231 闇に呑まれた後… ―ユカーナとその周囲side―

 憎い!

 憎い!

 憎い!

 許さない!

 許さない!

 許さない!

 絶対に許さない!


 ああ…闇が集まり、どんどん力が湧いて来る。

 そう、これが求めていた力。わたし本来の力。

 わたしをバカにした奴らは全員、殺してやる。

 いくら強くても、あっさり殺してやる。

 今のわたしにはそれだけの力があるのだ!

 ああ…でも、あっさり殺してやるのはつまらないかも。

 なぶって嬲って、這いつくばって頭を地面に押し付けて、泣き叫んで許しを乞う、命乞いをする。そんな姿が見たい!


 手足を折って、引き千切って、目をえぐり、鼻をもぎ、腹をかっさばき、内臓を引きずり出そう。どの辺りで死ぬだろうか。

 ふふふふふっ、楽しい。楽しい!

 力があふれて来る。

 もっと、もっと、力をちょうだい!

 ああ…こんなに力があるのなら何でも出来そう。


 目で見なくても周囲に何があるのか分かるようになった。

 では、探そう。

 どこにいる?

 わたしを空に放り投げたあの男。

 成人しているのか怪しい若さで細身で背も高くないのに、バカ力な男。獣人の特徴はなかったが、先祖にいるのかもしれない。

 ああ、そういえば、顔が分からなかった。

 ゴツイフレームの色付きゴーグルをかけていて、髪も身体も砂が付いていた。砂漠から戻って来た人なら普通。

 しかし、どことなく何か違和感がある。

 

 ……そうか、分かった。

 それなりの冒険者なら、ちゃんと身綺麗にしているからか。

 生活魔法の【クリーン】は使えて当然で、その練度を高めると、洗濯なんかしなくても【クリーン】だけでキレイになると聞く。

 そうじゃなくても、汚れたままにしておくと装備は傷み易い。

 まして、砂漠の砂は細かいだけに鞘に入り込むと、剣がしまえなくなる。

 なのに、あの男はそのままだった。……いや、本当にそうだっただろうか。髪や服程、砂が付いてなかったような気も……。


 

 日が暮れると更に力が増したのが分かった。

 あの男の居場所も分かった。

 稼いでいる商人御用達の評判のいい高級宿だ。

 そんな所に泊まれる程、稼いでいるのか。

 男の側に何か小さい生き物がわらわらと……。


 ぎゃあぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!


「どこにでもいるな。アンデッドは」


 痛い、痛い!

 何かまぶしい剣で斬られた!

 もう身体はないのに、どうやったの?

 力が消えて行くのが分かる。

 嫌だ。消えない。

 殺すのだ!絶対、殺す!


 あぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!

 きゃあぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!

 また斬られた。

 やめて、やめて!痛い、痛い!


「しぶとい」


 そこで、ぱぁあああああと光が弾けた!

 眩しくて温かいような光。

 痛くはなくても、身体が端から消えて行く!

 ああ……嫌だ。死にたくない……助けて……たすけ……テ……。

 ……………。

 …………。

 ……。

 …。


「さすが、光の精霊獣。エライ、エライ」


 その声を聞いたような気がした後、わたしの意識はなくなった――――――。



 ******



 ユカーナがいなくなった。

 街中での失踪の場合、誘拐の可能性が一番高いが、オアシスの街の場合、砂の上にある街なので、砂の中に生息する魔物にられたという可能性もあった。

 隠密に長ける蟻地獄やサンドゴーレム、溶解液を出す虫系魔物ならほとんど痕跡を残さない。


 貸し騎獣屋の店主シャハトは、悲鳴を聞いたような気がするが、ちょうど客がたくさん来ていて忙しかったし、ユカーナは気を引きたくて大げさに騒ぐことも多かったので、全然気にしてなかった。


 大方、ユカーナにちやほやしていた駆け出し冒険者たちが、ユカーナの怪我を治そうと治療院や病院に連れて行ったのだろう。

 シャハトはそう思った。


 だから、ユカーナが街のどこにもおらず、ちやほやしていた連中は怪我したことすらも知らなかった、と判明したのは数日後だった。そんな後では、魔物に襲われた形跡があるかどうかすら分からない。


「こう言っては何だが、ホッとした。ユカーナは実は妻の連れ子でおれの子じゃない。ああいった何故か上から目線の何様?な性格だから持て余し気味だったんだ」


「……は?何だって?お前の娘だからって色々とやらかしてても大目にみてたんだぞ!そういったことは早く言え」


 ユカーナの父親…義父アントンと貸し騎獣屋の店主シャハトは昔からの友人なのだが、冒険者をやっていたアントンは方々へと行っており、数年、会わなかったこともあったため、店主は義理関係だったとはまったく知らなかった。


「逆だ、逆。だからこそ、中々言えなくてな。物心付く前だからユカーナ自身も知らないんだ。妻によると、年々別れた旦那とそっくりな性格になって来て、何かの呪いでもかけられてるんじゃないかって、気に病んでるし」


「それはまた……」


「妻にとっては実の娘のハズなんだが、見た目も性格もまったく似てないんだ」


 ちやほやされていたユカーナだが、母親のように綺麗な顔をしているワケではなかった。よくいる暗めの茶髪に茶目で顔立ちは十人並み、テイマーとしての能力はまだ不明、戦闘力も低い。多分、胸部の豊かさが人気の原因だろう。


「それは常々思ってた。だから、養女ならかなり納得だったんだがな。それで、ユカーナを探さないつもりか?まぁ、どこを探していいのかも分からんが…」


「そうなんだよな…」


 積極的に探したいワケでもないので、建設的な意見が出るワケがなかった。

 やがて、シャハトの貸し騎獣屋も忙しくなり、何かと取り紛れて行った――――――――。





――――――――――――――――――――――――――――――

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