229 つけ上がり過ぎだろ

 そこに、頭にターバンを巻いた十五歳前後の女が走って来る。

 面倒だと思ったらしく、精霊獣たちがささっと消えた。エア以外の視界から。肩に乗ってる精霊獣以外も至近距離にいるので、もし、見えなくても気配は感じるが。


「ねーおじさん。新しいトカゲ、入った?」


「ああ!すごいぞ。一気に五匹も!」


「それはすごいね!じゃ、今回は三組のパーティの合同で二十人ぐらいで捕まえたの?」


「一人だ」


「え、何の話?捕獲してくれた冒険者の人数の話だよ?」


「だから、この人一人。と、使い魔…あれ?もういない…」


「トカゲの捕獲依頼を受ける冒険者、そんなに多い人数で捕まえるのか?」


 エアはそこが気になったので、さっさと立ち去らずに質問してみた。


「あ、ああ。そうなんだ。魔法で眠らせたり、麻痺させたりしたとしても、連れて来るのが大変だろ。魔物が少ない地域にはトカゲもおらんし。五、六人のパーティで二匹が平均だから二匹で依頼を……って、君、五匹もどうやって連れて来たんだ?」


「さっき見た通り、使い魔が乗って来た。縛り上げてかついで来るか、引きずって来るのなら二匹が限界だろうな。持ち難いから」


 重さではなく。


「担ぐ?」


「って、あんた、出来もしないクセに、何、大口叩いてるの?そんな細っこい身体で担げるワケが……ひっ!」


 女は目を剥いた!

 見せた方が早い、とエアは一番近くにいた野良トカゲの脇腹辺りを右手で掴み、上に持ち上げたのである。砂漠トカゲは外皮が硬いので、握り潰さないよう気を付けるのは多少でいい。


 んん?何か変、とばかりに首を捻っている砂漠トカゲだが、痛くないらしく暴れたりはしない。こういったぼんやりしている所は、ちょっと可愛い。


 砂漠トカゲが可哀想なので人間の上なんかに落とすワケがない。何だか愛着を覚えてしまったトカゲだが、砂漠トカゲを狩るのもさばくのも料理するのも食べるのも、まったく支障はない。

 それとこれとは別、というだけだ。


「見た目の印象だけで舐めてると、後悔するのはそっちだぞ。トカゲが人間の上に落ちてしまうこともあるだろうな。不幸な事故で」


「おい!さっさと謝れ!失礼過ぎだろ!」


 はっ!と我に返った依頼主が、女のターバン頭をひっ掴み、強引に下げさせたが、気が抜けてる状態だったため、踏ん張れず砂の上に転がった。

 チャンス!とばかりに、見えなくなってる精霊獣たちが女に砂をかけて埋める。魔法を使っているワケじゃないので、そう深くは埋まらない。


 エアはゆっくり丁寧に砂漠トカゲを砂の上に降ろした。


「こんなんでよく冒険者を続けていられるな。特殊な街のテイマーだからか?」


 エアが鑑定しなくても、先程の会話からもテイマーだと窺わせる。ショートソードを装備している相手に、平気で突っかかって来るのは血気盛んな冒険者か、ならず者しかいない。


 テイマーの能力は個人差が激しく実に様々だが、この砂漠のオアシスの街なら、砂漠トカゲをテイム出来るのなら重宝されていることだろう。

 騎獣屋で借りなくても野良トカゲを騎獣に出来るし、砂漠周辺の街でも移動手段として使える。万が一の食料としてもいいだろうが、能力の高いテイマーなら砂漠トカゲと同調し、索敵も出来るのかもしれない。

 鳥系魔物の従魔はそうやって索敵したり、情報を集めたりすると聞く。


「ああ。悪かったな。このユカーナは友人の娘なんだが、ここに入り浸ってるうちにテイムスキルが生えてな。つい三ヶ月前に冒険者登録した所で、従魔もまだいないし、他の街にも行ったことがない駆け出し冒険者だから、世間知らずなんだよ。むさ苦しい男より女の方が、というのは誰もが思うから、パーティ勧誘も多くてちやほやされているようで」


 どんな事情があっても、こんなバカがどうなってもエアには関係ないが、血縁でもない依頼主が謝るのはすじ違いだろう。

 身体を砂で埋められている女…ユカーナは、やっと我に返ったらしく、立ち上がろうとしてもがき、砂をかけられて口の中に砂が入ったらしく唾を吐き、エアを見上げて睨む。

 何か変なプライドがあるらしい。

 依頼主が気付き、慌てた。


「こら!何、睨んでるんだ!謝れ!」


「だって、こいつが魔法で埋めてるんでしょ?驚いちゃったけど、さっきのだって幻か見せかけだけだって…ぐぇっ!…ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

 エアはユカーナの襟首を掴んで、砂から出してやった。指一本だけで。

 そのまま、上に放る。5mぐらいで下は砂地。受け身が取れないのなら足ぐらいは折るだろうが、死にはしない。


「つけ上がり過ぎだろ。余程、恵まれた生活をして来たんだな」


 オアシスの街は豊かな街なので、ここで育てば危機感も薄くなるのかもしれない。時々、飛行する魔物の襲撃があっても、冒険者も多いのですぐ討伐される。     

 冒険者どころか、若手も戦える人間も少ない、小さな村の方が余程危険だ。


 ユカーナはやはり受け身を取れず、右足首を折った。

 悲鳴がうるさいので、土魔法で作ったテープを口に貼る。


「警備兵に訴えてもいいぞ。取り合ってくれんだろうけどな」


 エアは振り返り、いい笑顔で親指を立ててる冒険者たち五人に、軽く手を上げた。騎獣を借りに来たらしく、エアが砂漠トカゲを降ろした辺りからやり取りを見ていたのである。

 何かあれば証言をしてくれるだろうが、そうじゃなくても、こうもバカなユカーナが今までやらかしていないワケがない。

 またか、はいはい、が関の山だろう。





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