227 なんて危機感が薄いのやら

 オアシスの街の側は獲物がいない。

 冒険者たちがしょっちゅう魔物を狩っているからだ。

 エアはもっと遠く、北東方面へと借りた砂漠トカゲを走らせた。

 しっかりとギルドでも情報を集めているし、『にゃーこや』店長のシヴァにもらったマルチツールの【タブレット】にも地図が入っており、現在位置もリアルタイムで表示される。

 そもそも、エアには【地図】スキルがあるので、目印が乏しい砂漠でも迷う心配もなかった。


 砂漠トカゲは乾燥地帯を好むとはいえ、水場がないと生きられない。

 だから、向かう先は小さいオアシスが点在している地域だった。

 他の魔物も多いので要注意、とギルドで注意喚起がされている地域だ。


 エアは依頼だけじゃなく、サンドビッグキャンサーも目当てなので、いそうな地域に向かっているワケである。

 索敵しながら進んでいるが、砂の下はワームが多い。

 そのワームをサンドビッグキャンサーも捕食するので生息地域は間違っていないのだが、ワーム類は遭遇してしまうと、しぶとい上、再生スキル持ちの上位種もいたりするし、ロクな素材がないのでウンザリする。


 人目がなくなった時点で、猫型精霊獣たちは姿を現し、エアと一緒に砂漠トカゲに騎乗していた。エアと同じく、トカゲには初めて乗るらしく、楽しそうだった。

 ゴツゴツと硬い皮革で背骨に沿ってつの?背びれ?があるのだが、それが返って滑り止めになるらしい。トカゲ騎獣の尻尾の先まで移動していたりもするが、トカゲは気にしてなさそうだった。体重を消してないようだが、今は猫サイズなので気にならないのか。

 ちなみに、鞍は背びれを潰さない沿った形になっており、相当、重い人じゃない限り、トカゲの背びれが潰れたり、負担になったりはしない。



 ******



「おい、そっちに行ったぞっ!回り込め!」


「言うのが遅い!」


「キラーマンティスが側にいるから、すぐ動けないっつーの!」


「火魔法で燃やせ!」


「当たるワケがねーだろ!動き、速過ぎ!」


「きゃっ!…いたっ!」


 元々チームワークが悪いのか、砂漠に慣れてないのか、パーティを組んで日が浅いのか、後手後手に回っているパーティが苦戦していた。

 狙いは砂漠羊のようだが、サンドキラーマンティスや砂漠サソリといった他の魔物が邪魔している。

 そうこうするうちに、ローブを着ている魔法職らしき女冒険者がトカゲ騎獣から落ちた。

 すぐ立ち上がりかけたが、足首を変に捻ったらしく再び座り込む。


 そこに、チャンス!とばかりに、砂漠の砂の中…女の足元から保護色のワームが!


「きゃああああ~」


 ローブの女は「かぷっ!」とサンドビッグワームの大きな口に食われた。

 口だけで2m以上となると、全長は10mはあるのではないだろうか。

 そんなことを考えながら、エアはトカゲ騎獣から足場結界を作って跳び上がり、方天戟ほうてんげきでザクッとサンドビッグワームの首?まぁ、口から3mぐらいの所で輪切りにしてやり、再びトカゲ騎獣に戻ってまたがった。


 そこで、ようやく、ワームに呑み込まれた女が「でろん」と出て来る。

 長いだけに消化液がある胃はもっと奥の方らしく、ただの唾液?粘液?にまみれているだけで、服や装備は溶けてなかった。


 しぶといワームは輪切りにしても、うねうねとうごめき、切り口から新たな肉が盛り上がって来る。落とした首?からも長い胴体からも。

 【鑑定モノクル】を装着して鑑定すると、再生スキル持ちの上位種エターナルサンドワームだった。

 Cランクなので魔石は欲しいのだが、やっぱり、ワーム種は面倒臭い。


「にゃにゃ!」


 燃やすよ?とばかりに鳴いて来たロッソに、エアは「よろしく」と頼んだのだが……。


「あ」

「にゃ?」


 まだ、側にいた。ワームに数秒だけ食べられ粘液にまみれたローブを着た女冒険者が。

 なんて危機感が薄いのやら。実戦経験も浅そうなのに、色々大変な砂漠に来たのか。

 触りたくないので、風魔法で女冒険者を吹っ飛ばそうとエアは思ったのだが、風の精霊獣のシエロの方が早かった。

 しかも、仲間の冒険者のトカゲ騎獣に乗せてあげた親切さだ。

 女の乗っていたトカゲ騎獣は、しっかりと危機感があったらしく、とっくに走り去っている。


 ボォオオオオオ!

 そこで、青い炎が燃え上がった。

 普通の赤い炎よりも温度が高い、青い炎に包まれたエターナルサンドワームがみるみる縮んで行く。

 さすが、火の精霊獣のロッソ。手際がいい。ちゃんと魔石は残し、エアに放ってくれたのですぐ収納にしまった。

 それを見た女をトカゲ騎獣に乗せた冒険者が、誰が?とばかりに周囲を見回す。


「え?あれ?何で?…って、カリン!ベッタベタなのに触んなよ!さっさと【クリーン】をかけろ!無害だとは限らないんだぞ」


「ごめん!」


「そこの人、悪い!カリンを助けてくれてありがとう!」


「ついでに加勢してくれない?砂漠羊肉依頼なんだけど…」


「却下。ずうずうしい」


 断るエアの声は威嚇の声で遮られた。


「ギャーッ!」


「シャーッ!」


 風の精霊獣シエロと水の精霊獣クラウンである。

 わざわざ5mぐらいまで大きくなっていたので、かなりビビった冒険者たちは逃げて行った。砂漠羊たちは違う方向へ逃げたので最初からやり直しだ。


 エアたちはずうずうしい冒険者たちとは違う方向へと向かった。

 シエロとクラウンが元の猫サイズに戻ると、ちょうど砂漠トカゲの小規模な群れが索敵にひっかかった。





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