191 ギルドが仲介に入りますよ

 レグナルとシルヴィと馬三頭を連れてガラノスの街まで移動するのは、予定通りに一時間もかからなかった。

 エアは先導して走り、レグナルとシルヴィは一頭の馬に一緒に乗った。シルヴィは眠らせたので、速度を落とす必要もない。精霊獣たちは猫サイズのまま、レグナルたちを乗せた馬と馬二頭を囲んで走った。


 頼んでいた解体が出来上がったものはエアが収納し、約束した通り、半分は対価に渡す。いい値段が付くのだが、かさばる肉じゃなく、マジックバッグがなくても運び易い角や牙や毛皮を希望したので、そちらで。


 まだ解体途中のものは後回しにする。別にペナルティはなし。

 図体が大きい魔物で、側に吊り下げられる程の木もなく、身体強化を使える者も少ない低ランク冒険者たちでは扱い難い、という辺りをエアが考慮しなかったので。


 他の街から来た隊商も到着しており、入街審査が始まっていたので、エアはレグナルたちを街の中へと連れて行った。

 ちゃんと話は通っており、第二番隊隊長補佐のホルストの名前を出すこともなく入街審査を優先されほぼ素通りだった。猫型精霊獣パスである。

 エアたちのやり取りを見ていた警備兵が担当していたこともあるが、大きくなったニキータの印象も強かったのだろう。


 まず、シルヴィと馬三頭をシルヴィの母親と祖父の家に連れて行った。

 シルヴィの母親と祖父にレグナルが事情を説明したが、いきなりのことだったので半信半疑だった。

 シルヴィが泣きながら抱きついたので、何かあったのは分かるだろうが、ハーピーに襲われた証拠は何もなく、ガラノスの冒険者ギルドもどこまで状況を把握しているのかも分からない。また後日話し合うことになるだろう。

 

 隊商の護衛依頼を受けたレグナルは依頼失敗にはなるが、こういった街にも被害が出ている大きめの魔物災害の場合はやむを得ないと判断され、特にペナルティはない。

 しかし、そう判断されるまでには調査も必要なのでどうしても時間がかかる。



 その後、エアとレグナルは冒険者ギルドへ行った。

 猫サイズのカラフルな精霊獣たちがエアの周囲にいるので、どうしても目立つが、アリョーシャの街から情報が来ているのなら、その方がいい。


 冒険者ギルドは混み合っており、「ハーピーが…」「アリョーシャ…」「大群だった」という単語が飛び交っているので、アリョーシャの街からの情報はちゃんと来ているようだ。

 まず、レグナルは自分の口座から金を引き出し、エアに依頼料を払った。

 そして、受付職員にレグナルが事情を話した後、エアが補足と追加情報を話し、回収した荷物の確認をするために、空いてる部屋を借りた。


 壊れたマジックバッグは中身が周辺に散乱していたので中身が分かっているが、壊れていないマジックバッグはどれだけ入っているのか予想出来ない。鑑定モノクルでもマジックバッグの容量までは出ないのだ。

 拾ったマジックバッグはエアのものだが、中の荷物を入れたのはエアではないので【チェンジ】でも中身は分からない。

 中身を全部出して確認しないとならない。


 エアたちはギルド職員に借りた部屋に案内してもらった。

 知ってる・見覚えがある物もあるかもしれないので、レグナルも立ち会うが、一応、職員も立ち会ってくれるらしい。

 

 予備の机も置いてあったが、まだいらない。

 エアは防水シートを床に敷いた後、マジックバッグをひっくり返す。

 食材、衣類、木の食器、雑貨、と同じ物がたくさんあることからして、売り物らしい。高額商品だけ机の上に置く。

 そして、ギルドカードも見付かった。

 マジックバッグを持っている商人となると、中規模以上の店を持つ会頭、及び幹部、或いは冒険者になるが……レグナルの依頼主であり、シルヴィの父親のものだった。


「じゃ、シルヴィの母親に買い取ってもらうか」


 既に所有権はエアにある。前の持ち主の遺族が買い取る場合でも、相場価格で、というのはギルドの規定で決まっている。

 「荷物を狙って殺したんだろ!」などと言いがかりを付けたり、逆に拾得した方が高い価格を付けたりして揉めることが多いので、遺族に買い取りを持ちかけるのをやめる冒険者も多いが……。


「え、いいのか?揉めそうだぞ。おれの話も信じてなさそうだったし」


「精霊獣を六体も連れた冒険者と?」


 エアだけだと舐められるだろうが、頼もしい精霊獣仲間たちがいるので、余程のバカじゃない限り、敵対しようとは思うまい。

 希少なものを見定めるのが商人で、強欲商人もいるが、当然ながら命の方が大事だ。


「ないか」


「よろしければ、ギルドが仲介に入りますよ。もちろん、手数料はかかりますが、ギルドを挟むのなら先方も分割払いが可能になりますから、買い取る資金がない、と諦めずに済みます。それに、エアさんもこの街に留まる必要がなく、買い取ったお金はギルド手数料を抜いての口座振り込みで完了です。冒険者ギルドの口座でも大丈夫です」


 ギルド職員がそんな提案をした。

 そういったサービスもあったのか。揉めたことがある人じゃないと、知らないのだろう。


「それは助かる。じゃ、よろしく頼む」


 ギルドの仲介を頼むとはいえ、マジックバッグの中身のリストは作らないとならないので、早速、ギルド職員とレグナルと手分けしてリストを作成した。高額の物を机に置く。

 ギルドの仲介の手続き書類もついでに作る。

 依頼が終了しているレグナルはシルヴィの自宅住所を教えた後はもう関係ないのだが、特に用事もないそうでつき合ってくれたワケだ。


 しかし、この後、レグナルは宿を確保しないとならない。

 拠点移動ついでに受けた依頼で、既に宿を引き払っていたそうだ。

 パーティメンバーも亡くなっている確率が高いので、今後のことも考えないとならないが、レグナルはCランク冒険者なので、欲しいパーティはいくらでもいるだろう。

 もちろん、しばらく休業しても、ソロで活動しても、拠点を移すのも自由だ。


「じゃ、またどこかで」


 定番の言葉で冒険者ギルドの前でレグナルト別れたエアは、再び街の外へ移動した。影転移ではなく、ちゃんと門を通って。


 さすがに解体は全部終わっていた。

 低ランク冒険者だと、ギルドに頼まず、自分で魔物を解体することが多いので、自然と解体の腕前が上がる。

 だからこそ、エアは解体を頼んだのだが、期待は裏切られなかった。

 こちらの冒険者たちも、かさばる肉より角や牙や皮の方を希望したので、そちらで報酬を払った。


「あ、そういえば、この魔物たちって全然、傷がなかったんだけど、どうやって倒したんだ?」


「倒してない。拾った。少し前、もっと北の方で大雨で冠水した時、雷が落ちてたくさんの魔物が感電で死んだ。氷魔法で冷凍してあったから傷んでないだけだ」


 そういったことにしておく。時間停止収納は滅多に持っている人はいない。収納スキル持ちでも時間停止ではない人が大半だと聞く。調べようがないのでそう言ってるだけかもしれず、実態は謎だ。


「え、感電……って、あんたは何で無事?長く水に浸かってたんなら、これ程、状態がいいワケがないから近くにいたんだろ?」


「土魔法で避難所を作って避難してたから。中が濡れてなければ、電気は通らないからな」


「あ、やっぱ、魔法使いなんだな」


 体格に恵まれていないCランク冒険者は、魔法使いだと思うらしい。


「いや、避難所を作ったのはうちの精霊獣。おれはどちらかと言えば剣士。槍も使うけど」


「……テイマーとか召喚士?」


「ほぼ物理攻撃特化」


「えー?その体格なのに?」


「見た目での偏見を持たない方がいいぞ」


 軽く忠告した後、エアはもう用事がないので、空へと飛び上がった。

 足場結界を蹴って加速してから、認識阻害をオンにし、再びアリョーシャの街方面へと向かう。

 影転移で短時間で戻れるのだが、結局、ハーピーの大群がどこから来たのか分からないので、念のため、周辺を見て回って行こうと思ったのである。


 転移ポイントを置いたので、ガラノスの街へはすぐに来れる。また落ち着いた頃に食べ歩きに来よう。


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