 当然、資料として映像は残す。



「【寄生】のユニークスキル持ちのゲラーチが格上レベルの奴にもスキルが使えたのなら、もっと研究は進んだかもしれねぇのに」


 スカージハーピー観察セットの魔道具やマジックアイテムを作りながら、シヴァはボヤく。

 ゲラーチはエアの元パーティメンバーで、エアに【寄生】スキルを使っていたせいで、エアは左手を失い死にかけた。ステータスの三割も奪われていた状況で、生き残っただけでもすごい。


 そして、その後、エアは頑張って強くなり、快適生活をしているため、ゲラーチなんかどうでもよくなり、シヴァがもらったワケだ。

 クズな性根は『因果応報薬』のおかげで、かなりマシになって来たが、まだ反省なんかしてない辺り、しぶとかった。

 ここまでクズならクズで、似たようなクズの集団に潜入させた際、まったく疑われなさそうだから、これはこれで。


【同感ですが、こういった特殊スキルは制限も多いですしね。もし、スカージハーピーに【寄生】が使えた場合、一割程度でも肉体が負荷に耐えられず爆発するのではないでしょうか】


 シヴァと一緒に色々と研究しているダンジョンコアの一体、キーコがそう答えた。一番最初にキエンダンジョンのダンジョンマスターになり、自宅もあるだけに、コアたちの中ではキーコと一番気心が知れている。


「やっぱり?ゲラーチ、いくら鍛えても、なっかなかレベルが上がらねぇし、肉体強度やステータスも規制がかかってる感じだよな。これもやっぱりユニークスキルのせいか」


【人間の場合、元々の素質が大いに関係あるでしょうしね。それより、マスター、ハーピーの大群、どこから転移で送られて来たのか、判明しましたか?】


 その調査はシヴァの分身たちと他のコアたちが担当していた。


「まだ。意図的にか、事故なのかも不明。ああも大群だったことからして、ダンジョン及び、隔離されたどこかから物質化して召喚された、という推測は出来るけど、手掛かりが少な過ぎるし」


 スカージハーピーも他のハーピーと同じくダンジョンから召喚されたのなら、何故、ダンジョンにいたのだろうか。たまに紛れ込む魔物がいるらしいので、その類なのか、誰かがダンジョンで実験でもしていたのだろうか。

 本当に分からないことが多過ぎだった。


「……あっ!【冒険の書】を改造したらダンジョンにいたかどうかぐらいは分かるんじゃね?」


 シヴァはふと、いいことを思い付いた。

【冒険の書】はすべてのダンジョンの情報がリアルタイムで分かる本だ。

 ダンジョンボス情報だけは詳細不明な仕様だが、どんな魔物が出て来るか、フロアボスのリポップまでの時間、といった情報まで分かる。

 広範囲の異常を調べるよりも、【冒険の書】を改造した方が遥かに早そうだ。

 当然、情報を集める調査は他でも役立つので続行である。

 

【それは名案ですね!】


 …ということで、【冒険の書】を改造することにしたのだが、すべてのダンジョンを網羅しているため、データは膨大。

 まず検索システムから作ることになり、どのダンジョンのハーピーだったか判明するまで、かなり時間がかかることになった。


 結果、推測通り。

 アリョーシャの街を襲ったハーピーの大群は、小国群のダンジョンから召喚されていた。

 誰がどうして召喚したのかはまだ調査不足だが、目論見通りではなかったのは確かだった。

 実験にしても様子も結果も分からないのなら、まったくメリットがないのだから。




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「快適生活の冒険者~禍福転変~」★999感謝!4(大)コマ漫画(31)更新!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093088437248916


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